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景気「腰折れ」のなかった北京
発信時間: 2009-04-16 | チャイナネット

林国本

 

北京オリンピック以後、景気の「腰折れ」がガタッと来るのではないか、いや、「大丈夫だ」と議論されてきたが、どうもそういう気配は感じられない。

オリンピック諸施設が完工すれば、公共事業の着工数も減るのでは、という懸念の声も聞かれたが、どうして、どうして、一向に減る様子はない。国際金融危機というオリンピック以後の「腰折れ」を何倍も上回る津波に見舞われても、まだ底力のあるところを示していると言える。

オリンピックを振り返ってみると、大掛かりな施設「鳥の巣」、「水立方」のうち、「水立方」というデラックスな室内水泳競技施設は、海外の華人、華僑、香港、澳門、台湾の同胞の寄付で作られたものだから、コストはゼロ。市内や大学のキャンパスにつくられたものは、改革・開放三十年の成果を市民や学生たちにも享受してもらうという意味でも、有益な投資である。地下鉄、高速道路、北京―天津間高速鉄道も、改革・開放の成果をベースとしたインフラ施設のグレードアップと見直せば、これも当然の投資といえる。高速鉄道の完成で、北京天津間は文字通り日帰り圏となり、北京―天津の双方から観光客がどっと押し寄せている。こういうふうに考えてみると、先般、北京オリンピックは黒字であったという記事を目にし、そのうちにオフィッシャルな会計検査の結果が公表されるらしいので、北京五輪はうまくいったと言える。

また、関係者たちも「鳥の巣」、「水立方」など、諸施設の商業的利用に力を入れており、長い目で見れば観光スポットとしても大に利用できるので、総合的に見れば、バランス・シートは理想的になると見てもよいのではないだろうか。

昨今の国際ビッグイベントを見て、昔なら、不用といってもよかった出費が増えているケースもある。つまり、テロ防止のためのセキュリティー面の出費が急増していることだ。これはなにもオリンピックだけではなく、今回のG20ロンドン・サミットをみてもわかるように、セキュリティのためにたいへんな力を投入している。さらにいうならば、海賊行為への対策に、国連の要請のもとで一部の国が艦艇を派遣していることもそれに似たケースと言える。

まあ、とにかく、北京オリンピックは成功裏に終わり、黒字だったという喜ばしい初歩的な結論が出ている。しかし、筆者はそれ以上に非常に大きな成果があるとみている。それは国民の国際意識の向上である。つまり、対外開放意識のレベルアップである。これはソフトパワーの内容のひとつとも言いうるもので、やがていろいろな面でプラスの効果が現れてくるものである。

さいきん、北京ではさらに何本かの地下鉄の建設、郊外区への都市軽便鉄道の建設、北京南部の金融ポートの建設が公表され、工事も始まっている。また、北京市のトップ層は東奔西走して、開発区や企業を視察し、国際金融危機のマイナスの影響を最小限度に食い止めるために力を入れている。北京の自動車販売台数は漸増の兆しが見られ、書店めぐりのついでに、近くの商店をのぞいてみても、財布のヒモをしめているような気配も感じない。とくに感心しているのは、レストランなどでは、家族連れで外食を楽しんでいる人たちが、これまでと同じようにいる。余談になるが、さいきん、北京の西部に「台湾グルメ街」というものもできるそうだ。台湾への観光がさかんになっている昨今、こういうグルメ文化の相互交流も当然のことである。

外国のメディアが懸念していた「腰折れ」はなかったが、全然問題がないわけではない。大学新卒の就職問題、これは現在、いろいろなやり方で解決されつつある。自動車販売台数の漸増による大気汚染問題の再度深刻化の懸念、さらに将来的には、電気洗濯機、電気冷蔵庫、クーラーなどがすべてそろった段階で、また、かなりの人たちがマイカー族になった段階で、次は消費者になにを買わせるか、という「成熟社会」の新たな課題も浮上してくることになろう。

筆者の私見ではあるが、われわれより二十年ぐらい先を進んでいる、いわゆる発達諸国の低成長の悩みも、他人事とは思わないで、次の三十年の近代化建設のゴールのあとに、われわれも直面するかもしれない課題を、「ころばぬ先の杖」として、シンクタンクの賢明なる諸氏に、先取りして考えてもらいたいという気持ちをもっているが、杞憂かな?

 

「チャイナネット」 2009年4月16日

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