イー族は中国の少数民族の中で人口が多い民族の一つであり、悠久な歴史があり、支系も多く、暮らしている地域も広く、主に中国の南西地域の雲南、四川、貴州の3省に分布している。
『打跳踊り』
イー族の人々の最も好きな、最も普及しているグループで踊り、自分たちで楽しむための踊りである。各地域では『打跳踊り』のスタイルがいくらか異なり、名称も異なる。基本的形態は男、女、男、女という具合に、手に手をとり合って輪を作り、時計の針の逆方向に回って踊り、いろいろな足の動作がある。
『打跳踊り』は時期の選択においてもかなり自由であり、豊作の後、農閑期、明月の夜、新年と祭日、結婚式、葬儀などで、いずれも『打跳踊り』を踊ることができる。この踊りを踊るたびに、人々は脱穀場で輪を作って、伴奏楽器のリズムに合わせて踊りながら歌うのである。歌詞は非常に豊かで、即興で目の前の情景をもとに作詞したものも、おどけて見せるものも、生産や生活を表わしたものも、神話と伝説およびおとぎ話もある。伴奏楽器には、笛、蛇皮線または葫蘆笙(ひょうたんと竹の管で作った吹奏楽器)がある。
イー族にとっての重要な祭日においては、四方八方の村人が一カ所に集まって『打跳踊り』に打ち興じ、数万人に達する場合もある。人々は夜を徹して心ゆくまで踊り狂い、数日踊ることもある。
『花鼓踊り』
雲南省楚雄イー族自治州南部山間地帯の双柏県と峨山イー族自治州の新平県一帯に伝わっている、演技を重んじる踊りである。『花鼓踊り』は一般は村の花鼓隊によって踊られるもので、踊り手はすべて男性である。
『花鼓踊り』の演技形態は、1人が木製の竜の頭を手にして指揮役となり、竜の頭の上にはキジの羽毛が挿してあり、赤い絹地で縛り上げた球状の物がついており、他の4人が太鼓を背負い、太鼓はヨコに腰の左側に掛けるようになっており、左手に白いタオルをし、右手は太鼓のばちを持って太鼓を打つというものである。太鼓を打つことは一定のプロセスがあり、竜の頭を手にした人が手中の道具で指揮する。動作の特徴としては、スネを敏活に動かし、高難度の技巧的動作がたくさんあり、例えばスネを空中で丸を描くように動かすなどがそれである。『花鼓踊り』を踊る時、踊り全体が跳ねる動きの中で行われ、踊り手の体力の消耗が激しいため、段階に分けて踊り、一段落踊るたびに、まず花鼓歌を一段落歌うことになっている。『花鼓踊り』はたくましくて力強く、リズム感が鮮明で、ずっしりした拍子の時は上へ跳ね、一拍子をとって太鼓を一回たたくことになっている。
『四弦琴踊り』
この踊りは雲南省楚雄イー族自治州ではやっており、地元のイー族の人々に非常に好まれており、自分で踊り自分で楽しむ踊りである。農閑期や定例の休暇の日に、若い男女たちが空き地に集まって、男性が四弦琴を抱えて弾きながら踊り、他の人たちは輪を作って跳びはね、踊り狂うのである。動作の変化につれて体の方向を絶えず転換するようになっている。踊りは四弦琴を抱えている男によって指揮され、彼は思いのままに楽曲とステップを切り換えて、踊り手が変化したステップについてくるよう求められている。
雲南省楚雄イー族自治州の若い男女は『四弦琴踊り』を踊る時に結婚相手を選ぶことを常としており、非常に面白くてユニークなものである。踊る時、男性が前になってステップを絶えず切り換え、それについていけない女性はだんだん脱落し、最後に最も優れた者が残り、どんなに変えてもぴったりとついてくることができるばかりでなく、ステップが乱れることもないのである。この一組の若い男女が恋人同士になる訳である。
『楽作踊り』
この踊りは伝統的な自分で踊り、自分で楽しむ踊りである。普段、若い男女たちの主な娯楽の一つであり、結婚式、葬儀と祭祀の行事で欠かせぬ出し物で、イー族の伝統的な祭日には往々にして数日間踊りつづけることになっている。男性は少年の頃からかなり年をとるまで踊れるが、女性は母親になるともう踊ることができなくなる。
『楽作踊り』は歌、楽器と踊りの三者がしっかりと結び付いた歌と踊りの形態のものである。踊る人数は限られることなく、多くの場合は偶数の人たちが輪をつくって踊ることになっている。踊りには、一定のプロセスがあり、踊る前にまず叙情的な歌を歌うことで始まる。踊りはソフトでしなやかで、膝部の曲げ伸ばしには弾力性があり、踊っている時の腕の動きも美しい。踊り手は踊りながら歌い、楽隊は踊りに参加しないが、伴奏のリズムに合わせて体を揺り動かし、高らかな声で唱和して興を添えることになっている。
『アーシ跳月踊り』
イー族の支系であるアーシ人、サニ人の民間の踊りの一つであり、雲南省のイー族居住地域ではやっている。
農閑期や祭日の夜になると、イー族のアーシ人は老若男女を問わず、笛や呼び子を吹き、蛇皮線を弾いて軽快な楽曲の中で踊ることが好きで、これが『アーシ跳月踊り』である。
『アーシ跳月踊り』のステップは初めから最後まで跳躍感を保ち、リズム感が鮮明で、軽快である。男性は楽器を手にして演奏しながら踊り、女性は歌いながら踊り、男女のステップは基本的に同じもので、主な動作は3歩走るごとに2拍子ストップし、さらに前へ足を上げ、同時に拍手をしてもとのところで回って跳ねるのである。踊りの中で時々「アズズ!」という歓声と鋭い口笛の音が入り混じり、雰囲気をさらに楽しくて熱気に満ちたものに盛り上げていくのである。隊形の変化には前進、後退とそれを交錯させるものがある。踊りの楽曲のリズムはかなりユニークなもので、5拍子のものである。伴奏楽器には笛、大蛇皮線または小蛇皮線、木の葉などがあり、笛を吹く人はコンダクターでもあれば踊りのリード役でもある。
『銅太鼓踊り』
自分で踊り、自分で楽しむ大衆的な踊りであり、祭日または結婚式、葬儀の時の出し物である。踊る時には、銅製の太鼓をたたいて伴奏する。男女はいずれも参加することができ、人数は限られない。踊りのスタイルと律動がユニークである。それは胸、腰およびヒップを大きく揺り動かすことを基調とし、清新な感じで、素朴そのものである。ステップはそれほど複雑ではなく、基本的に一歩を踏み出すごとに足を一回合わせ、前またはヨコへ進む時、膝部は揺れ動く中で曲げたり伸ばしたりする。手をとることも、左右の手を交互に上下に振ることもある。男性は左手で銅製の太鼓を抱え、右手で太鼓をたたき、ステップは男女とも同じである。踊る時に歌を歌い、クライマックスに達したら歓声をあげ、気持ちが激しく高ぶる。
『羽織フェルト踊り』
四川省の涼山一帯に住んでいるイー族の間ではやっている踊りの一つであり、祭日または結婚や葬儀の時に踊ることが多く、歌いながら踊り、朗詠しながら踊ることもあり、男女とも参加することができる。フェルトは羊毛で作ったもので、保温と風を遮る効果があり、イー族の人々の生活の中で欠かせないものである。
『羽織フェルト踊り』は手の動作を主とし、踊る時に、羽織フェルトを肩に羽織って、両手は羽織フェルトの両側の縁を持って上下、左右に振り回し、或いは両手で交互に上から下へと覆うかまたは片手を腰に当て、片手を裏側と外側へ揺れ動かし、または羽織フェルトを前と後ろへくり返して振り回し、前は胸の前まで、後ろは双肩に掛けるようになるまで振りまわす。踊りの歩み方は主に一歩を踏み出すごとに足を一回合わせ、スロー・ステップで歩くなどで、着実かつ穏やかな足取りで、小さな歩福でスピーディーに進む時は、軽快で楽しい。
『手を振る踊り』
四川省涼山イー族自治州の一部のところではやっている民間の踊りであり、多くは結婚式の時に、娘さんたちが民謡を歌いながら向かい合って踊ることになっている。『手を振る踊り』は二人を一組とするか四人を一組として踊る形をとり、人数が多い場合は、ヨコ並び、斜めの並び、四角形などの隊形があり、隊形と動作はすべて踊りのリード役にしたがって変わる。手の振り方は上下へ振り、前後へ振り動かし、左右へ振るなどで、振幅はそれほど大きくないものである。
『脚を向かい合わせる踊り』
足部の動作を主とする踊りであり、もともと祭日及び結婚式と葬儀の時に踊るものであったが、現在は人々が自分たちで踊って自分たちで楽しむ踊りへと発展し、若者たちに喜ばれている。踊る時に楽器の伴奏はなく、歌も歌わず、力強いステップの響き音およびよく合った頭の中のリズム感でともに踊り、ときには人々が歓声をあげ、それによってステップを合わせるのである。多くの場合は、二人の男が向かい合って踊り、動作には荒っぽさがあり、リズムが鮮明である。男女が向かい合って踊ることはめったに見ないが、男女が『脚を向かい合わせる踊り』を踊る時、ピッタリと息が合って意味深長である。手の動作は少ないが、踊りの中にはさまざまな手をとる方法と動作がある。
『羊皮鼓踊り』(ヒツジの皮を張った太鼓の踊り)
もとは四川省涼山地域の祈とう師が病人のために魔除けをする時に踊ったもの。踊る時に、左手で太鼓を持ち、右手は太鼓のばちを持ち、口の中でぶつぶつ何かをしゃべりながら太鼓を打って体を震えさせ、双肩を前後へ激しく揺り動かし、少し腰を曲げる恰好になる。完全にしゃがんだ姿勢で左右へ跳ね、さらに上へ高く跳ねるなどのテクニカルな動作もある。ここ数十年来、地元の舞踊関係者の収集、加工を経て、次第に舞台の上でも演じられるイー族の民間踊りとなった。
「チャイナネット」2005年6月10日