惊蟄の養生
惊蟄は1年の中の3番目の節気である。旧い暦書の記載によると、「斗が丁を指すと、惊蟄になる。雷が鳴ると、蟄虫は全て震え立って姿を現わす。それゆえに惊蟄と名付けられたのである」。いわゆる斗はつまり斗の綱であり、つまり北斗七星の中の魁、衡、勺の3つの星である。天体の運行に従って、斗の綱は異なった方向と位置を指すことになり、その指し示す位置はそれが代表する月である。陽暦の中で、斗が丁を指す時、太陽の黄経は345度となる。

 惊蟄は、「立春」になってから天気が暖かくなり、春雷が初めてとどろき、土壌の中で冬眠していたいろいろな昆虫が驚いて目を覚まし、この時冬を越した昆虫の卵も孵化し始める。これをみても分かるように、惊蟄は自然界の季節における生物の現象を反映する節気の一つである。しかし、本当に冬眠している動物を蘇らせて土壌から出るようにさせるのは、ごろごろという雷鳴ではなく、気温が一定の程度まで上昇した時の土壌の温度である。惊蟄の頃になると、中国の一部の地域ではすでにモモの花が咲き、スモモの花が白くなり、コウライウグイスが鳴き、ツバメが飛来する時であり、大部分の地域はすでに春の耕作の季節に入るのである。民間には「惊蟄が過ぎると、暖かくなり、カエル、老角が山歌を歌う」、「惊蟄に雷鳴があるならば穀物の値段が安くなり、惊蟄に雷鳴を耳にすると穀物は泥のごとし」という言い方がある。これは惊蟄の日あるいは啓蟄の後で雷鳴を耳にするのは正常なことであり、天候が順調で、よい作柄になることを物語っている。ある地域で惊蟄の日の前に雷鳴を耳にすることを避け、「惊蟄にならないうちに雷が先に鳴るならば、大雨がみずちのように降る」という気象の法則をしめくくっている。これをみても分かるように、農民たちにとって節気の移り変わりは重要なのである。このほか、わたしたち現代の人びとにとって、商売にたずさわる人かそれとも医者あるいはその他の職業に従事する人であろうと、一定の季節の生物についての知識を蓄積するならば、生活と仕事に対してプラスとなるのである。

 惊蟄の節気の養生も自然の季節の生物の現象、みずからの体質の違いに基づいて合理的な精神を保つこと、日常生活、飲食における養生を行うべきである。体質の違いは実際は体質の養生におけるそれぞれの養生の1つの側面である。人体が先天的に備え持ち、その後のさまざまな要素の影響に制約されるため、その生長・発育・老化の中で、異なった心理、生理機能上の相対的に安定したある種の特徴を形成するようになり、このような特徴は往々にして体のある種の病気になる要素に対する感染しやすい性質と病理変化における傾向性を決定づけるものであり、そのため、養生の中で人によってぞれぞれ違い、一概に論じることはできない。

 漢方医学で言うところの体質は人々の常に言うところの気質とは異なったものである。気質は人体が後天的な要素の影響の下で形成される精神状態、性格、行為などの心理的機能の側面の総和であり、つまり「神」の特徴であり、体質は形と神の総合的な反映である。2つのものには切り離すことのできない内在的な関係がある。つまり体質は気質を含むことができるが、気質はイコール体質ということではない。

 古代ローマの医者ガレン(西暦129―200年)は体液学説を踏まえてかつて人の気質を4つのパターンに分けた。つまり1、気が短く、動作が速い胆汁質型。2、活発な気性で、動作が鋭い多血質型。3、慎重な気性で、動作が遅い粘液質型。4、気性はもろくて弱く、動作が鈍い憂鬱質型。近代の著名な科学者のパブロフは人を興奮型、活発型、安静型、脆弱型などの4つのパターンに分け、ガレンの分類と基本的に同じものである。上述の4分法は西洋医学界でかなりの影響を及ぼしている。中国の初期の医学の著作『賢枢・陰陽二十五人』は人の形体、皮膚の色、認識能力、感情による反映、意志の強弱、性格の静と燥、季節と気候に対する適応能力などの方面の違いに基づいて、体質を木、火、土、金、水の五つのパターンに分け、また経絡、気、血が頭、顔、手足に反映される生理の特徴に基づいて、さらにすべてのパターンを5つに分けた。つまり賢枢の言うところの「陰陽二十五人」である。

 中国と西洋の医学は人の体質に対して分類をおこなっているが、現在までのところ、人体の体質について西洋医学のさまざまな分類の学説は、臨床の治療、養生、リハビリを直接指導するすべがなく、漢方医学だけは人体の体質に対して効果のある臨床の指導、養生、リハビリの実践を行うことができるのである。

 『素問・異法方宜論』は「東西南北中の5つの方向は地域、環境、気候が異なっているため、住民の生活習慣も異なっており、異なっている体質を形成し、異なっている病症にかかりやすく、そのため、治療の方法はそれに応じて異なる」と指摘している。朱丹渓の『格致余論』は「平凡な人の形について、長は短に及ばず、大は小に及ばず、太るものはやせるものに及ばず、人の色について、白は黒に及ばず、若いものは青白いものに及ばず、薄は厚に及ばず、太っている人は湿気が多く、やせている人は怒りやすい。白いものは肺の気が弱く、黒いものは腎臓の気が不足する。形と色が特別であれば、臓腑も異なり、表面の症状は同じであるが、治療の方法は大いに異なる」と述べている。『医理輯要・錦嚢覚后篇』の中で、「風邪を引きやすくて病気になる者は、表の気が平素弱い。寒くなりやすいことで病気になる者は、陽の気が平素弱い。熱くなりやすくて病気になる者は、陰の気が平素衰えている。消化不良になりやすい者は、脾臓、胃の気が不足している。老いやすい者、傷つきやすい者は、中の気がかならず損なわれているのである」と書いている。これをみても分かるように、人体の発病の主な原因は、体質の違いにあり、つまり体質がいくつかの病気になる要素に対して感染しやすい性質をもつことを決定づけているのである。どのようによくない体質の状態を変えるかは、わたしたちが関心を持つべきな問題である。

 ここでわたしが言いたいのは、体質は固定して変わらないものではなく、同じ環境のもとでも、わたしたちは積極的な生活態度によって、積極的な養生の措置を取りさえすれば、体質上の偏りを是正し、寿命を延ばす目的を達成することができるのである。

 惊蟄の節気に、みなさんによく使われている4つの体質の養生法を重点的におすすめしたい。

一、陰の虚の体質 このような人の体質の特徴は形体がやつれている、手足の心が熱く、心は時にはイライラし、睡眠が少なく、排泄物が乾き、放尿が黄色で、春、夏に耐えきれず、冷たいものを多く好む。

養生の方法

 1、精神による養生 陰の虚の体質の人は気が短く、しばしばいらいらして怒りやすく、これは陰の虚とのぼせが盛んなためであり、のぼせは神明を妨げるわけであり、「静かな虚を増やし、精神は内を守る」という養生の方法に従わなければならない。自己修養を強化し、冷静、沈着の習慣を身につける。勝敗を争う娯楽活動への参加は少なめにし、性生活を制限する。

 2、環境による養生 陰の虚の者は、熱を恐れて寒を喜び、厳冬は過ごしやすいが、酷暑は耐えがたい。そのため、条件が備わっている人は、毎年の春、夏になると、海岸、森林地帯、山間部に行って、観光したり、休暇を取ったりするのがよい。住居は環境が静かで、南向きの家を選んだほうがよい。

 3、飲食による養生 その原則は陰を守って陽を隠し、あっさりしたもの、例えばもち米、ゴマ、ハチミツ、乳製品、豆腐、魚、野菜、サトウキビなどを多く食べる。条件が備わっている人は、ナマコ、カメの身、カニの身、シロキクラゲ、オスのアヒル、冬虫夏草などを少し食べ、乾燥したもの、刺激性が強いもの、辛いもの、ぴりぴりしたものを少なめに食べるようにすべきである。

 4、スポーツによる鍛煉 過激な運動はしないようにすべきであり、肝臓、腎臓を重点的に養生することの太極拳はわりに適切な運動種目である。

二、陽の虚の体質 このような人の多くは体が白くて太り、あるいは顔色が白く、手足が暖かくなくなり、放尿は清くて多く、排泄は時にはまばらで、寒を恐れて暖を好む。

養生の方法

1、 精神による養生 陽の気が不足する人はしばしば気分がよくなく、よく

恐れたり、よく悲しんだりする。このような人は自分の気持ちを調節することに長じ、音楽を多く聞き、友だちを多くもつべきである。

 2、環境による養生 陽の虚の人は、気候に適応する能力が劣り、冬季になると、寒を避けて温を求め、春、夏は陽の気を補うことに意を配る。「日に飽きることがない」ようにして、つまり春、夏にはひなたぼっこを多くして、毎回15〜20分間より少なくないようにする。こうすれば冬の寒さに耐える能力を大いに高めることができる。

 3、スポーツによる鍛煉 陽の虚の人は、春、夏、秋、冬はスポーツによる鍛煉を強化すべきで、散歩、ジョギング、太極拳、五禽劇(体操の一種)などの種目がよい。日光浴、空気浴は欠くことのできない陽を強くするやり方である。

 4、飲食による養生 陽を助けるもの、例えばヒツジの肉、イヌの肉、トリ肉、シカの肉などを多く食べ、「春、夏になると、陽を養う」という原則に基づいて、特に夏の三伏の頃には、どの伏にも「附子のかゆ」(附子10グラム、まず30分間炒めて、うるち米150グラムを入れて熟するまで煮る)あるいはヒツジの肉と附子のスープ(附子15グラム、まず30分間炒めて、よくゆでたヒツジの肉500グラムを入れて熟するまで煮込んで適量の塩を加える)を一回食べ、天と地の陽を盛んになる時と組み合わせ、人体の陽の気の機能を助ける。

三、血鬱体質 凡そ顔色が暗く、唇も暗色で、筋肉と皮膚が乾燥し、目の縁が暗い者は血鬱体質の人である。

養生の方法

 1、スポーツによる鍛煉 心臓、血管によい活動、例えば社交ダンス、太極拳、保健マッサージなどを多くやれば、体の各部分を活性化させることができる。これは気、血のめぐりに役立つ運動種目である。

 2、精神による養生 血鬱体質の人は、気の鬱積症状が多く現われ、楽観的な気持ちを保つことが非常に重要である。精神的に楽しくなれば気、血がスムーズに流れ、経絡、気、血の正常なめぐりは、血鬱体質を変えることに役立つ。これと逆に、煩悶、憂鬱は血鬱の傾向をひどくすることになる。

 3、飲食による養生 常に血のめぐりをよくし、血鬱を取り除く作用をもつもの、例えばクルミの実、黒豆、アブラナ、クワイ、酢などを多く摂取し、常にサンザシのかゆとラッカセイのかゆを煮て食べる。血のめぐりをよくし、血を養う薬材(当帰、センキュウ、丹参、地黄、地楡(ワレモコウ)、五加皮、肉類のスープを選ぶこともできる。

四、痰湿の体質 体が太っていて、筋肉が緩み、脂肪分が多いもの、甘いものを好み、疲れた表情をして体がだるく、痰湿の体質の人の明らかな特徴である。

養生の方法

 1、環境による養生 長雨の季節においては、湿気、邪気に犯されることを避ける。暗くて寒くて湿っぽい環境の中で暮らすべきでない。

 2、飲食による養生 脾臓を丈夫にし、湿気を取り除き、痰をなくすもの、例えば白ダイコン、インゲンマメ、野菜、ソラマメ、タマネギ、ノリ、クラゲ、クログワイ、ギンナン、ビワ、ナツメ、よくいにん、アズキなどを多く食べるべきである。脂肪分が多いもの、甘いもの、濃味のもの、飲み物、酒類などを少なめにし、食事は腹一杯食べるべきではない。

 3、スポーツによる鍛煉 痰湿の人は、体が太っており、体がだるくて疲れやすく、そのため、長期にわたって散歩、ジョギング、さまざまな踊り、球技などを堅持すべきであり、運動量を次第に強めるべきであり、そうすれば緩んだ筋肉もだんだんと丈夫で、しっかりと締まった筋肉になる。

 要するに、どんな体質の人であろうと、目的意識をもった保健による養生を堅持しさえすれば、絶えず生活の質を高めることができ、どんな人でも自分の寿命を延ばし、健康で長生きできようになれると信じている。

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