6月6日は芒種であり、太陽の黄経が75度となる日である。旧暦のこよみには「斗が巳を指すと芒種となり、この時は芒(ススキ)のある穀類を栽培することができ、この時を過ぎるともう間に合わず、そのため芒種と呼ばれる」という記載がある。つまり、芒種の節気は芒のある穀類作物、例えばおくての稲、トウモロコシ、キビなどの栽培に最も適している。芒種は農作物栽培の時期的境目でもあり、気候が暑いため、すでに典型的な夏季に入っており、農作物の栽培はこの時を境とし、この節気を過ぎると、農作物の成育率はますます低くなる。農事の諺の「芒種は植付けが忙しい」という言い方はこの道理を表している。
わが国は地域が広いため、同じ節気の気候の特徴にも違いがある。わが国中部の長江中下流地域は、降雨量が多くなり、気温も高くなり、連綿と続く長雨の梅雨の季節に入っており、空気が非常に湿っぽく、気候は異常に蒸し暑く、さまざまな衣服と身の回り品の器具にはかびが生えやすく、そのため、長江中下流地域ではこのような気候を「つゆ」と言っている。そのほか、わが国の端午の節句はしばしば芒種の日の前後にあたり、民間には「端午のちまきを食べていないならば、毛皮の衣服を贈ってはいけない」という言い方がある。この話は人々に端午の節句を過ごしていないならば、寒さを防ぐ服は脱いではならず、体が冷えないようにしなければならない、というのである。わが国の江西省には「芒種になると夏至となり、道を歩くには引っ張ってくれる人を必要とし、引っ張る人は引く必要があり、引く人を押してあげる必要がある」ということわざがある。このような短い言葉は、夏の人々の共通の悩みであるだるさを物語った。その原因は夏季は気温が高くなり、空気の湿度が大きくなり、汗を発散させるすべがなく、すぐ熱くて蒸し暑くなり、動くと汗が出、蒸し暑さが空気に充満し、人の体や呼吸は皆蒸し暑さを逃れることができない。そのため、暑さは湿気が盛んで風邪を多く兼ね、人びとは手足がだるくて眠気を感じさせ、元気がなくなる。そのため、芒種の節気の中では雨期における農作物の管理をきちんとするだけでなく、更に体を鍛えることにも意をくばり、季節的な病気と伝染病、例えば暑気あたり、耳下腺炎、水痘などの発生を避けなければならない。
芒種における養生の重点は季節の気候の特徴に基づいて、精神の養生の面で精神的に楽しい状態を維持させるべきであり、怒り、憂鬱はよくなく、そうすれば気血のめぐりをよくし、排泄も順調になる。
日常生活の面では、遅く床につくことと早起きすることを必要とし、日光の照射(太陽の直接照射を避け、暑さを防ぐことに注意する)を適切に受け入れ、陽気の盛んなことに順応し、血気のめぐりに役立つように、精神を奮い立たせるようにしなければならない。夏日は昼が長くて夜が短く、昼ごろに少し休んで疲労の回復を助けることができ、健康に役立つ。芒種のあと、正午の刻は気候が熱く、人は汗がかきやすく、衣服はまめに洗い、着替えるべきである。暑気あたりを免れるため、芒種の後にはよく入浴し、そうすれば皮膚を柔らかくほぐすことができ。「陽の熱さ」が発散しやすくなる。しかし、注意しなければならない点は、汗をかいている時に直ちに入浴してはならず、中国には「汗が出ると湿を見ることはない」、もし「汗をかいて湿を見るならば、できものが生じることになる」という古い言葉がある。
ここではみなさんにいくつかの薬入りの入浴の方法を紹介する。いわゆる薬入りの風呂は入浴する湯の中に薬物の湯あるいは液体を入れ、あるいは煎じた薬剤を直接使って、蒸気による沐浴の方法で全身を洗うかあるいは患部を洗い、体を丈夫にし病気を予防する目的を達するのである。
薬入りの風呂はわが国ではながい歴史がある。記載によると、周朝の頃から香湯(香ばしい湯)を使って体を清潔にすることが流行し始め、宋・明の時代に、このような香湯浴が民間に伝わり、もっぱら人々が芳香浴をおこなう「香水行」が現れ、次第に習わしとなった。人々は日を選んで異なった薬入りの風呂で体を清潔にし、病気を予防していた。たとえば旧正月の日は5香湯を使って入浴し、入浴してからは全身が芳香を放ち、元気になる。旧暦2月2日は、古人は「中和節」と称し、民間は「竜が頭をもたげる」という日で、クコを採取して湯に煎じて、それを入れて入浴し、筋肉と皮膚にツヤをもたせることができ、いつも病気を遠ざけることができる。夏季はしばしば5枝湯を使って入浴し、風邪を疎通させ、瘴気の毒を取り除き、血筋を養うのである。清代になると、薬入りの風呂は体を丈夫にし寿命を延ばす方法となったばかりか、病気の治療とリハビリに広く用いられた。
薬入りの風呂を浴びる過程では、水自体の物理化学作用(主に温熱作用である)を除けば、主に薬物の人体に対する影響である。薬物の水溶液の効果のある成分が、体の表と呼吸器官の粘膜を通じて体内に入り、異なった薬物の処方に基づいて、経絡を疎通させ、血のめぐりをよくし、鬱血を取り去り、風邪を治し、熱を下げ解毒し、湿気をなくし痒みを止めるなどの効き目がある。
薬入りの風呂の入り方はいろいろあり、よく使われているのは浸して入浴し、熱くして入浴し、いぶして浸し、保健の養生のために浸して入浴することを主とする。
浸して入浴する具体的な方法は、5枝湯(ニッケイの枝、エンジュの枝、モモの枝、ナヤギの枝、アサの枝)を例とし、まず同じ量の薬物をガーゼでよく包み、薬物の10倍の水を加えて、20分間浸して、それから30分間煮て、そして更に薬液を入浴する湯の中に入れ、すぐ浸して入浴する。条件があれば毎日一回入浴することができ、このような薬入りの風呂は全身の入浴に適用し、局部の湯治にも用いることができる。
中・老年の女性の方々は美容と皮膚の保護の処方を選ぶことができる。リョクトウ、ユリ、竜脳香それぞれ10グラム、滑石、白附子、カラビャクシ、白檀香、松やにそれぞれ30グラムを粗い粉の状態にすりつぶして、ガーゼの袋に詰めて湯を煎じて、浸して入浴し、顔、皮膚が白く、きめ細かくなり、体に香りが漂い邪気を追い払わうことができる。
飲食の養生の面では、歴代の養生家はいずれも夏の3カ月の飲食によって補うと考えていた。『呂氏春秋・尽全編』は、「一般に強い濃厚な味がないものを食べ、激しい味ときつい酒は与えない」と指摘している。唐代の孫思邈は人々が「常に軽くて清らかで甘くて薄い物を食べ、オオムギ、小麦、うるち米がよい」と提唱し、また「養生に長じる者は常に肉を少なく食べ、ご飯を多く食べなければならない」と言った。元代の医学家朱丹渓の『茹談論』は「肉食を少なく食べ、穀物、野菜、果実、自然の味を多く食べる」と言っていた。栄養学の角度から見て、あっさりしている飲食は養生において取って代わることのできない作用があり、たとえば野菜、豆類は人体のために必要な炭水化物、蛋白質、脂肪、鉱物質などの栄養素と大量のビタミンを提供することができ、ビタミンはまた人体の新陳代謝において欠くことのできないものでもあり、病気を予防し、老化を防止することができる。果物、野菜の中のビタミンCは、また体内の酸化還元のための重要な物質であり、それは細胞の酸素吸収を促すことができ、細胞間といくつかのホルモンの形成の中で欠かせない成分である。そのほか、ビタミンCはさらに病理的変化を抑え、抗体の形成を促進し、体の病気への抵抗力を高める。高齢の方々にとっては、果物、野菜を多く食べ、その中から摂取されるビタミンCは血管に対して一定の補完・保養の作用があり、さらに血管の壁に堆積したコレステロールを肝臓に移して胆汁酸に変える。これは動脈硬化の予防と治療という面で一定の作用がある。野菜の中のセルロースはスムーズな排便に役立ち、毒素の吸収を減少し、早期の老化を予防し、便秘によって引き起こされる直腸癌の発生を予防する面で極めて重要である。
そのほか、わたしたちは飲食による補給を強調すると同時、人々に辛すぎ、甘すぎるものを食べるなかれ、とさとしている。飲食は辛すぎれば、体内のナトリウムのイオンが過剰となり、年齢が大きい者は、運動量が小さく、血圧を上昇させることになり、さらには脳の血管機能の障害をもたらすことになる。甘い食品を多く食べれば、人体の健康にマイナスであり、年齢の増加に従って、体内の炭水化物の代謝能力が次第に小さくなり、中間の産物、たとえば糖分の蓄積を引き起こしやすく、糖分は高脂血症と高コレステロール症を招き、ひどい者は糖尿病さえ誘発することになる。これをみても分かるように、飲食は養生・病気予防のきわめて重要な手段である。そのため、夏季に入ると人体の新陳代謝は盛んになり、汗が体外に排出しやすく、気を消耗し唾液の分泌を多くする時に、暑気を払い、気をよく保ち、唾液の分泌を促し渇きをいやす飲食を多く食べなければならない。高齢者は体の機能が減退しているため、暑い天気に消化液の分泌が減り、心臓・脳の血管がある程度硬化しているため、飲食はあっさりしたものの補給を主とし、暑気を払い解熱し、胃を保養し脾臓をよくし、血圧を下げ、脂肪を減らす食品を補とする。女性は月経期あるいは産後に、気候がだんだん暑くなっても、生のものや冷たいもの性涼の食品を食べるのを避け、それによって誘発されるさまざまな病気を防ぐ。
芒種の節気の具体的な飲食療法、献立
トマトとタマゴの炒め物
「材料」トマト300グラム、タマゴ3個、精製塩、味の素、白砂糖を適量
「調理法」トマトをきれいに洗って一切れ、一切れときざみ、タマゴを碗の中に割って入れ、よくといておく。
油の入ったナベを火の上に置いて、まずタマゴを熟すまで炒め、碗の中に盛り付ける。ナベをきれいに洗い、熱くなってから油を入れ、白砂糖をナベの中に入れて溶かし、トマトをナベの中に入れて2分間炒めてから、タマゴ、精製塩をナベの中に入れて3分間炒め、少量の味の素を入れてナベから取出せばよい。(糖尿病の患者は白砂糖を入れない)
「効き目」唾液の分泌を促し、渇きをいやし、心を保養して神経を鎮める。
マツタケとトウガンのボール
「材料」マツタケ、トリのスープ、カタクリ粉それぞれ適量、トウガン300グラム、植物油、精製塩、ショウガ、味の素、ゴマ油それぞれ適量。
「調理法」マツタケを水で煮てもどし、きれいに洗い、トウガンの皮を取り除き、きれいに洗い、ステンレスのさじで丸いボール状にして必要に備え、ショウガをきれいに洗って千切りにする。
ナベの中に適量の植物油を入れて火を通し、ショウガの千切りを入れて炒め、香りが出ると、マツタケを入れて引き続き数分間炒めてから、適量のトリのスープを入れ、さらに煮てから、トウガンのボールをナベの中に入れて熟すまで火を通し、といたカタクリ粉であんかけをし、数回炒めて味の素を入れ、ゴマ油をたらし、ナベから取り出せばよい。
「効き目」胃腸を補い、唾液の分泌を促してイライラを取り除く。
五味子とクコの飲み物
「材料」酢で炙った五味子5グラム、クコの実10グラム、白砂糖を適量
「調理法」五味子と細かくきざんだクコの実を磁器の杯の中に入れ、お湯で浸し、しばらく暖めてから、白砂糖を入れ、よく混ぜてから飲む。
「効き目」腎臓の陰を強くし、腎臓の陽を助ける。「夏の虚」の病気に効き、養生、補給の有益な薬である。
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