「私は13年近く上海で暮らしていますが、日本人にとってすごく暮らしやすい街だと思います。和食のお店がたくさんあるし、味も東京のお店に負けないぐらい美味しいです。それに空気がだいぶ良くなってきて、青空がよく見えますし、緑もいっぱい増えましたね」
リポビタンDでおなじみ大正製薬の上海現地法人である上海大正力保健有限公司董事・総経理の松尾雪さんは、上海での暮らしについて賛辞を惜しまない。
上海大正力保健有限公司董事・総経理の松尾雪さん(写真=本誌李一凡記者)
父親が日本人残留孤児であり、北京で生まれ育った松尾さんは1990年代、家族とともに日本に移り住んだ。中国語も日本語も堪能な松尾さんは両国の架け橋となりたいとの思いを持ち、日本で就職してからも再び中国に戻る機会を求め続け、やがて2005年に念願の上海赴任を果たした。
松尾さんによれば1990年代に日本へ渡った当時、中国と日本との差はまだまだ大きかったが、近年では上海、そして中国の変化が著しく、目立った変化のない東京に比べると天地の差があるという。「中国に暮らしていると発展のスピードを実感できます。生活用品や食品、洋服に至るまで、全ての買い物がスマホだけで済んでしまいます。今日注文すれば次の日には届いたり、あるいは今注文すれば1時間以内に品物を受け取れたりと、非常に便利さを感じています。それにブランドショップや高層ビル、高級レストランなどだけでなく、本屋もだんだん増えてきて文化面も充実してきたと思います」と松尾さんは話す。
中国日本商会がこのほど発表した「中国経済と日本企業2021年白書」によると、新型コロナウイルス感染症が中国の日系企業に与えた影響は限定的で、92.8%の企業が「生産拠点を調整する計画はない」としており、中国市場からの大規模な移転や撤退の動きはみられないという。また、今後1~2年間で「中国での事業を拡大する」と答えた企業は36.6%に達する一方、「事業を縮小する」と答えた企業はわずか6.7%で、中国事業に寄せる各企業の期待が上向いている。
日系企業は中国市場のどのような点に魅力を感じているのかという問いに対し、松尾さんはまず「巨大なマーケット」という強みを挙げた。「コロナ以前から中国はマーケットの大きさで注目されていますが、コロナ発生後に中国はいち早く立ち直っていて、世界の経済、少なくとも東アジアの経済を引っ張っています。これほど巨大で、しかもかなりインフラが整えられているマーケットはどこの会社にとっても、どのビジネスにとっても捨てることなんてできませんから、中国事業に積極的に取り組むべきだと思います」と松尾さんは話す。