「斗が甲を指すと、小満になり、万物はこの時になると少し充満し、麦はこの時になると小満となって完全に熟することなく、ゆえにこの名が付けられた」。これは小満から、オオムギ、冬まき小麦などの夏季収穫作物がすでに実を結び、種が次第にふっくらとしてくるが、まだ熟していないことを物語っており、ゆえに小満といわれている。小満になると、太陽の黄経は60度となる。これは生物の季節の変化を示す節気である。いわゆる生物の季節とは自然界の草花、樹木、鳥類、動物類が一定の季節によって活動し、このような活動が気候の変化と密接な関係があることを指す。そのため、そのさまざまな活動は季節の目印となり、例えば植物の芽がふく、葉が出る、花が咲く、実を結ぶ、葉が黄ばむ、葉が落ちる、動物の冬眠、よみがえる、鳴く、繁殖・育成、移動などは、いずれも気候の変化の制約を受けるものであり、人々はこれらの現象を生物の季節という。
中国は世界で最も早く生物の季節学を研究に取り組んだ国であり、『詩経』の記載によると、「4月になると植物が穂を出し、5月になるとセミが鳴き、8月になるとナツメが熟し、10になるとイネを収穫する」。前漢の初期の『夏小正』は中国の最古の生物季節についての専門書であり、1年12カ月の順序に基づいてそれぞれの生物の季節、気象、天象および重要なまつり事、農事活動、例えば農耕、養蚕、ウマの飼育などについて記載している。その後の『呂氏春秋』、『礼記』の中でも生物の季節に関する内容の記載があり、一年の二十四節気と七十二候へと次第に発展させている。中国の古代においては5日間を一后とし、3つの后を1つの節気とした。冬から春にかけて、小寒から穀雨までの8つの節気の中には合わせて二十四の候があり、どの候にも一種の草花の花が咲き、人々は花が咲く時に吹く風を「花信風」(花が咲く音信をたずさえてくる風という意味)といわれている。そこで「二十四番目の花信風」という言い方がある。正確を期するため、人々は二十四候のすべての候において花を咲かせる植物の中で、一種の花期が最も正確な植物を選んでそれを代表とし、それをこの候の花信風と呼んだ。
二十四番目の花信風は次のとおり。小寒の三候は梅山仙(一候には梅の花、二候にはツバキの花、三候にはスイセンの花)で、大寒の三候は瑞蘭礬(一候にはズイコウの花、二候にはランの花、三候にはソメシバの花)で、立春の三候は春桃望(一候にはオウバイの花、二候にはサクランボの花、三候にはハモクレンの花)で、雨水の三候は菜杏李(一候にはアブラナの花、二候にはアンズの花、三候にはスモモの花)で、惊蟄の三候は桃棣微(一候にはモモの花、二候には棣棠(ヤマブキ)の花、三候にはバラの花)で、春分の三候は海梨蘭(一候にはカイドウの花、二候にはナシの花、三候にはモクレンの花)で、清明の三候は桐麦柳(一候にはキリの花、二候にはムギの花、三候にはヤナギの花)で、穀雨の三候は丹糜棟(一候にはボタンの花、二候にはトキンイバラの花、三候にはセンダンの花)である。それを通じてわたしたちは1年の花信風の中で、梅の花が最も早く咲き、センダンの花が最後に咲くことを知ることができる。二十四番目の花信風を経てから、立夏を起点する夏季がやって来るのである。二十四番目の花信風は花が咲くことに季節の自然現象を反映したばかりでなく、さらに重要なのはこのような現象を利用して農事の時期をつかみ、農作業を配置したことである。民間には数多くの生物の季節を反映したことわざ、例えば 「モモの花が咲くと、ツバメが飛来し、穀物の種子を用意して田畑を耕す」というものがある。この季節になると、中国のほとんどの地域はすでに夏季に入り、自然界では植物が生い茂り、ふっくらして、春の作物もちょうど生長の旺盛期にある。南部地域の平均気温は一般にセ氏22度以上より高く、至る所で夏の気候と夏の景色を目にすることができる。「梅が金色になってアンズの実が豊かで、ザクロの花が火のようになって桃とすももがぶら下がり、トンボがハスの実の上にとまって作物が生い茂り、活気があふれて豊作を見るようである」と言える。
小満の節気はちょうど5月下旬であり、気温が目に見えて高くなり、涼しさをむさぼって横になるならばリューマチ、湿性の皮膚病などを誘発することになる。小満の節気の養生の中で、わたしたちは特には「病気にかからないうちに先に予防する」という養生の見解を打ち出している。これは病気にかからないうちに、さまざまな予防を的確におこない、病気の発生を防ぐことである。病気にかからないうちに先に予防する養生の中で、天と人間の互いに相対しあう全体観と正気が体内にあれば、邪気が侵入できないという病理観をやはり強調するものである。漢方医学は人体は有機的なトータルなものであり、人と外部の環境も密接な関係があるものであり、人類が自然の法則を把握し、自然界の変化に順応し、体と内外の環境の調和を保たせなければならないとし、こうしてこそ病気を予防して健康を保つ目的を達成することができると見ている。漢方医学はまた、疾病の発生は正気と邪気の2つの側面の要素とかかわりがあると見ている。邪気は病気の発生を招く重要な条件であり、そして人体の正気の不足が病気の発生の内因とよりどころであるが、外部の病気になる要素の特殊な状況の下での主導的役割を否定するものではない。そのため、「病気にかからないうちに治療する」ということは体の正気を増強し、病気におこされることを防ぐという2つの側面から始めるべきである。
小満の節気は皮膚病の高い発病期であるため、病気にかからないうちに先に予防する養生観に基づいて、わたしたちは「風疹」の予防と治療に重点的にふれてみたい。『金匱要略・中風歴節篇』には、「邪気が神経に入ると、体が痒くて習慣性の発疹になる」とある。古代の医学者はこの病気をとっくに知っていたのである。「風疹」の病気の原因はほかでもなく次の三点である。1、湿気が筋肉と皮膚に鬱積し、もう一度発熱あるいは冷え込んだりし、湿気との闘いの中で、筋肉と皮膚の間に鬱積して発病する。2、腸、胃に熱が蓄積するため、もう1度風邪を引き、内は疎通、排泄されておらず、外はしみとおってはおらず、皮下と筋肉の間に鬱積することによってそれに至る。3、体質と関係があり、魚、エビ、カニなどの食物を食べてアレルギーとなり、脾臓、胃に不和を招き、湿を蔵して熱を生み、筋肉と皮膚に鬱積して病気になる。風疹は体のいかなる部位にも生じるものであり、発症は急速に起こり、皮膚には突然大きさが一様ではない皮疹が現れることになり、一面に広がったり、丘疹のようになったりし、ひっきりなしに起こり、密度も一様でなく、皮膚には非常なかゆみを覚え、気候の寒さと暑さに従って軽減するか激化する。わたしたちが発病のメカニズムを知るならば、目的意識をもって予防と治療を行うことができる。
一般に臨床の症状に基づいて次の3つのパターンに分けられる。(一)発熱症 その発疹は色が赤くて、非常にかゆく、熱に遭うとひどくなり、脈の数から見て、これは発熱の邪気を感受するものであることが分かる。(二)リューマチ症 皮疹の色は白くてかすかに赤色を帯び、体がだるくなり、脈は遅くなり、リューマチの邪気を受けて筋肉と皮膚に鬱積していることが分かる。(三)胃腸の熱症 発疹は色が赤く、兼ねて胃、腹に痛みを覚え、便秘か下痢とは、脈の数も多く、風疹の色が赤いのは熱であり、腹痛、便秘は臟腑の気が通じないため、胃腸は発熱の症状を呈する。治療の面で風邪をすっきり治し湿気をなくし、血の熱の排出を原則とすべきである。
飲食による養生はさまざまな皮膚の患者にとって、いずれもあっさりした肉抜きの食事を主としなければならず、湿気、熱を取り除く作用のある食物、例えばアズキ、よくいにん、リョクトウ、トウガン、ヘチマ、キュウリ、ホンカンゾウ、セリ、クログワイ、クロキクラゲ、レンコン、ニンジン、トマト、スイカ、ヤマイモ、ヘビの身、フナ、ソウギョ、アヒルの身などをよく食べる。コウリャン、味の濃いもの、甘いもの、脂肪分の多いもの、滋養分の多いもの、脂っこいもの、生のもの、湿性のもの、湿気を助長するもの、例えば動物の脂肪、魚類、酸っぱいもの、渋いもの、辛いもの、性が温熱に属しのぼせを助長するもの、および油で炒めたもの、いぶしたもの、例えば生のネギ、ニンニク、ショウガ、からし粉、コショウ、トウガラシ、ういきょう、シナモン、ニラ、ナス、キノコ、海の魚、エビ、カニなどさまざまな海の幸、刺激性のある食べ物、牛、羊、イヌ、ガチョウの肉類などを食べるべきでない。
飲食療法について次の三つをおすすめしたい。
キンサイと豆腐のあえ物
[使う材料] キンサイ150グラム、豆腐一丁、塩、化学調味料、ゴマ油ちょっぴり
[作り方] キンサイを小さくきざみ、豆腐を四角いさいの目に切り、いずれもお湯でゆでて、すくい取ってから冷たい水で冷やし、水をきって必要に備える。
キンサイと豆腐をあえ、塩、化学調味料、ゴマ油を入れてよく混ぜて出来上がりとなる。
[効能] 肝臓を静めて熱を下げ、湿気を治療して解毒する。
[特徴] さわやかで口に合い、夏向きのよい料理。
トウガンとソウギョの煮物
[使う材料] トウガン500グラム、ソウギョ250グラム、塩、化学調味料、植物油を適量。
[作り方] トウガンの皮を取り除き、きれいに洗って三角形の塊に切り、ソウギョをきれいに洗って切り開き、しっぽを残して必要に備える。まず油でソウギョ(しっぽのついたもの)をこがね色になるまで炒め、土ナベに取って、その中に適量の水を入れて、魚、トウガンを土ナベの中に入れて、まず強火で沸き立たせてから、とろ火で2時間ほど煮込んで、スープが白色になると、塩、化学調味料を入れて味をととのえて出来上がりとなる。
[効能] 肝臓を静め、風邪を取り除き、湿気を取り除いて熱を冷ます。
ピーマンとアヒルの塊の炒め物
[使う材料] ピーマン150グラム、アヒルのささみ200グラム、タマゴ1個、醸造酒、塩、乾燥したカタクリ粉、新鮮なスープ、化学調味料、水でといたカタクリ粉、植物油をそれぞれ適量
[作り方] アヒルのささみを長さ約6.6センチ、幅0.6センチの薄切りにし、水できれいに洗ってから水をきって乾かし、タマゴの白み、乾燥したカタクリ粉、塩をよく混ぜてアヒルの切れと一緒によく混ぜてのり付けする。ピーマンの実、へたを取り除いてきれいに洗って薄切りにする。
ナベが熱くなってから油を入れて熱すまで火を通し、アヒルの切れをナベに入れて、ばらばらにして、熟したと思われるまで炒めて、ピーマンを入れて、アヒルを熟するまで炒めて油をかける。
ナベの中に油を少し残して、塩、酒、新鮮なスープを入れ、沸き立たせてから、さらにアヒルの切れ、ピーマンを入れて、水でといたカタクリ粉であんかけをし、ひっくり返して炒めてお皿に盛り付けて出来上がりとなる。
[効能] おなかを温め、脾臓を丈夫にし、利尿の効があり腫れを取り除く。
条件の備わった方々は、この季節においては次のような飲み物をお飲みになればと思う。
クログワイ、氷砂糖とレンコンのとろみのあるスープ
[使う材料] クログワイ250グラム、レンコン150グラム、氷砂糖を適量。
[作り方] クログワイをきれいに洗って皮を取り除き、レンコンをきれいに洗って小さな塊にきざむ。土ナベに適量の水を入れて、クログワイ、レンコンをナベの中に入れて20分間ほど煮込んでから、氷砂糖を入れて更に10分間ほど煮込み、ナベから取り出して召し上がればよい。
[効能] 熱を下げて湿気を取り除き、脾臓を丈夫にし、食欲を増進し、下痢を止めて精を固める。
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