日中経済協会調査部長 高見澤学
全世界的にも貧困問題の解決は容易なことではない。貧困の定義は国や機関によっても様々で、世界的に決まっているわけではないが、一般的には世界銀行の1日一人当たり1.9ドルが国際的な貧困ラインとなっている。一方、中国では2011年に決定した農村の年間一人当たりの平均収入2,300元(2010年不変価格)を基準としており、物価上昇を加味すると、2016年では3,000元ということになる。この基準に基づく2016年末における中国の農村貧困人口は4,335万人、前年に比べ1,240万人減少させたというのだから、中国政府による貧困対策は一定の成果を上げたと評価できるだろう。
2015年から始まった第13次五カ年計画(以下「13・5計画」)では、2020年までに約5,000万人の貧困者の貧困脱却を実現するという目標が掲げられている。2016年の1年間で1,000万人を超える人々の貧困層からの脱却が実現したというのだから、その貧困対策は計画通り進んでいると言える。
13・5計画によると、貧困対策では産業の発展、就業移転、転居貧困脱却支援、生態保護貧困支援、教育訓練、医療保険、医療援助等を通じて行うとしており、先ずは貧困者リストを作成し、貧困人口の動態統計観測を行うなど貧困層の動態管理を強化することから始めるという。政府が行う貧困対策として特に重要なのがインフラ施設建設である。貧困地域における道路、上下水道、電力供給網等国民生活に最低限必要なインフラはもちろんのこと、今後更に貧困対策に効果的だと思われるのがインターネットなどの通信施設の建設強化で、13・5計画では貧困村へのブロードバンド普及率90%以上を目標に掲げている。
現在、インターネット社会の到来により、世界的にも国民の生産活動や生活スタイルが大きく変わろうとしており、特に中国においてはその進展が各所で顕著に見られている。大型の店舗がなくとも買い物には不自由な思いをせず、銀行がなくとも簡単に送金・決済が可能となり、新たなサービス産業の誕生によって雇用が生まれている。こうして、資源の再分配システムも大きく変わろうとしており、やり方次第では貧困問題解決の突破口になる可能性は大きい。