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japanese.china.org.cn |06. 08. 2024

日夜増える需要とスタイル

タグ: 需要
人民中国  |  2024-08-06

段非平=文 

「どこへ行こう?」「何をしよう?」「どう過ごそう?」……ここ数年、中国の消費者のニーズが日増しに多様化個性化されるに伴い、観光計画にも変化が生じ、多くの新しい観光スタイルが生まれている。 

究極のコスパタイパ 

今年の春節期間中、梁映さん(19)は人生初の「特種兵式旅行(節約弾丸旅行)」に出て、大学の同級生と一緒に広西チワン(壮)族自治区から北京に向かった。わずか3日間で、故宮、天安門広場、長城、頤和園など十数カ所の有名観光地を訪れ、北京ダックやジャージャー麺など特色あるグルメを味わい、地元の胡同(フートン)文化も体験した。北京滞在中、1日平均3万歩も歩き、観光地から観光地を飛び回った感想は、「疲れたけど楽しかった」だった。 

「節約弾丸旅行」は昨年から中国の若者の間で流行している観光スタイルで、時間や費用を極力抑え、できるだけ多くの観光スポットを巡ることを意味し、高いタイパコスパや体力の限界への挑戦などの特徴で多くの若者から注目されている。また、情報の共有を好むという若者の性格によって、ソーシャルメディアで爆発的な人気を博した 

「『節約弾丸旅行』の目的地は、観光スポットが集中していて、列車や高速鉄道、市内の公共交通ですぐに行ける都市がほとんどです。体力が求められるため、体力の有り余っている若者にピッタリです。疲れましたが、このような旅から得られる喜びは言葉では言い表せません。特に資金も時間も相対的に限られている大学生にとって、『節約弾丸旅行』は外に出て世界を知る良い方法だと思います」。「節約弾丸旅行」のベテランである山東省出身の呉東明さん(21)は幾度もの経験を回想しながら語った。 

「節約弾丸旅行」のような駆け足だと観光の意味が失われるのではと疑問視する声もあるが、これに対し、今年すでに3回も「節約弾丸旅行」を体験した宝丁さん(20)は、「観光の意味」は人それぞれで、本人が楽しければいいという考えを持っている。「20代、30代、40代で見る風景は違います。30代、40代になったら、私もゆっくりと景色を楽しむかもしれませんが、20歳の今は青春の衝動をもっと感じ、体力に挑戦したいです」と意気込みを語った。 

今年大学を卒業したばかりの夏棚さんは、インターン終了後、「節約弾丸旅行」に出た。成都南駅から出発し、20日間で昆明、大理、桂林、広州、深圳など15の都市を駆け抜けた。「慌ただしい旅でしたが、下調べしていたので観光スポットの魅力もちゃんと体験できました。『節約弾丸旅行』は大変すぎるとよく言われますが、私はそう思いません。より多くの場所に行って世界を感じる幸福感が、体の疲れを超越しているからかもしれません」 

新たな趣を探し快適さを楽しむ 

ハイペースな「節約弾丸旅行」と正反対のCityWalk(シティーウオーク)も近年、若者に人気なのが興味深い。  シティーウオーク(中国語では「城市漫歩(都市散策)」)は英国ロンドンの「ロンドンウオークス」(London Walks)が起源で、元々はプロのガイドに案内されながら特定のルートを歩き、都市の歴史や文化を学び共有する社交的な活動だった。中国では、都会の街角を散策し、ディープな体験を求める新たな観光スタイルとなっている。 

山東省淄博市出身の張暁さん(43)は今年のメーデー連休を利用して息子と共に北京観光に来た。息子に北京の歴史や文化をもっと理解してもらうため、張さんはプロのシティーウオークガイドを雇い、北京の特色ある胡同をいくつも見物した。「一枚一枚の古い写真やガイドの詳しい説明から多くの興味深い歴史の物語を知ることができ、私と息子にとって大変実りの多い旅でした」。シティーウオークの参加者は散策する中で新しい知識に触れ、新しい知見を得ることができ、独特で目新しいものを楽しみたい人々のニーズを十分満たしていると張さんは語る。 

ガイドに案内されるほか、趣味に合わせて独自のウオーキングコースを作るのも多くの若者が好むシティーウオークの方式だ。広東省広州市恩寧路の騎楼(西洋建築と嶺南伝統文化が結合して生まれた建築様式)街を散策したり、近代建築物の前で記念撮影したり、路地で地元の軽食を味わったりするなど、徐娜さん(27)は友人と一緒に広州を旅行し、この都市の古今融合を肌で感じた。「散歩中、キワタの花を拾い集めている地元の人に声を掛けると、この花は乾燥させてからスープに入れるとおいしいと教わり、いくつかおすそ分けしてもらえました」と語った。足で町を測り、地元住民と交流できるシティーウオークはサプライズと面白さに満ちている。 

シティーウオークは観光客だけのものではない。地元の人間も近所で「プチ旅行」をすることができる。緑の多い上海衡山路_復興路歴史文化風貌保護区には、「梧桐エリア」という覚えやすい別名がある。ここには庭園や洋館、歴史的建造物もあれば、カフェや書店、クリエーティブグッズを売る店もある。近くの会社に勤める王一航さん(32)は暇があると、ここを散歩する。「自宅と職場を往復するだけの忙しい生活の中、多くの若者は自分が暮らしている都市への理解が不十分だと言えます。街中を歩くことで自分が住んでいる都市を再発見し、帰属意識を高め、旅行と似た癒やしを得ることができるのです」 

今、シティーウオークのブームは大都市から徐々に他の都市へと広がっており、ますます多くの人が散策によってその都市を再認識し、好きになるだろう。 

マイナー観光地にスポット 

今年の端午節3連休、趙欣さん(29)は観光先を貴州省興義市という「人が少なく景色がいい」マイナーな町に選んだ。「昨年国慶節連休に旅行に行った友人から、景色が美しいし、個性的なグルメが多いし、何より貴陽市などの人気都市より観光客がかなり少なく、私のような人混みが苦手な人に向いていると紹介されたんです」と趙さんはほほ笑む。 

趙さんのように押し寄せる人の波にもまれて人気の観光地に行くことをやめ、人の流れに逆らって特色のあるニッチな都市を訪れ、快適な旅行をする人が近年増えている。 

遼寧省出身の王琳さんは冬になると温暖な海南省によく遊びに行く。最近では三亜や海口などの島内の人気都市より、あまり有名ではない都市を散策するのが好きだという。「文昌市で伝統的な喫茶スタイル『老爸茶ラオバーチャー』を楽しみ、万寧市でサーフィンを体験し、保亭市で温泉に入りました。こういった場所は観光客が比較的少なく、ゆったりとした生活リズムや素朴な雰囲気でリラックスできます。『(みんなとは)逆方向の旅行』が大好きです。これで心身ともに休めることができますから」と王さんは理由を話した。 

「国内旅行には『地域格差』という問題が長い間存在しています。人気のある観光地は大勢の観光客が押し寄せますが、独特の魅力を持つ穴場スポットはまだたくさんあります。『逆方向の旅行』はこの状況をうまく調整することが可能です。マイナーな都市は旺盛な観光ニーズによってより大きなパイを分かち合うことできるはずです」と馬蜂窩観光研究院の馮饒院長は期待を語った。 

「逆方向の旅行」先に人が少なければいいというわけではなく、独自の魅力を持たないと「逆方向の選択肢」にならないというのが馮院長の考えだ。例えば、雲南省の芒市はもともと目立たない辺境都市だったが、昨年に「40の果物の無料配達」イベントで人気トピックになり、東南アジア的な都市が人々に知られ、注目を集めた。また、これまで観光都市と縁のなかった河北省廊坊市も、「紅楼夢」を題材にした演劇テーマパーク「只有紅楼夢戯劇幻城」の開園によって人気を博し、紅楼夢ファン必見の場所となっている。「『逆方向の旅行』ブームにより、マイナー都市の多くが発展のチャンスを迎えています。しかし速やかに観光施設やサービスを向上させ、新鮮な体験を絶えずつくり出さなければ、せっかくのチャンスを棒に振ることにもなりかねません」と馮院長は語った。 

臨場感あふれる「没入型旅行」 

演者との境界をなくして観客が劇中世界に入る一風変わった演劇、観光客に「タイムスリップ」させて千年前の歴史に触れられる古めかしいエリアなど、情報技術の発展と経験経済の勃興に伴い、没入型旅行は次第に多くの人の新たな選択肢となり、「景色を見る」から「景色に入る」に変わった人が増えている。 

「『長安十二時辰(長安二十四時)』テーマエリアに入ると、盛唐の長安に足を踏み入れたような気になります。さまざまな歌や踊りのパフォーマンスが唐代の様子を表現し、唐代風の漢服を着たスタッフが観光客と詩を詠んでいます。偶然『玄奘』と出会え、『通関文牒』に判を押せました」と四川省出身の李悠さん(31)は興奮気味に語った。 

中国初の唐代の庶民生活を体験できる没入型施設として、西安大唐不夜城東側にある「長安十二時辰」エリアは2022年4月にオープンするや否や爆発的な人気を博し、今年1月までに延べ350万人以上が来場した。 

陝西文化観光有限公司の鄒林豊董事長によると、よりリアルなシーンを演出するため、エリアには100人以上の職人が手作りした8000個以上の提灯やさまざまな道具を展示している。観光客は唐風の建築物を鑑賞したり、長安のグルメを味わったり、「投壺(壺に矢を投げ入れ、勝負を争う遊び)」などの古代のゲームを体験したりして、唐旅行を思う存分楽しむことができる。「このプロジェクトを企画したきっかけは、今までの観光業態は観光客との交流が足りないと思ったからです。没入型施設で体験する中、唐長安を感じ取ってもらいたいです」と鄒董事長は語った。 

さまざまな没入型体験に参加することで、観光客は一方的な観光地訪問から、観光地に溶け込み、その中の一員となり、「生きている」伝統文化をより肌で感じ、都市の魅力もより深く読み取ることができる。  

中国人観光客にとって、観光はただ景色を見るだけではなく、豊かな体験や感情的な満足を求めるライフスタイルともなっている。消費者のニーズが日増しに多様化する中、新しい観光スタイルが絶えず現れ、人々の素晴らしい生活に彩りを添えるだろう。 

「人民中国インターネット版」2024年8月6日