厳しい試練に直面している中米関係――中国社会科学院アメリカ研究所の王緝思所長にインタビュー
アメリカのブッシュ政権が登場して以来、米本土ミサイル防衛計画(NMD)、中米軍用機衝突事件、台湾への武器売却、軍事的戦略のアジアへのシフト、李登輝の訪米、陳水扁のアメリカ立ち寄り許可など……、中米関係には懸念すべき変化を少なからず目にすることになった。中米関係の悪化が最低点に近づいていると見ているアメリカのベテラン分析家もいる。中米関係の現状についてどのように評価すればよいのか。中米関係の見通しは一体どうなるだろうか。中米関係悪化の原因はどこになるのか。「中国網」(チャイナネット)は中国社会科学院アメリカ研究所所長・アメリカ問題専門家の王緝思氏にインタビューし、これらの問題について分析してもらった。
中国網(以下「中」と略す):われわれはここ数カ月以来、中米関係が「急激に悪化する」すう勢を呈していると見てもよいのか。
王緝思(以下「王」と略す):ブッシュ政権が登場することにより、中米関係には人々を懸念させる少なからぬ変化が起きている。中米関係のムードは消極的なもので、軍用機衝突事件発生後、緊迫しているとも言える。一部のアメリカ政府担当官は中国に対し友好的でない言論をしばしば発表し、中国をアメリカの戦略的ライバルと見なしている。アメリカの政策決定グループからはアメリカの戦略的重点はヨーロッパからアジア・太平洋地域にシフトしたという言い方がよく伝わってくる。中国に対する長期的な意図がそこに秘められていることは明らかである。東アジアにあるアメリカの戦略的重点を南にシフトさせると主張する人もいる。実際は中国が武力で「台湾独立」を抑止することを防ぐもので、中国と軍事的対抗に備えるものである。アメリカ政府は陳水扁の中南米訪問の際、アメリカに立ち寄ることを許可し、国会議員との会見を手配した。アメリカ人は日本、オーストラリアなどの国との軍事同盟を強化すると公言し、さらに戦略的にはインドなど中国の隣国を抱き込み、中国を牽制しようと企んでいる。今年、アメリカ政府は台湾への武器売却の面で更に遠くまで歩んでいる。台湾に潜水艦などこれまで売却したことのない武器を売り渡した。ワシントン当局は独断専行して、NMD構想をおし進め、それには間違いなく中国に対するものが含まれている。アメリカ国内の反中国勢力はかつてなく活発となり、中国が宗教の自由を抑圧していると非難している。穏やかな対中政策を主張している一部のアメリカ人および多くの中国系アメリカ人は目に見えない政治的プレッシャーを感じ、人身攻撃を受けている人もいる。
これらの動きは、中米関係が新たな困難な時期にあることを示し、言い換えれば、悪化する過程で厳しい試練に直面しているといえる。しかし、中米関係のこのような消極的なすう勢は、ブッシュ氏が登場する前からすでに現れていた。4月1日に中米軍用機衝突事件が発生した後、これまで潜在していた矛盾が顕在化するようになった。アメリカは覇権主義の心理状態と行動をよりいっそうあからさまに現わすようになった。「中米ハッカー大戦」に代表される両国民間の対立もこれまでよりさらに激しくなっている。
しかし、中米関係が「急激に悪化する」と言うならば、それはいささか大げさ気味だ。
まず、両国政府間の外交ルートには滞りはなく、軍用機衝突事件は外交ルートで解決されているのである。双方は武力行使をもって脅し合ってはおらず、政府側の公式声明はすべて自制的な態度をとったものである。銭其シン副総理が3月にアメリカを訪問した時、ブッシュ大統領を含むアメリカの外務担当のすべての高官と会見し、アメリカ側のもてなしのレベルはこれまでより高く、中国を重視し、中米関係を重視していることを示すものであった。軍用機衝突事件などの問題の悪影響を受けて、両国の政治関係関係が冷え込んではいるが、ブッシュ大統領が今年10月にアジア太平洋経済協力機構 (APEC)首脳会合に出席する期間に中国を訪問する計画は変わっていない。
その次に、両国の経済貿易関係は政治的影響によって著しく損われてはいない。10数年来、経済貿易関係は中米両国の正常化を維持する原動力であり、中米間のトラブルのショックアブソーバーでもあった。もし中米関係が真に「急激に悪化していれば」、経済貿易関係も間違いなく影響を受けているだろう。
中:現在の状況にかんがみ、予見できる将来までの短期間に、われわれは中米関係の見通しに対し悲観的な態度をとるべきかどうか。
王:「悲観的」と軽々しく言うのは時期尚早だ。私は今年4月末にアメリカを訪問した時、アメリカの中国を敵視する勢力はかまびすしいものがあると感じた。アメリカの多くの中国問題専門家はこのことを懸念していた。長年中米関係を研究している中国の学者として、私もいささか悲観的な気持になっていた。しかし、帰国してから別の雰囲気を感じた。中国政府はどっしりと揺るぎない姿勢をとり、国内事務と外交事務に秩序整然と取り組み、天が崩れ落ちてくる心配はいらないということを感じた。
中国の公衆はほとんどが「中米関係がよくなるとしても大してよくなることはないが、悪くなるにしても大して悪くなることはない」ということを知っている。これは今でも変わっていない。中国を敵視することは、一部のアメリカ人(兵器の製造・売却によって金を儲けている人、右翼の極端な保守勢力など)の利益に合致しているが、アメリカの国としての長期的な戦略的利益と経済的利益には合致せず、ひいては中国市場に目を注ぐか、すでに中国で大きな利益をあげている多国籍企業の利益に合致するものではない。そのため、アメリカ政府はアメリカの長期的利益にもとづいて、きわめて深刻な政策的誤りを犯すようなことがなければ、中国を敵視する道を遠くまで歩んでいくことには至らない。
日本、EUなどのアメリカの同盟国、中国の周辺諸国は皆中米両国が対立する道まで進んでいくことを望んでいる。世界とアジアの長期にわたる不安定ということになれば、これらの国々の利益を直接損なうことになる。そのため、これらの国々は対中関係を悪化させないよう忠告している。アメリカの先進的な武器を受け入れている台湾においてさえ、いったん中米間に武力衝突が生じたら、真っ先に影響をこうむるのは台湾であるから、中米が対立することを望まない人もいる。
冷戦終結後の中米関係の歴史を総合的に見れば、当面の情勢と似通ったものとして少なくとも三つの出来事がある。一つは1989年の「天安門事件」であり、もう一つは1995年の李登輝の訪米で、最も近いものは1999年のNATOによる中国駐ユーゴ大使館爆撃事件である。すべての危機のあとには、転機が現れ、中米関係のこの「よくになったり、悪くなったり」することは内在的な法則があることを示している。
われわれは必ず問題の重大性を正視しなければならず、アメリカと長期にわたって闘争する準備をしなければならないが、このような闘いは平和な状態のもとで進められる政治的闘いで、正常な国家関係を維持するための外交の闘いである。もし「悲観的な」ことが中米関係は大きく好転することはありえないと言うなら、このような悲観には道理あるといえよう。もしも中米関係に船が転覆するに至るというなら、現在現れているウズ巻きはそんなに大きくなく、暗礁もそんなに浅いところにあるものではない。
中:中米関係が悪化する原因は権力の座についたばかりのブッシュ政権、新政権の外交政策、対中政策と関わりがあるのかどうか。ブッシュ大統領自身の政治的理念および国際関係に対する見方、ブッシュ政権の外交指導グループの政治的理念および外交政策は対中政策の制定に影響を与えているのか。
王:アメリカ政府は現在の中米関係の困難に対して主な責任を負うべきであるということは明らかである。
チェイニー米副大統領、ラムズフェルド米国防長官は対中政策の強硬派といわれ、ライス米国家安全保障担当補佐官は旧ソ連をつき崩した手段で中国に対処しようとしており、対中政策の政策決定者の中には、中国を理解するものはほとんどいない。「タカ派」は政府と国会での勢力を強化し、アメリカの国内で対外政策が右向きにするようになることを示している。
アメリカ共和党の一貫した対外政策の主張は実力を後ろ盾とするもので、戦略のバランスを重視している。対中関係での表われ方は、今のように中国の実力を誇張して「中国威脅論」をでっちあげることを特徴とする実力政策で、また、中国の周辺で虚勢を張り、中国の影響を弱めることにある。これは共和党右翼の政治的主張と利益に迎合するものである。現在、共和党政権と共和党メンバーが多数を占める国会が同時に政権の中にいるため、それを抑制する力は比較的弱いのである。
アメリカの対中政策が強硬になりつつある原因は、アメリカの唯一の超大国としての地位が重大な挑戦を受けておらず、アメリカの覇権主義の野心が膨張しているからである。ここ数年来、アメリカの外交は重大な失敗にぶつかったことがない。そのために、高慢な気持を持つようになってきたのである。アメリカの経済は現在不景気だが、顕著な衰退の兆しはない。アメリカの軍事力は技術革命に促進されてたえず強化されている。ブッシュ政権が外交政策において高圧的な姿勢をとっているのは、みずからの力への過大信を基礎とするものである。
中:現在アメリカ国会がこの緊迫した局面を緩和するため、理性的な態度をとり、対中政策を調整する兆しがあるのかどうか。
王:現在、アメリカの対中政策は中国を敵とする方向で調整するものであり、まだ明らかな元に立ち返る兆しは見られない。
しかし、アメリカの外交におけるいまのやり方は、遅かれ早かれ自分が損をすることになる。アメリカの外交がいまのように、各分野、各地域で全面的に出撃し、同盟国と非同盟国の意見を耳にせず、高慢な態度をとるのはあまり見られなかったことである。それが不可避的に外交的挫折を味わう時、相応する政策を調整できなくなる。アメリカ国内で、共和党政権と共和党が支配する国会は、民主党からの反撃に会い、その政策主張を貫徹しにくくなる。ブッシュ政権はいつ硬直した対中政策を転換するかはまだ言いにくい。何カ月か観察して、それが確定したグローバル戦略がどういうものか、その他の大国との関係をどのように発展させるのか、中東および一部のホットな問題でどんな挫折にぶつかるのか、国内の経済状態がどうなるのかなどを見なければならない。
中:中国が近いうちに対米政策を調整する可能性があるのかどうか。
王:中国の対米政策はアメリカの対中政策よりもいっそう安定したものである。私個人はこう見ている。中国の対米政策は引き続き冷静に観察し、落ち着いて対処する姿勢を引き続き保つとともに、関係が悪化するならば、断固として闘うことに備えるというものである。中国が対米政策を調整するかどうかは、主にアメリカが根本的に対中政策を調整するかどうかにかかわっている。アメリカがあくまでも中国を敵としようとするならば、中国としても心に決してアメリカと対抗する以外にない。しかし、現在、中国は外交面でのゆとりがかなりあり、アメリカ以外の大国との関係が安定しているか、いくらか改善されており、周辺諸国との関係もかなりよく、発展途上国とは良好な関係を保っている。対米関係においても、利用し、掘り起こすことのできるプラスの要素がある。根本的に言えば、国内の仕事を立派におしすすめることが、対米関係を安定させ、国際環境を改善する主要な保証である。
「チャイナネット」2001年6月11日
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