■ナンセンスな体験
ピエルッチ氏は電力と鉄道交通設備分野の専門家として、アルストムに22年間勤務した。2013年4月、ピエルッチ氏はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で入国時にFBIに逮捕された。逮捕後にはじめて、2003年のアルストムによるインドネシアでの汚職事件に関与したとして、米司法省が6カ月も前の2012年11月に自分を「連邦海外腐敗行為防止法」違反で起訴していたことを知った。逮捕が先で、起訴されていた事を告げるのは後という事がすでに、この司法手続きの異常さを示している。
ピエルッチ氏は米刑務所にまず14カ月、次に1年近くと、計25カ月間収監された。最初の14カ月間は米国で最も警備の厳重な刑務所で、収監者が多すぎて劣悪な環境だった。この苦難に満ちた時期が、ピエルッチ氏の人生に大きな影響を与えたことは間違いない。収監されていた間、アルストムは米司法省の要求を受けて「職務放棄」を理由にピエルッチ氏を解雇。ピエルッチ氏のキャリアは潰された。二度の服役の間、ピエルッチ氏は妻に2回会っただけだった。子供を守るため、彼らには会わなかった。現在ではインタビューに応じて『Le Piège américain』について率直に説明。自身があれほど長く家庭生活を「欠席」していた理由を家族や子ども達に説明したいとも考えている。
■「反撃」するフランス
アルストムがGEに買収されたケースで、米国は全ての仏原発に対する権利を獲得。こうした原発はフランスの電力の75%を担っている。ピエルッチ氏によると、フランスは原発技術大国であり、これがフランスの産業主権に対する重大な侵害であることは間違いない。
安堵すべきことに、フランス社会は覚醒しつつある。2014年にアルストムが買収されると、フランスは2016年11月に、仏企業が米司法当局の直接的介入を受けずに仏本土で腐敗行為防止調査を受けることを認める法律を打ち出した。ピエルッチ氏によると、これは米国による貿易戦争の影響を受けた国が打つことのできる最も緊急的な対応であり、すでに均衡を失った国際経済関係を修復する試みでもある。