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「日中両国の国益を踏まえて理解を深める」──前中国駐在日本大使・佐藤嘉恭氏に聞く
このほど、記者は前中国駐在大使・佐藤嘉恭氏を訪ね、中国に対する認識や中日関係などについてうかがった。一九三四年に生まれ、一橋大学法学部を卒業して外務省に入省した氏は、英国、米国、香港に外交官として駐在したほか、大平正芳内閣総理大臣秘書官、外務省経済局長、外務大臣官房長、OECD駐在日本政府代表部特命全権大使等さまざまな要職を歴任した。その間、外交官を務めながらオックスフォード大学に留学し、米ハーバード大学で研修した経験もある。一九九五年三月から九八年五月まで、中華人民共和国駐在特命全権大使として活躍し、離任後、豊かな外交生涯を終えた。中国は氏にとって、外交生活の最後の舞台であるため、特に深い印象を残している。以下はインタビューの内容である。

 中国に対する印象と認識

 記者 中国駐在大使をお務めになる前から、中国の事はよくご存知だったでしょう。北京に行かれた時、中国に対し、どのような認識をお持ちだったのでしょうか。

 佐藤 率直に申し上げて、私は中国の事を知らないままに、中国へ赴任したのです。もちろん、外務省に長く務めていましたから、常識的な事は知っています。しかし、中国に対する深い理解や認識は持っていませんでした。中国駐在大使に任命された時、いままで中国の経験がない人がなぜ中国に行くのかと、不思議がる人や批判的な声もありました。私はそういうことを背中に背負いながら、中国に行ったのです。

 記者 それは相当緊張されたでしょう。

 佐藤 それはそうです。どこへ行くのにも責任がありますから、緊張感は免れません。とくに大きな国、中国に使命を持って赴任することに対して、特別な緊張を感じました。

 記者 ほかの国の人より日本人、特に年輩の日本人の中には、中国の古典や文化がお好きな方が多いようですね。

 佐藤 そうかも知れません。しかし、中国には五千年の歴史がありますから、私には分からないことが多いです。もし、中国の事、中国の文化を手に取るように分かる方にお目にかかったら、畏敬の気持ちを持たずにはいられません。

 記者 三年間の中国駐在の体験についてお話していただけませんか。

 佐藤 いろいろな事を勉強する機会になったと思います。日中関係というものは日本の対外関係の中で、最も重要な隣国関係です。それに関連していろいろと、日本ではなかなか理解しにくい事でも現場に身を置いて思考することができたので、私個人にとっては大変大きな財産になっております。

 また、中国滞在中、できるだけ各地を訪問する機会を逃さないように努力していました。残念ながら、広い中国を全部回ることはできませんでしたが、あちこち旅をしてみますと、中国人の気持ちをだんだんと理解できるようになり、さまざまな分野で活躍している人々のことがよく分かりました。そして、中国の歴史を学ぶことができましたし、場所によって濃淡がありますが、日本と中国との結びつきが各歴史の過程の中で存在していることが強く感じられました。これは隣国中国との関係を考える上で、大きな財産になっていると思います。

 三年三カ月間の中国での任期中、日中関係にいろいろな事が起こったのは事実ですが、中国側も日本側も、各指導者や関係者が日中関係を発展させなければならないと、努力しましたので、両国関係は全般的にいい方向に向かい、いろいろな分野で発展したのではないでしょうか。

 日中両国の相違点

 記者 ご自分の目で見た中国について、特に深く印象に残っていることがありますか。

 佐藤 まず、生活風習の面で日本と中国の似ているところが印象的でした。歴史的に溯ると、隋唐時代に、日本は中国からたくさんの文化を受け入れました。一年のこよみをたぐっただけでも、旧正月の祭りとか清明節など、いろいろ季節にちなんだお祭りが、われわれの身近な生活の中で、肌にピンと来るような感じで存在しています。

 他方、中国と日本はかつて、「同文同種」と両国関係を喩え、いまは「一衣帯水」という言葉をよく使っています。ところが、両国の人々の物の考え方や発想などは相当違うと思います。中国人は長い歴史の中で、大陸的に育まれた考え方や発想をします。それに対し、われわれ日本人は「以心伝心」で物事を考えます。中国は五十六もの民族がある大きな大陸の国ですから、中国人同士の間では、考え方を伝えるのに「以心伝心」にはよらない社会だと思います。やはり物をはっきり言ってお互いの考えを訴えるわけですね。

 例えば、私も他の日本人も北京や上海の町で、中国人同士の喧嘩を見たことがあります。とちらも大きな声で自分の主張を言い張り、それを囲りの人に聞かせる。しかし、ぜったい手を出さないんです。これを生活文化と表現すれば、われわれ日本人とは違います。日本社会でも「喧嘩っ早い」という言葉があります。特に下町の活きのいい人たちが喧嘩すると、すぐ手が出るわけです。

 こうした物の考え方や、相手との対話をどうすればいいかということは、日本と中国でかなり違います。ですから、中国人と日本人が一緒に仕事をする際、そんなはずじゃなかったという結果になって、時に争いが起こることもあるわけですね。これがどこから来ているかというと、最初にきちんとお互いの話が出来ていないわけです。日本人は、そこまで話したんだから中国人は理解するはずだと思っている。ところが、「そこまで話した」という「そこ」がはっきりしないケースがあります。これはやはり日中の文化の違いだろうと思います。

 しかし、両国には長い交流の歴史がありますから、非常に通じているものもあると思います。日本は昔、中国から漢字や仏教などたくさんの文化を学んで、われわれ文化の根っ子を作ったのです。両国の文化の根っ子は同じだと言えるでしょう。この意味で、日中間の大きな歴史の流れの中で、お互いの文化的交流は世界で誇り得る関係だと思います。

 中国経済への評価

 記者 近年の中国経済をどうお考えですか。

 佐藤 すばらしいと思います。私が赴任している三年三カ月の間に、みるみるうちに、北京は大変近代的な都会になりました。上海などの都市も行くたびに、高速道路が出来たり、浦東の開発など着々と進んでいます。ところが、経済のことですから、いろいろな矛盾が出てきたのも確かなことです。発展そのものの過程で避けては通れないものがありますから、中国もそれにぶつかると思います。これは日本も経験したことです。経済成長の環境の中では、取り残される人々も出てきてますし、産業構造もすべて順調に進むわけではありません。特に中国の場合では、国有企業という非常に大きな問題を抱えています。これを市場経済の中にうまく組み入れていこうというのが改革のわけですからね。しかも、改革開放政策の下で、経済を対外的に開放しながら進めてきたのですから、先進諸国経済と中国の改革開放経済とが段々入り交じってくる。そこに政策上のいろいろ難しい問題が出てきていると思います。

 しかし、大きな流れを見ると、いまの江沢民・朱鎔基政権の、構造的な問題を解決しようという意気込みは、賞讚されねばならないと思います。今度、中国はいよいよWTO(世界貿易機関)に加盟するので、改革開放政策はさらに進むでしょう。実は、中国経済に対し、われわれ近隣諸国も欧米の国々も、順調に発展するよう望んでおります。

 日本の教訓

 記者 昔、日本は中国から文化を受け入れ、国の土台を作りました。近代になって、欧米の進んだものを学び、段々と経済的成功を遂げましたが、そこに至るまでにはさまざまな経験をしたと思いますが。

 佐藤 国が発展するときには世界のさまざまな先進的なものを多く学び取りながら進んでいくわけですね。日本は明治維新から対外的に開放し、当時進んだ欧米諸国に追いつこうという政策を取りました。それは国民の生活を豊かにしようという考えと、列強諸国の争いが激化する中で国を強くしなければならないという考えにもとづいたものです。しかし、不幸にも、日本が強くなると同時に、軍事力も強くなり、とうとう軍国主義に走る誤りを犯すに至りました。戦後、日本はその誤りに対する認識を踏まえて、平和、自由な民主主義国家に生まれ変わったわけです。

 中日関係を支える経済協力

 記者 日本はアジアでいちはやく近代化を達成し、二十世紀後半、戦後の廃墟の中から急速にめざましい発展をとげ、世界先進資本主義諸国の隊列に入るに至りました。ところが、二十世紀の最後の二十年間、アジア、特に東南アジアの国々や韓国は急成長の道を歩み、欧米で二百年かかった経済成長の過程を、ほぼ一世代で成し遂げました。昨年の一人当たりの国内(あるいは域内)総生産(GDP)によると、韓国は一万五百五十ドル、香港は二万五千二百ドルに達し、シンガポールは三万二千八百ドルを超え、ほぼ日本と伯仲するぐらいです。また、マレーシア、タイも成長の道を歩みました。このほか、中国はこの二十年、改革開放政策を必死に進め、問題を抱えながらも、経済的な高度成長を続けてきました。こうしたことを背景に、中国と日本との関係をどうお考えですか。

 佐藤 日中関係についていろいろな角度からとらえることができますが、先に申し上げたように、日本にとっては、世界各国との関係の中で、日中関係は一番重要なものの一つだと思います。私はいま政府の立場から離れましたが、政府のみならず、日本の経済界、文化界あるいは学界の交流は非常に重要な基本的なことだと思います。その基本を踏まえる時に、日本として、忘れてはならないのは、過去の誤りを繰り返してはいけないことです。それはわれわれ日本の問題として、きちんと認識しなければなりません。

 一方、中国の改革開放は今後、ますます諸外国との協力を必要とすると思います。その中で、日本との関係をもっと大事にしなければならないでしょう。

 はっきり言うと、国と国との関係というものは、当然自分の国の利益になることを考えるわけですから、日本にとっても、それが利益だと感ずれば、中国との経済協力を強めていくでしょう。中国も日本との経済関係を強化することは中国の国益にかなうと考えるならば、どうしても日本との協力が必要だと思います。

 日中国交正常化から三十年近くになりますが、その中で、一番重要な架け橋になっているのは日中間の経済関係だと思います。これは数字により証明されています。日本にとって、中国はアメリカに次ぐ大事な貿易パートナーです。中国にとっても、日本が最も重要な貿易パートナーです。直接投資の分野でも、お互いに大事なマーケットになっています。とりわけ、日本は、多額の経済協力をODA(政府開発援助)という形で、中国に対し行っています。こうした両国関係における経済分野の占める割合は、誰の目にも明らかだと思います。

 経済協力を発展させる余地は、これからもあると思います。単純な貿易だけではなく、テクノロジーの移転も、情報産業も経済の主流になってくると考えます。この意味で、貿易、投資、技術協力・移転、科学分野、そして中国の経済発展に伴う環境問題など、いろいろな協力が両国間で進んでいくでしょう。日本の環境保護技術は世界に誇れるものがありますから、中国にも大きく役に立つことができると思います。経済分野の協力と環境分野の協力は両国にとって、非常に重要な橋になっています。両国の国益から考えると、今後も両国の関係はますます発展していくでしょう。

 このほか、両国関係を支える上において、お互いの立場や考え方を理解することは、ますます肝心なことになると思います。中国が段々と経済的に豊かになっていく今、何がわれわれと中国との関係を支えるかと考えれば、やはりお互いに理解し合い、尊重し合うことではないかと思います。お互いに相手の気持ちと文化、立場を理解し合い、尊重し合うことこそ、大切なことだと考えます。

 現実を踏まえて

 対話と理解を深める

 記者 近年、中国と日本の間には、確執や不愉快なことが出てきましたが、ともにアジアに位置する二つの重要な国、また歴史と文化の源をともにする隣人同士である中国と日本が、どのようにこれらの問題を解決し、あるいは乗り越えるかは、両国の国益にかかわるだけではなく、アジア地域の平和、安定にも及ぶと思いますが、われわれ両国はどういう姿勢で現実的な問題に対処すべきかについて、先生のご意見をお聞かせ願いたいのですが。

 佐藤 私は中国人からよく、「現実を直視する」という言葉を耳にします。つまり、現実の客観性を認めるわけですね。この言葉の中に、哲学とも言えるものが含まれていると思います。非常に現実的な立場を踏まえる考え方だと、評価したいです。それによって、乗り越えられる事や問題がまだまだあると思います。日本と中国の現実から言えば、体制が違うため、政治、経済や生活環境、価値観にはかなりの差があります。違いがあるからこそ、双方が理解を深めなければなりません。

 歴史認識を例に挙げると、日本の若い世代が日中関係における不幸な戦争の歴史をどのように正しく認識するかは、教育問題としてありますが、現時点において、日本人の多くは誤った歴史に対して認識を持っています。きわめて少数の極端な意見や右翼の者が存在することは否定できませんが、それは中国の言葉で表現すれば、けっして主流ではありません。つまり、われわれ日本国民を代表することはできません。長い間、日中関係をりっぱにしょうと、汗水垂らしてきた人たちの気持ちと日本の大部分の国民の気持ちを汲み取っていただきたいと思います。ですから、さきほど申し上げたように、お互いの体制が違うということを認識した上で、問題を処理していくことが大事なことです。

 例えば、欧米で言われる人権問題は私の目から見れば、事実は中国の方でもさまざまな政策を展開していると思います。中国の置かれた立場を考えた上での人権問題の捉え方です。私どもも中国の置かれている情況について、理解を深めていかなければなりません。実はアメリカにも、アフリカにも、どの国にも人権問題が存在しないわけではありません。要するに、現実の情況を踏まえた上で、その実情に即した現実的な措置を行うことが大切だと思います。

 私は日中間においてもっとお互いの立場で、それは政府だけでなく、国民レベル、あるいは知識人レベルでの対話を行い、過去の歴史に対し、戦争を繰り返してはいけないという認識の上で、対話を進めることに意義を見出しながら日中関係を豊かにしていくことが非常に大事だと考えます。われわれはほんとうに中国のことで分からないところがたくさんあります。だからこそ、虚心坦懐な心の交流が必要なのだと思います。そこから相互理解が生まれると思うのです。日中関係はそういう時代に入ってきていると考えます。

 このほか、私が三年三カ月務めていた間に起こった変化だと思いますが、日中関係が日本と中国の関係に限定された時代はもう過ぎたのです。もっと世界的な問題として、チェチェン、コソボ、アフリカ、アジアの経済問題など、周囲で起こっていることについて、お互いに理解を深め合うということが求められる時代に入ってきていると思います。そういう意味で、日中関係をもっと成熟させる方向に発展させてほしい。私は中国の方々に会う機会が多くあります。日本について、いろいろと批判や意見を言っていただくのは構わないのですが、大事なことは、前を見て議論をするということです。そのための大前提として、日本は過去の歴史をきちんと認識しなければなりません。それを踏まえて将来に向けて、両国と両国民にとってもっと大きな利益になることをやるべきだと思います。

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