まったく成立しない「中米軍用機衝突」事件についての米側の口実

                          劉文宗

海南島付近で発生した中米軍用機衝突事件はアメリカ側が中国の領空、領土の主権に対する意識的におこなったゆゆしい挑発であり、国際法にゆゆしく背く不法行為である。これに対して、アメリカ政府はさまざまな口実で、責任逃れを企んでいる。しかし、そのすべては徒労であり、隠そうとすればするほど明るみになるのである。

一、中国の排他的経済水域の上空は「国際空域」ではない

アメリカ当局の言い方によれば、米軍機はいわゆる「国際空域」を飛行していたのだから、勝手気ままなことができることである。アメリカのこの言い分は成り立たないものである。いわゆる「国際空域」は普通は公海の上空を指すものである。この事件は中国の海南島近くの排他的経済水域の上空で発生したことで、まったく「国際空域」ではない。1982年の「国連海洋法条約」第86条では、公海は「排他的経済水域、領海、内陸河川あるいは群島国の群島水域内のすべての水域を含むものではない」と明確に規定されている。同条約が発効してからは、排他的経済水域は公海の一部分でなくなり、その上空もいわゆる「国際空域」ではなくなった。同条約の第58条第1項では、すべての国は排他的経済水域の上空において「飛行の自由」を享有していると規定されているにもかかわらず、第3項ではすべての国は飛行の自由を行使する場合、「沿岸国の権利と義務を考慮し、また、この部分の規定に反しない限りにおいて、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を順守する」と規定されている。ここに言及されている「沿岸国の権利と義務を考慮する」ことは、第301項で規定されている締約国は同条約に基づいてその権利を行使する場合、「いずれの国の領土保全もしくは政治独立に対して、武力による威嚇や武力の行使を行ってはならず、また「国連憲章」に記載された国際法の原則に該当しない方式で武力による威嚇や武力の使用を行ってはならない」ことである。すなわち、外国の飛行機は沿岸国の主権と国防の安全を侵犯してはならず、沿岸国の軍事情報を偵察することを含めた「飛行の自由」に該当しないすべての不法活動に従事してはならず、その領土の保全、平和の秩序と政治の独立を損なってはならない、とされているのである。また、第58条では、沿岸国は排他的経済水域に対し、この部分に反しない限り、法律・規則を制定することができ、その上第56条に基づき、沿岸国は排他的経済水域において関連権利、管轄権、義務および同条約で規定されている他の権利と義務を有すると規定されている。要するに、沿岸国が排他的経済水域に対し制定した法律・規則とすべての権利、管轄権、義務はその上の空域に及ぶべきものである。「国連海洋法条約」のこれらの規定は公認された国際法準則になり、いかなる国も加入するかどうかを問わず、必ず順守しなければならない。今回の中米軍用機衝突事件の発生の根本的な原因は米国が国際法の関連規定を無視し、「飛行の自由」を乱用し、中国の軍事情報を収集しようと企み、中国の内政に干渉し、中国の領土主権を侵犯しようとした卑劣なねらいにある。

中国の国内法と関係国際民用航空条約もこのことを証明している。中国が1998年に制定した「中華人民共和国の排他的経済水域と大陸棚法」の第11条では、いかなる国も国際法と中華人民共和国の法律・法規を順守する前提の下で、中華人民共和国の排他的経済水域の上空を飛行する自由を享有すると規定している。外国の飛行機が中国の排他的経済水域の上空を飛行する場合、中国の法律・法規を順守しなければ「飛行の自由」といった原則をぶちこわし、中国にはそれに対し「飛行の自由」を剥奪することに至る必要な措置をとる権利があることがわかる。これは公海の上空での「飛行の自由」とは異なるものである。軍用機であれば、問題がさらに深刻になる。1944年にシカゴで制定された「国際民間航空条約」第3条第2項と第3条に基づき、すべての軍用飛行機器は皆国の飛行機器であり、特別な協定を経ずに他の締約国の領土の上空を飛行したり、領土に着陸したりしてはならない。これまでの事実が示しているように、外国の軍用機が領空に進入する前には、沿岸国はそれを監視・追尾し、ひいてはその飛行を制止する権利がある。軍用機は民間航空機と違うため、まだ領海の外部の限界区域に進入していないかぎり、外国の軍用機が領海の境界部の上空に沿って飛行したとしても「合法的である」ということをかたくなに守り通すならば、あまりにも学究肌でありすぎるようであり、いつでも壊滅的な災禍に遭遇する可能性がある。 今回中国の軍用機と衝突したアメリカの飛行機は先端的な電子偵察設備を備え、軍事情報を収集する要員を搭乗させた軍用偵察機で、大陸の奥深くの中心部の軍事機密を探知することができるものである。戦争法空中戦規則の規定に基づき、このような他国の領土の上空を隠蔽、カムフラージュの手段によって地上の軍事情報をかすみ取ることは、実際はスパイ活動であり、「飛行の自由」とか言えたものではない。

アメリカはいわゆる「飛行の自由」という表看板を掲げて他国の領空主権をかってに踏みにじっているが、自国の領空の主権を厳密に守っている。はやくも 1950年に、米国は国防の安全を守るため、自国海岸線から数百マイルも遠く離れた公海において、いくつかの点を選択して一本のラインにつなげ、いわゆる「防空識別圏」を設置し、他国の飛行機器がその識別圏に進入する前に、米国当局に申請を出し、その飛行機器の種類と目的地を知らせなければならないとしている。その識別圏に進入した後、必ず随時飛行の状況と所在の位置を報告しなければならない。関連規定に違反すれば、米国は随時この飛行機器が国境を離れることを求める。1987年米国法学会の60人の著名な学者の執筆した「法律・米国の外交関係法について重ねて語る」(第3版)には「アメリカはすでにいくつかの防空防御区域(air defense areas)、防空識別圏(ADIZ)、アラスカには遠距離早期警戒圏(DEWIZ)を設置し、いくつかの地域では海上数百マイルまで延びている。これらの地域に進入するパイロットは必ず直ちにアメリカ当局に詳しいデータを提供しなければならない。外国の飛行機器がこの規定を守らなければ、アメリカの空域に入ることを拒否する。アメリカは自国の防空空域を数百マイルの公海の上空まで(その時点においては排他的経済水域の概念はまだなかった)拡大しているのに、他国の同様な範囲内の場所で「飛行の自由」を享有しようとしている。このダブルスタンダードはほかでもなく覇権主義の醜悪な現れである。

二、「不可抗力」のため緊急避難を要求した理由は成り立たない

 指摘しなければならないのは、衝突事件の発生から中国の領空に入って着陸するまで約20分間もかかっている。米軍機は中国側に中国の飛行場への着陸の通報や要請を求める時間がかなりあったにもかかわらず、中国の領土主権と法律規定を無視し、無許可で中国の領空に侵入し、中国の領土に着陸し、中国領土の主権をゆゆしく侵犯した。1919年の「パリ航空管理条約」第1条に基づき、「締約各国はその領土の上空において排他的な主権をすることを締約諸国は認める」ことになっている。この原則に基づき、同条約では、ある締約国の軍用飛行機器は特別な許可を経ず他の締約国の上空を飛行するかその領土に着陸することはできないと規定されている。1944年にシカゴで制定された「国際民間航空条約」では国の領空の法的地位について規定されているほか、民用飛行機器と軍用飛行機器の異なる法的地位を厳格に区分している。同条約第3条では、軍事、税関、公安機関に用られる飛行機器はすべて国の飛行機器である、としている。「一締約国の国の飛行機器は特別な協定あるいはその他の方式の認可を経ずに、その規定に基づいて他の締約国の領土上空を飛行するかその領土に着陸してはならない」と規定されている。そのため、外国の軍用機が許可なしで他国の領空に侵入し、着陸することができないのは、すでに公認された国際法の準則となるわけである。もしこの規則に違反すれば、他国領土の主権を侵犯することになり、侵犯された国には国際法によってとるべきすべての措置をとる権利がある。事件を引き起こしたアメリカの飛行機は中国軍用機と衝突してそれをこわし、中国人パイロットが海に落ちて死亡した。さらには中国の領空に侵入して、わが領土に着陸し、たてつづけに国際法に違反する不法行為を構成するに至った。

アメリカ側は今回の事件の責任を逃れるために、こともあろうにアメリカはいわゆる「不可抗力」の緊急事態の下で中国領土に着陸したのであると公言しているが、これはまったく逃げ口上にほかならない。いわゆる「不可抗力」とは台風、機上における失火などの自然災害によって、飛行機器が最寄りの場所に緊急着陸することを指すものである。しかし、この規定は民間航空機にのみ適用されている。軍用機は各国の領土の主権と安全に危害を及ぼすため、国際法では規定がなされていないにもかかわらず、許可を経ない状況の下では、すべての国は軍用機がその国に入ってきて着陸することを厳格に禁止している。アメリカ側のいわゆる緊急着陸権なるものは、まったくでたらめである。

三、違法行為は合法的な主権免除を獲得することはできない

 軍用機の衝突事件が発生したあと、アメリカ側はこの飛行機は国の飛行機器であり、主権免除を享有するものであるとしたが、国際航空法の関連規定に基づき、外国の軍用機は関連国の許可なしで、特に不法行為を働いた情況の下で、無断で他国の領土に着陸することに対し、主権免除といった特権を主張することはできないとしている。アメリカの自国における事情もそのとおりである。1976年、旧ソ連のミグ戦闘機は日本の上空に飛来し、パイロットが駐日米国軍事基地に亡命を求めた時、アメリカは外交免除権を与えなかった。アメリカは飛行機をばらばらに分解して、米日の専門家によって綿密に検査されてからこれらの部品を旧ソ連側に返還した。

 上述の戦争法の空中戦について規定に基づき、「……隠蔽行為、カムフラージュを以って空から交戦国の管轄範囲内あるいは軍事活動圏内の情報を取得するか、あるいは取得しようと企むことはスパイと同じものと見なされている」。中米双方は交戦国ではないにもかかわらず、世界の国々に公認されているこの法律の規定に従えば、アメリカ軍が偵察機を使って中国の軍事情報を探知することはスパイ行為を構成するものであり、外交免除権を享有することができないばかりか、厳罰に処するべきものである。周知のように、1960年、アメリカのU-2高空偵察機が旧ソ連の上空で撃墜され、アメリカのパイロットがパラシュートで降下して捕虜となり、旧ソ連の軍事法廷の審理を経て、2年間の拘禁を言い渡され、刑期満了後アメリカに戻った。しかし、中国政府は中米両国関係の大局から出発して、人道主義の原則を考慮に入れて、24人の乗員をスパイ扱いにせず、適切に案配し、しかも中国駐在米国大使、大使館員と何度も面会することを手配し、できるかぎり心を尽くしたと言えよう。しかし、アメリカ側はこの事件の処理に対しまったく異なった態度をとっている。特に中国側がアメリカの乗員が国境を離れることを認めた後、アメリカ側は逆に、責任を中国側になすりつけ、あべこべのことを言っており、これはまったく無責任なやり方である。指摘しなければならないのは、違法行為は決して合法的な権利を享有しうるものではない。アメリカの軍用偵察機が中国領土の主権をゆゆしく侵犯した以上、それは免除権利を失っているのである。それは自業自得以外のものではなく、いかなる弁解も何の役にも立たないのである。

( 劉文宗 中国外交学院国際法研究所教授)