輸出工業の伝統的発展モデルの限界
中国輸出工業の成長は、その速度も規模も極めて高速であった。結果、非凡の成果を上げたと同時にアメリカをはじめとする一部の国との間に、巨大な規模の構造的貿易不均衡が生じた。西側諸国での産業空洞化も中国輸出工業の驚異的な発展の結果だと考えられる。アメリカのトランプ大統領の当選は、ある意味、アメリカの産業空洞化の圧力によるものである。これらが、トランプ政権下での米中貿易戦争勃発の背景とも言えよう。
急に巨大化した中国の存在感も、多くの国の神経を敏感にした。例えば知的財産権の問題は、いまや米中貿易摩擦の大きな焦点のひとつとなっている。また、サプライチェーンの中国へ過度な依存を避けるため、日本は10年ほど前から「チャイナプラス1」政策を進め、自国企業に中国以外の国や地域へのサプライチェーン構築を促した。さらに、日本政府は2020年度の補正予算に生産拠点の国内回帰を促す補助金として2200億円を計上し、その姿勢を鮮明化させている。
中国の労働力、土地、環境、税収などのコストの上昇も無視できなくなった。労働力コストを例にとり、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10都市の2000年から2018年までの平均賃金の変化を見ると、上海の平均賃金は9.3倍に、成都、蘇州、無錫はそれぞれ8.5倍、8倍、7.5倍に、寧波、仏山、広州、廈門、東莞はそれぞれ6.6倍、6倍、6.3倍、5.7倍、5.6倍、5.1倍に跳ね上がった。2000年の時点ですでに比較的高かった深圳の平均賃金も、4.8倍になった。上記の分析から、中国における労働力コストの上昇がいかに激しかったかが見て取れる。
グローバルサプライチェーンの中で、中国の労働力の低コストの優位性はもはや失われた。
これらの理由により、中国輸出工業の伝統的発展モデルはすでに限界に達し、製造業は新しい次元へと進化を余儀なくされた。
交流経済へと進化する製造業
アメリカの進める自国企業を中国から呼び戻す政策が、いま世論の焦点となっている。しかし、筆者はトランプ大統領の推し進めるこの政策が無くても、製造業の一部がアメリカへと回帰することは必然であると考える。
まず中国の生産コストの上昇に伴い、利幅の薄い一部の製造業が中国から離れることは不可避である。
中国がより重視すべきなのは先端製造業の先進国への回帰である。時代の変化の中で、低価格を求めてきた消費者はいま、感性、個性、そして生産者とのコミュニケーションをより重視しつつある。これを可能とした大きな背景には、工業生産のモジュール化が新たな段階に入ったことがある。
発展途上国の新工業化の前提は、本質的にいえば、モジュール生産方式により非熟練労働者が組み立てなどの工業活動に参加できるようになったことである。これは製造業サプライチェーンのグローバル化の基礎である。しかし今や、モジュール化はすでに個性的なデザインと重なり合い、多品種少量生産を実現できるように進化した。モジュール化の基礎の上で生産者と消費者はコミュニケーションを通じて、よりデザイン性と個性にあふれた製品を生み出すことを可能とした。
未来の製造業を想像すると、一方では半導体やセンサーなどのハイテクなモジュールやディバイスがこれまで同様、グローバル的に供給される。日米の企業は現在、これらの分野で高い優位性を誇っている。
他方、一部の最終製品生産者は、これらのモジュールやディバイスをベースにユーザーとコミュニケーションを重ね、個性のある商品を提供するように進化する。暗黙知を最小化してきた旧来のグローバルサプライチェーンは、ここにきてコミュニケーションを重視する方向へ付加価値を高めるようにシフトしている。これは先端製造業の交易経済から交流経済への転換である。
このような交流経済へ進化する先端製造業と消費者との動線は、極めて短く、可視化できるものとなるだろう。
その意味では、目下製造業の先進国への回帰は、その一部分は消費者へより近づく市場への回帰だと言えよう。製造業最終製品の生産はますます個性化、ローカル化が進むだろう。トランプ大統領の呼び戻し政策がなくても新型コロナウイルスショックがなくても、こうした製造業の回帰は起こる。これは、製造業が交易経済から交流経済へと進化する流れの一環である。
従って、中国の製造業もこれをしっかり認識し、製造業の交流経済化の潮流をつかみ、進化への努力をすべきである。幸いにして、「中国都市製造業輻射力」のトップ都市はすでに製造業の強力な基盤を持ち、それ自身がメガロポリスのような巨大な市場に身を置いている。市場とのコミュニケーションを強化し、製造業の交流経済化の中で道を拓き、新たな奇跡を築くことが可能となろう。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月19日