(一)
全人代の法律案の提案手続き
全人代主席団、全人代常務委員会、国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院、全人代の各専門委員会、一つの代表団或いは30人以上の代表が連名で、全人代に法律案を提出することができる。
全人代主席団、代表団、代表連名の提案権はある度合においては名ばかりの存在である。主席団と代表団は暫定機構であり、常設機構ではないからである。全人代の閉会期間においては、全人代主席団と代表団には提案権がない。通常年に一回の全人代は会期が限られているため、全人代によって審議、可決された法律案は普通成熟したものであり、主席団、代表団の暫定機構が暫定的に提出した法律案を審議することは極めて少ない。全人代代表は最高国家権力機関の構成メーバーであり、外国の中央議会の議員に相当する。中央議会の議員が法律案の提案権を享有することは現在各国で通例となっている。中国も例外がない。ただし外国の中央議会の議員は法律案の提案権を享有するだけでなく、一般に法律案の主要な提案者でもある。中国はそれと違う。全人代代表の人数が多く、全人代の会期が短いため、代表がみんな法律案の提案権を享有し、多くの代表が同じ一回の会議で法律案を提出すれば、会議でそれを審議する時間はないはずである。また中国の人大代表は専任ではなく、大多数の代表は独自に法律案の提出に必要である情報を獲得する条件、法律知識、法律案を起草する能力を持っていない。このため、立法法は全人代の代表が法律案を提出することができると規定する一方、30人以上の代表が連名で法律案を提出することを規定している。事実、代表が提出した法律案は極めて少ない。
全人代常務委員会、全人代の各専門委員会、国務院は全人代に法律案を提出する権限のある主体の中で、もっとも主要な提案主体である。全人代が審議可決した法律案はほとんど上述の主体が提出したものである。常務委員会は全人代の常設機関であり、全人代の閉会期に立法権を含む国家権力を行使する機関である。全人代の各専門委員会は全人代の常設専門機関で、全人代の閉会期に全人代の日常の仕事を担当する。国務院は中国の中央政府で、最高の国家行政機関であり、行政指導の仕事を担っている。外国の最高行政機関と同じように、法律案のもっとも主要な提案者である。ここ数年来、全人代が審議、可決した法律案の中で、国務院によって提出されたものが70%以上を占めている。このほか、中央軍事委員会は全国の武装力を指導する職能を担い、最高人民法院は最高の裁判機関、最高人民検察院は最高の検察機関であり、全人代およびその常務委員会に責任を負うものである。これらの機関は全人代に法律案を提出する権限があると立法法に規定されている。
提案の形は2つある。①全人代の会議の期間に直接大会に提出する。この形の提案はごく少ない。②全人代の閉会期間に常務委員会に提出し、常務委員会がそれを審議した後、常務委員会がさらに全人代の会議に提出する。この形の提案が多い。
全人代に法律案を提出する場合、主案と付属案があるべきである。主案は審議を提出する立法動議であり、理由、根拠、方案を含むべきで、付属案には審議に提出した法律草案文書、説明、必要な資料が含まれるべきである。
全人代の法律案を会議の日程に組み込む制度には次の3つの状況がある。①全人代主席団が全人代に提出した法律案が直接議事日程にのせられる。他の機構によって議事日程に組み込む問題はない。②全人代常務委員会、国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院、全人代各専門委員会が全人代に提出した法律案は主席団の決定によって議事日程に組み込む。③代表団と代表が連名で提出した法律案は議事日程に入れるものもあれば、入れないものもある。このように、代表団と代表が連名で提出した法律案は国家機関・機構が提出した法律案と比べれば、大会の議事日程に入るチャンスははるかに少ない。国家本位、国家主義の伝統が明らかに現れている。この状況を変え、代表団と代表が連名で提出した法律案は会議日程が組み込むチャンスを増やすことは中国の立法の民主化が目指す目標であるべきである。
(二)
全人代の法律案の審議手続き
全人代で審議される法律案は会議の議事日程に組み入れられたか、組み入れなかったかによって次の2つの場合がある。①会議の審議日程に組み入れる前の法律案を審議する。審議の目的は同法律案を審議日程に入れるかどうかを決める。審議日程に組み入れる予定の法律案をさらに充実させる。例えば、常務委員会は全人代が開催される前に、常務委員会に提出し、常務委員会の決定によってさらに全人代に提出する法律案を審議し、それを充実させる。この審議は準備的な審議である。②議事日程に組み入れられた法律案を審議し、審議の目的は同法律案が投票によって可決され、法律になるかどうかを決定することである。この審議は正式審議とも呼ばれる。
議事日程に組み入れられる前の法律案は統一の順序に従う原則はなく、提案の主体によってその審議の形も違っている。まず、主席団が全人代に提出した法律案が直接議事日程に組み入れられる。大会で審議する前にとくに審議をすることはない。次に、常務委員会、国務院、中央軍事委員会、最高法院、最高検察院、各専門委員会が全人代会議に提出した法律案は主席団の決定によって議事日程に組み入れられる。主席団が審議をした後で決定を行う。さらに代表団と代表が連名で提出した法律案は議事日程に組み入れるかどうかの問題があるので、審議は必要な手続きとなった。主席団によって議事日程に入るかどうかを決定するものは主席団に審議を委ね、主席団が委員会の意見によって議事日程に組み入れるかどうかを決定するものは専門委員会で先に審議してもらう。
議事日程に組み入れられた法律案、すなわち法律案の正式審議の手続きは非常に複雑である。立法法とその他の法律の規定に基づいて、これらの法律案は大会の全体会議で説明をおこなわなければならない。全人代の会期に提出した法律案は提案者に説明してもらう。常務委員会が全人代に提出した法律案は常務委員会に説明してもらう。大会の全体会議がその説明を聴取した後、各代表団、関連専門委員会、法律委員会、代表団団長会議あるいは代表にそれぞれ審議してもらう。
代表団の審議は基本的な審議である。代表団は全人代代表の選出母体によって構成される臨時的な組織である。代表数が3000近くに達するので、効率を高め,審議の便宜をはかるため、全体会議以外、代表は大部分の時間、代表団別に活動する。代表団の審議過程での役割を発揮することは人民代表大会制度の基本的要求である。各代表団が法律案を審議する際、提案者は意見を聴取し、質問に答えるべきである。これによって審議者は提案者と直面に交流し、理解し合い、的確に法律案を改定し、より充実したものにする。各代表団が法律案を審議する際、法制関係機関、商工、税務、電信およびこの類の主管部門、法学教育・研究院、労働組合、商会、婦女連合会、共産主義青年団、企業・事業体などの法律案の起草期間、組織あるいは法律研究機構は代表団の要求にしたがって人を派遣し実情を紹介すべきである。
専門委員会の審議は専業のことから審議する。全人代には民族委員会、法律委員会、財政委員会、教育科学文化衛生委員会、外事委員会、華僑委員会、内務司法委員会、環境・資源保護委員会、農業・農村委員会が設置されている。これらの委員会は全人代の常設委員会で、幅広い職能をもつ。法律案を提出する権限があるほか、審議する権限もある。審議は次のような順序で展開される。①専門委員会の専業をよりどころとし、それと関連のある法律を審議する。例えば、財政委員会は財政問題と関連のある法律を審議する。内務司法委員会は司法、公安、安全、監察、民政、司法行政、労働組合、婦女連合などの関連法律案を審議する。②提案者を会議に列席させ、意見を発表してもらう。③専門的問題に及ぶ場合、関連の代表と専門家を会議に列席させ、意見を発表してもらう。④審議を経て主席団に審議意見を提出し、その意見をプリントして会議で配布する。⑤関連法律草案を法律委員会に意見を提出する。
法律委員会において統一的に審議して、全人代および常務委員会に提出して審議してもらう法律案は中国における立法の重要な制度であり、法律委員会は統一的に審議して全人代に提出して審議してもらう法律案は次の順序にしたがうべきある。①各代表団と専門委員会の審議意見を聴取した後、法律案に対して統一に審議する。②法律案を統一審議した後、主席団に審議結果の報告と法律草案の改正稿を提出する。審議結果の報告は重要な食い違いについて説明をおこない、法律草案の成熟性と関連することを評価し、改正内容と改正理由も報告すべきである。③法律委員会の審議結果と法律草案の改正稿は主席団会議に審議させ、パスした後で会議で配布する。改正案は各代表団に審議させ、法律委員会は各代表団の審議意見を聴取したあとでさらに改正し、法律草案の表決案を提出し、主席団に大会の全体会議で表決してもらう。代表全体の過半数によって可決される。
審議日程に組み入れられた法律案がよく審議されるようにするため、必要な場合、主席団常務主席は各代表団団長会議を開き、法律案の中の重要事項について各代表団の審議意見を聴取し、討議する。それを主席団に報告する。主席団常務主席は法律案の重要な専門的問題について代表団に推薦された代表を集めて討議し、討議の結果を主席団に報告する。
議事日程に組み入れられた法律案は表決の前に、提案者がその法律案の撤回を要求した場合、理由を説明すべきで、主席団の同意を得、大会に報告した後に提案の審議を中止することになる。
(三)
全人代の法律案の表決手続きと法律公布の順序
法律草案改正稿は各代表団に審議させ、法律委員会は各代表団の審議意見に基づいて改正し、法律草案の表決稿を提出し、主席団が大会の全体会議で表決してもらう。代表全体の過半数によって可決される。
全人代が可決した法律は国家主席の署名した主席令によって公布される。
全人代の決定によって設立された特定の法律起草委員会が作成し提出した法律案の審議手続きと表決法は別途規定される。これらの要素と内容に基づいて展開された立法運行制度が全人代立法運行制度のすべてである。