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japanese.china.org.cn |06. 08. 2024 |
独自の魅力でにぎわう都市
李家祺=文
近年、中国の旅行市場は、従来の観光旅行から現代的なレジャーに急速に変化しており、観光需要は多様化と個性化の傾向を呈している。ソーシャルメディアの利用に加え、ますます多くの斬新で興味深い文化・観光資源が発見され、特色のあるイベント、市場、郷土料理のいずれもが都市の「爆発的な人気」につながる可能性がある。これら予想外の人気を獲得した都市も、より大きな真心とより良いサービスを通じて観光客を魅了し、アクセス数を消費に変え、口コミと経済効果のウインウインを実現しようと努力している。
アマチュアサッカーが山奥に活気
貴州省の黔東南ミャオ(苗)族トン(侗)族自治州の榕江県へ車で行く道中、「村超(農村サッカースーパーリーグ)」の標語が随所に掲げられている。ホテルの隣の駐車場には、河北省、重慶市、河南省、広東省などのナンバープレートの車でいっぱいだ。
城北新区の体育館内では、選手が素晴らしいシュートをするたびに観客席から歓声が沸き上がり、応援団も太鼓やどら、さらに鍋をたたいた。館内は観客で埋め尽くされている。サッカーを知らない人でも、ここに来れば大観衆の情熱に一瞬で感化されるだろう。
榕江県は1940年代からサッカーが広がり始め、80年かけてこの地に深い支持基盤を築いた。榕江県では数十年間、毎年さまざまなサッカー大会が開催され、現在、35の民間チームがあり、1200人以上の選手がいる。
昨年5月、同県三宝侗寨「和美郷村」サッカースーパーリーグで、選手が放った「スーパーシュート」が空中で美しい弧を描き、ゴールの隅に突き刺さった瞬間、会場が一気に沸騰した。その映像はショートムービーアプリで話題になり続け、「村超」ブームは次第にインターネット全体に広がった。
アマチュア選手の技術はプロ選手ともちろん比較にならないが、「村超」のサッカーは最もリアルで、最も純粋だ。ここでは、実力差があっても、皆が一生懸命プレーし、最後まで積極的に攻撃を続ける。
榕江県の忠誠鎮に住む董宇恒さん(35)は、昼間は巻粉(米で作った巻物状の軽食)を作り、夜はサッカーユニフォーム姿で試合に出る。「勝ち負けは二の次で、楽しむのが一番大切です。負けても、球場でおばさんたちが歌ったり踊ったりするのを見るのも楽しいです。勝ったら、賞品として地元の特産品をもらえます。疲れたら、芝生に寝転がって空を見上げるととてもリラックスします」と「村超」の楽しさを語った。
深い山奥にある榕江県は、2020年末に貧困脱却に成功したばかりの小さな町だ。「村超」が意外な人気を博した後、全国各地から観光客が次々と訪れている。統計によると、今年のメーデー連休(5月1〜5日)期間、榕江県には延べ40万2000人以上の観光客が訪れ、観光収入は4億1100万元に上った。
「以前は月給4000元程度でしたが、今は1万元を超えました」は、榕江県の城北新区体育館の近くで客待ちするバイクタクシードライバーの王家華さんの言葉だ。
榕江県は多民族が同居する県で、合わせて16の民族が暮らしている。県は「村超」大会を開催すると同時に、少数民族の特色あるイベントも多数増やし、「村超」の勢いを借りて文化観光を活発化させている。
体育館外の通りには、飲食の屋台がずらりと並び、「牛肉串焼き1本1元、味は保証するよ」「名物の巻粉、おいしかったらまた来てよ」などの声掛けがあちこちで上がる。
農民の収入増を支援するために、榕江県は2200店舗以上の無料利用屋台を計画し、住民に体育館周辺で屋台を出すことを勧めている。
昨年の県全体の飲食業の売上高は前年比12・2%増の12億2700万元で、夜間消費の収益は前年比241・5%増の7億3220万元に上った。
無形文化遺産の展示販売ブースでは、擺貝村のお針子の姜老本(61)さんが、ろうけつ染めのスカートに描かれたミャオ族のトーテムとサッカーの絵柄を客に説明していた。
榕江県のミャオ族衣装・装身具プロジェクトにおける国家級無形文化遺産の伝承者として、姜さんは現在、村のお針子たちと共にミャオ族刺しゅうとろうけつ染め産業を発展させている。毎週末の夜、サッカー試合の横のブースで彼女たちがせわしなく働く姿が見られる。
8歳から祖母に刺しゅうとろうけつ染めを教わった姜さんは、観光客に自分の技術を認められて非常に誇りを感じている。「私たちの『村超』関連商品はとても人気があって、種類もどんどん増えています。ろうけつ染めの服、帽子、スカーフの売り上げは特に好調で、Tシャツだけで、一週間で最大5000元以上になったこともあります。わが家の昨年の年間収入は40万元以上です」
「村超」は擺貝村に発展モデルの変化をもたらした。「観光客を待つ」という考え方から、発展の道筋を積極的に考え、「村超」のアクセス数を受け止めることに転換した。
擺貝村の文化観光推薦官に就任したばかりの納雲蘭さんが、ミャオ族刺しゅうとろうけつ染めの衣装を身に着け、友達と「村超」の球場で葦笙踊りを踊り始めた。納さんは、以前夫と一緒に浙江省で工場を経営していたが、昨年「村超」が急激に人気になってから、故郷に帰って起業することを決め、文化観光と農産品販売に従事し、村のネット通販とライブコマースを手伝っている。
「これまでは村の人々に意欲があって、豊かな民族文化の資源があっても、自分たちに合った発展のきっかけを見つけられなくて困っていました。今では週末になると、村の民泊が需要に追いつかないほどです。若い人たちも故郷に帰って起業し、レストラン、ろうけつ染め・刺しゅうの工房、売店、民泊などを経営しています」と言った。
一時的から継続的な人気へ
昨年初頭、山東省淄博市の串焼きバーベキューがソーシャルメディアで爆発的な人気を集めた。「大学生が淄博へ団体旅行に行き串焼きバーベキューを食べる」といったトピックスが注目され続け、淄博はネットの人気都市(3)となった。その年、淄博は約630億元の国内観光収入を達成した。
淄博串焼きバーベキューはとても個性的だ。客の前に真っ赤に燃えた炭が入った小さなストーブが設置され、すでにほとんど火が通った串を客が自分で焼き、焼き加減を調整する。
自分好みに焼けたら、油がしたたる串を数本取り、香辛料をまぶしてから小さなクレープにのせ、肉を串から抜き、山東省名産の小ネギをはさむ。クレープは少し塩辛い肉を食べやすくし、香辛料は香りを十分に増し、ネギは肉の油っぽさをよく中和して、互いに補い合っている。
各地から来た観光客に串焼きバーベキューを楽しんでもらうために、淄博市の関係部門は串焼きバーベキュー店の場所を再調査し、より多くの店をカバーできるように市中心部の公共交通路線網を整えたばかりか、「串焼きバーベキューマップ」も作成し、「淄博串焼きバーベキュー」のシャトルバスを8本増やし、駅から店までの直行便にした。
淄博人の情熱的なおもてなしも、淄博をソーシャルメディア上で「ブレーク」させた。市民の中には、自発的に街でゴミを拾う人、休日に駅で観光客を無料で送迎する人、ホテルの予約が取れない観光客に部屋を提供する人まで現れた。
「民は食をもって天となす」――グルメが地域の観光業をけん引する例は珍しくないが、観光客の受け入れが追いつかず、他の価値あるものの支えがなければ、ブームはすぐに廃れてしまう。
ソーシャルメディア上で初めて「ブレーク」してから1年余りが経ち、淄博市の各部門は「淄博の串焼きバーベキュー」のサービス保障を巡り、一連の持続可能なワークシステムを作り出した。例えば、淄博市の市民クレームセンターでは、串焼きバーベキューや観光に関するクレームについて迅速な処理システムを構築し、観光客からのクレームは当日に処理し、問題を翌日に持ち越さないようにしている。食の安全検査を強化し、串焼きバーベキュー店が集中するエリアで食品迅速検査ステーションを設置し、他のエリアの串焼きバーベキュー店には巡回検査を行い、検査結果を毎日現場で公表している。また、観光客のニーズに応えるために、駐車場の新設や拡張を行った。今年の淄博観光の人気は昨年より一層高まっている。
同市張店区の八大局市民市場では、数多くの串焼きバーベキューや、地元の軽食などの店が密集してる。平日の午後3時を過ぎると、老舗の串焼きバーベキュー店の外には、すでに数十㍍の列ができている。並んでいる人たちは、メニューを見て先に注文する人もいれば、紫米餅や牛乳パンなどの特産品を手にしている人もいる。
出勤中の淄博市公安局張店区分局体育場警察署の董文勝さんは、「現在、平日の来場者数は平均7万人ぐらいですが、祝日のピーク時には、前年比40%増の12万人以上に上ります」と話し、次のように説明した。
「1年間の模索を経て、私たちはレベル別の警備制度を確立しました。1日の来場者が5万人未満、5万~7万人、7万~10万人、10万人以上に合わせて、それぞれ異なるレベルの警備対応を行います。例えば、10万人以上の場合、警察署の警察官と補助警察官のほかに、支局からも職員を派遣し、市場の出入り口や渋滞が発生しやすい道に当てます。雑踏事故を防ぐために、市場内が2万人に達したときには、人数制限を実施して、時間を空けて入り口を閉鎖します」
昨年と違う点は、各店舗にクレームサービスのステッカーが貼られていることだ。ステッカーには、店名、店舗の場所、店主の氏名と電話番号、クレームサービスのホットラインなどの情報が記されている。
「観光客がトラブルに遭った場合、その場でクレームホットラインに電話をかけ、店舗の場所などの情報を伝えてくれれば、市場管理弁公室の職員がすぐに駆けつけ、その場の状況に応じて市場監督、公安、商務部などの関連部門と協力して迅速に対応します」と張店区市場監督管理局の体育場市場監督所所長の楊光さんが説明した。
熱気を放つ石炭ストーブ、香り立ち込める焼き肉、情熱に満ちたサービスが、淄博の独特な観光の魅力を構成しており、淄博に「一時的な人気」から「継続的な人気」への変化を実現させた。
ロケ地巡りで文化を享受
今年5月、テレビドラマ『私のアルタイ(阿勒泰)』が大ヒットし、新疆ウイグル自治区のアルタイ地区が観光業界の新しい「人気者」になった。ドラマはアルタイで売店を経営する漢族の女性・李文秀とその家族が地元のカザフ(哈薩克)族の遊牧民との交流を描き、辺境の美しい景色と遊牧民の生活習慣や風俗を映し出している。
統計によると、ドラマの最終回放送後の5月13~19日までの1週間、アルタイ地区を訪れた観光客は前年比70・07%増の延べ105万200人、観光収入は前年比130・97%増の8億1300万元に上った。
これまでアルタイ地区は主に自然の風景とウインタースポーツで観光客を引き付けていたが、ドラマの人気をしっかり受け止めるために、アルタイは地元の歴史文化、民族風土などの資源を深く掘り下げ、「ドラマの登場人物の足跡を巡る旅」「隠れた絶景訪問」などの特色ある観光ルートを計画し、多くの地域の独特な文化・観光コンテンツを開発した。
ネットで人気のドラマ撮影スポットを訪れたいという観光客のニーズを満たすために、アルタイ文化観光局はドラマ『私のアルタイ』に登場した売店を再現し、黒石けん、白樺樹液などドラマに使われたものを販売している。文秀橋、孤独の木、古い市場などのロケ地にチェックインポイントを設置し、『私のアルタイ』のチェックインマップを作成した。また、アルタイ文化観光局は同ドラマの人気にあやかって、競馬、レスリングなどの多彩なスポーツイベントを開催し、「羊の放牧」体験や「李文秀の再体験」というショートムービー撮影などのコンテンツを打ち出した。
観光サービスの質に関して、アルタイは基礎的なサービスの改善に大いに力を入れている。例えば、移動式トイレを追加し、区間バスのルートを最適化し、エコロジカル駐車場を増やし、ドラマに出た風景に合わせて標識やゴミ箱などを設置した。また、観光客がより快適に旅行できるよう、物価を安定させ、ホテルや民泊の品質を向上させるという一連の措置も打ち出した。
旅行市場の持続的な回復と発展に伴い、ますます多くの都市が独自の魅力で各地から観光客を引き付け、人々により豊かな選択肢を提供するようになるだろう。
「人民中国インターネット版」2024年8月6日