中国では、天津の楊柳青という地名がよく知られている。中国民間芸術の一つ、楊柳青木版年画が発達してきた土地柄だからだ。 年画は、その名のとおり新年(中国の春節=旧正月)のときに貼る絵だ。その昔、年末ともなると各家が母屋や寝室、窓、門、竃の前などに新しい年画を貼った。正月ムードを盛り上げる意味もあるし、幸福を祈り、厄を除ける意味もある。 楊柳青木版年画は明末(十七世紀中期)にはじまり、清代中期(十八~十九世紀)には、町内をはじめ周辺三十カ村あまりに約百軒の年画工房ができたという。年画職人は三千人を上まわり、「家々が彩色をよくし、戸々が絵画に長じる」という勢いだった。楊柳青年画の内容は、歴史物語、神話・伝奇、戯曲人物、世俗風情、山水花鳥などと幅広い。吉祥如意、謹賀新年、繁盛・平安を祈るなど、慶びと吉祥を招き入れることは天津の楊柳青年画の終始一貫したテーマであり、春節の喜びに満ちた雰囲気をよりいっそう盛り上げているのである。たとえば、コイを抱えて、ハスの花を手にするかわいい子供を描いた「連年有余」という年画は、連と蓮、余と魚の発音がそれぞれ同じであることから、毎年「余り」、つまり余裕があるような裕福な暮らしが出来るようにとの願いが込められている。これはすでに年画作品の古典的存在となり、中国で広く知られている。楊柳青年画は比喩、写実などの多種多様な手法を使って中国の人々のしあわせを祈願する気持ちを表現しており、それぞれの時代の出来事・風俗及び歴史の伝承を直接反映していることがその大きな特色。人々の生活と緊密にかかわっていることから、芸術的な価値ばかりか、史料としての研究価値も高い。レアリズムとロマンチシズムを融合させた風格は、楊柳青年画芸術の主流となっており、現在まで継承されている。 製作のプロセスは、輪郭取り、刻版(版木に輪郭を彫ること)、印刷、彩色、表装の五つにわかれ、前半のプロセスは各地の木版年画の作り方とほぼ同じである。いずれも下絵にもとづき刻版し、重ね刷りをするのだが、異なるところは手作業による彩色が何回も行われ、版画の刀痕と絵画の筆跡、色彩をたくみに融合させていることだ。重ね刷りをした墨線や印刷された半製品は、丹念に描いて軸をつけ、表装をよくすれば、いつまでも色あせることなく文人墨客や富豪に親しまれる逸品となった。 「チャイナネット」/『人民中国』 2005年2月5日
|