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中華の知恵と低炭素社会の未来
発信時間: 2010-10-28 | チャイナネット

――中国館第三展示エリアを参観して

楊愛倫=文

今日の世界は、各種の資源がしだいに枯渇し、環境破壊が日増しにひどくなる一方で、世界人口の大部分を擁する発展途上国がグローバル経済発展の担い手として登場し、人類と自然との関係がどうあれば持続可能な発展がはかれるのかという、巨大な空間を探し求める、これまでに人類が体験したことのなかった非常に張りつめた局面を迎えている。

この時期に、万博が世界人口の五分の一が暮らす最大の発展途上国――中国で開催されたのである。主催者は中国館の展示テーマを「都市発展における中華の知恵」と定めた。東洋思想の観点から人と自然との問題の解決の道を探し求めるという視点である。館内の第三展示エリアは、「低炭素の未来」と名づけられているが、展示では、「中国式の持続可能な発展」が大胆に提起・解説されている。世界が直面する問題と万博での中国館のテーマの一致は、偶然のようにも思えるが、実はそうではない。中国と中華の知恵が地球規模での環境危機にどのように対応し、低炭素で持続可能な発展という未来社会の目標を達成する上で、どのようなリーダーシップを発揮できるかを探るものなのである。

■ 大量消費社会の克服

第三展示エリア「低炭素の未来」を丹念に参観してみよう。

展示ホールの中央には蓮池がしつらえられ、ウオーターカーテンとあいまって「感悟の泉」を作り出しているが、この中華の伝統を象徴する蓮は、循環水によって栽培されている。この泉は、「天人合一」(天と人が一体となる)、「自然を手本とする」という中華の知恵を表しているのである。水の循環にはクリーンエネルギーが用いられているが、低炭素の未来を実現するための技術が中国の情緒にふさわしいこの生き生きとした情景は、たいへん示唆的だ。中国館副館長の銭之広氏は次のように語っている。

「低炭素未来の志向は中華の知恵の伝承とも言えます。自然を手本にしながら近代化をはかるには、この道をたどらざるを得ず、節約を旨として、本来の姿に戻るしかないのです」

中国の近代化過程は相対的にたいへん短く、中華文明の大部分は農耕文明が生み出したものなのである。農業社会では、人と自然の相互依存度が最も高い。儒家であれ道家であれ、伝統的中華文明に深遠な影響を及ぼした中華の知恵は私たちに、人と自然は切っても切れない関係にあり、人類は天地の間にある万物の中の一部分であることを教えている。

中華文化とは異なり、西洋の文化は発展とは科学技術の外に向けた拡張であり、自然を征服することであるとしてきた。200年前にイギリスで始まった産業革命から今日まで、経済と技術の高度の発展は大多数の西洋人に現代的な生活をもたらしたが、それは自然資源をほしいままに略奪するという発展モデルのなせるもので、各種資源にたよらざるを得ず、わけても石炭、石油という化石エネルギーを大量に消費したことが、今日の地球レベルの気候温暖化を招いた元凶であることは言うまでもなかろう。

中国の近代化は西洋に比べ一世紀余も遅れたが、今日、西洋式のモデルには限界があり、発展は持続不可能であることは誰の目にも明らかなのである。このことは中国がどんな方法で発展するかを決定する上で、重要な意義を持つ。西洋モデルの高消費という従来からの道を突き進むのか、あるいは別の道を探すのか。

答えは明らかだ。中国のような大国が、もし従来どおりの高消費モデルで発展を遂げるなら、地球全体の資源を利用しても実現は不可能なのである。中華の知恵である人と自然との調和の道こそが、人類をめぐる生態環境の危機という今日の局面に対応できる道であり、伝統の知恵をどう生かすかが私たちに課せられた問題なのである。

■ 低炭素産業の発展

長い歴史の中で培われた「天人合一」という文化的な基礎は、低炭素の理念と重なって、今日の中国に根を張り芽を伸ばし始めている。この根がしっかりと大地に広がり、芽が伸びて葉を茂らせれば、低炭素の未来にとっての確かな条件になるに違いない。しかし、中国の近代化という列車は今、全速力で前進しており、経済発展の加速は、自然との調和が取れた麗しい未来への願いを無にしかねない、大きな試練に立っているのが現実でもあるのだ。近代化の恩恵に浴しながら、しかも自然環境を保護・尊重しようとするなら、理念の上では近代化発展と自然保全の統一がはかられねばならず、現実問題としては、大規模な低炭素化の現代的先端技術が普及されなければならない。

中国館の第三展示エリア「低炭素の未来」では、来館者のために多くの環境保護技術が紹介されている。環境を保全しながら経済発展を進めるためのさまざまな技術だ。太陽エネルギー発電、風力発電、エネルギー節約型電気自動車などなど。こうした技術は大自然の汲めども尽きぬエネルギーに依存しているが、いずれも枯渇の心配のないクリーンエネルギーである。経済発展には動力を提供し、人々の生活には便宜をもたらす。そして私たちの地球を損傷することはない。

未来を代表する環境保護技術ではあるが、私たちの現在の生活から遠く離れた未来の物ではないことを喜びたいと思う。事実、中国は低炭素環境技術産業の世界的な先進国で、太陽エネルギー発電設備の生産では世界最大の生産国の一つで、その製品は広く海外にも輸出されている。風力発電設備の市場も高成長を続けており、風力発電設備の生産額はこの四年間、毎年、前年比二倍の高成長を記録している。現在、一時間に一台の割合で風力発電機が中国の大地に設置されているという。国際的な風力発電設備市場での中国製品のシェアも増える一方で、全世界で設置される風力発電機の三台に一台は中国製である。

もちろん、低炭素未来を実現するためには、ただいくつかの技術にたよるだけではほど遠く、さらに多くの技術を開発すると同時に、すぐれた製品の商品化が待たれる。これからの二十年間には、そうした低炭素技術の発展は低炭素産業の発展を大いに促すことになろう。そうして何千何万の人々にクリーン産業で働く機会をもたらし、グリーン経済の発展モデルの基礎が築かれるのである。

■ 試される中華の知恵

「低炭素の未来」の展示は、まったく新しい人類の発展モデルを明らかにしたもので、参観者に大きなあこがれの気持ちを抱かせる。しかし、この夢を現実のものにするためにはたいへんな努力を傾けなければならない。この努力の一端を、中国の当面の政策に見て取ることができる。

2006年から2010年までの「第十一次五カ年規画」の期間に、中国政府は、初めて省エネルギーと温暖化ガス排出量削減のための重要な指標を提起した。それは、バランスの取れた経済発展と環境保護の関係を明らかにしたもので、その最も重要な指標は、単位国内総生産(GDP)当たりのエネルギー消費量を20%削減するというものである。2009年末までに、中国は一五・四%までの削減を実現している。今年末までに20%まで削減する任務は実現できるだろうか。今年年初から最近までの期間に、関連主管部門からは、実現が難しいとの報告が再三、政府に伝えられている。多くの地方では、目標の数値を達成するために工場の操業を停止したり、はなはだしきは、住民の生活に欠かせないエネルギー供給までカットしている地方もあるほどだ。目標の数値を達成するための涙ぐましい努力が続けられているのである。

この五年間に、中国では、従来の火力発電所をはじめ多くの時代遅れになったエネルギー生産施設が取り壊され、エネルギー効率の悪い工場の操業を停止してきたが、こうした措置は中国全体のエネルギー使用効率を高めるために積極的な作用を果たしてきた。しかし、その反面、工場の消失と同時に発生した失業や地方経済の一時的な停滞をまぬがれず、軽視できない問題が発生している。発展を模索する際には、汚染がひどく、エネルギーを多く消費する施設を淘汰すると同時に、それが社会的な大きな問題にならないよう、十分に配慮することも必要になる。低炭素で調和の取れた発展をめざすという理念を社会が共有することは決して難しいことではないが、この理念を実際に社会で推し進めていくための既成モデルは、まだできていないことも知らなければならない。

最も良いのは、あらゆる業種で、最先端・最良効率の技術を応用した設備が使われることである。そうすれば、中国の産業はこの先も強い国際的な競争力を保つことができるだろう。しかし、そのためにはたいへん高いコストがかかる。どうしたら有効な政策を通じて低炭素という新しい社会発展の道を切り開くことができるかに、中華の知恵がかかっているのである。中国では、2006年1月1日から『再生可能エネルギー法』が施行された。この法律の施行に励まされて、中国には風力発電、太陽エネルギー発電関連をはじめとする新しいクリーンエネルギー産業が一気に発展し始めたのである。

中国における各種の低炭素化関連産業の発展は、ひとり中国にとって重要であるばかりでなく、全世界にとっても極めて重要である。中国でクリーンエネルギー生産設備を大規模に生産する技術が開発されるなら、その技術のコストを下げることで、多くの発展途上国に普及することが可能なのである。そうなれば、より多くの人々が現代文明の快適な生活を享受することができよう。その時はじめて、中国は低炭素技術とその産業を世界にもたらすだけでなく、中華の知恵である人と自然との調和という理念を世界にもたらすことになるのである。

 

(筆者はNPO組織グリーンピース・インターナショナルの「気候変動とエネルギー問題キャンペーン・プロジェクト」マネジャー)

 

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