中国がどの国との関係についてはっきり言えないかと言うなら、恐らく日本であろう。
歴史から見れば、日本人にこれほど大きな影響を与えた国は中国以外どこにもない。漢字から囲碁に至るまで、『論語』から『法華経』に至るまで、日本人は中国文化の真髄をほとんどそのまま学んだのである。
近代に入って以来、このような影響は逆になってしまった。明治維新以降、西洋の先進的思想が日本を通じてどんどん中国に入ってきた。「唯物論」「観念論」「弁証法」「形而上学」「社会主義」「共産主義」「共産党」などの語彙や概念は、すべて日本から伝わってきたものだ。
中日両国は一衣帯水の間柄にあり、相互の影響は双方のいずれにとっても得るところが誠に多大なものである。
一衣帯水の間柄にあるというのは、互いに影響を受けやすいという一方、侵略するにも都合がよい。
このような侵略は双方向のものではない。
中国は昔から今日に至るまで日本を侵略したことはない。ところが、歴史上日本ほどひどく中国を傷つけた国はない。日清戦争以後、中国に対する戦争について言うなら、日本は必ずそれに加わっている。「南京大虐殺」を引き起こすほど残酷な帝国主義者はいなかった。
これらの要素の組み合わせは、水、石灰とモルタルを練り合わせてできた堅いコンクリートのようなものだ。両国が願っても願わなくても、認めても認めなくても、直視しても直視しなくても、中日両国の20世紀における恩と仇や、21世紀における関係の発展の方向は、これを基礎としないわけにはいかない。
2000年の防衛白書はこれまでのものと比べると大きな違いがあるため、人々に注目されている。
一、中国の海軍艦船が頻繁に日本の近海に出没し、日本の安全を脅かしていると大げさに言っている。日本の近海というと、なんと釣魚島近くの海域や津軽海峡を含む国際航路などが含められている。また、中国の海軍艦船というのは、中国の砕氷船や海洋調査船などの科学調査船のことを指している。
二、中国のミサイルの脅威にさらされていると公言している。過去の防衛白書には「アジア地域は中国のミサイルの射程以内にある」としか述べられていなかったが、2000年の白書は「中国の保有する中距離弾道ミサイルの内の70発は、その射程が日本を含むアジア地域にあまねく及ぶものである」に変わっている。日本が中国のミサイルの射程内にあると初めて指摘し、いわゆる「中国のミサイルが日本を脅かしている」と意識的に際立たせている。
この白書が公表されてから、日本の右翼団体や与党内の右翼勢力が引き起こした大騒ぎは別として、この白書が発表されたタイミングのみを見ても非常に考えさせられるものがある。
まず、世紀の変わり目に発表されたこと。即ち、中曽根康弘元首相が言うように、日本は「第三次開国」に直面している時点である。日本の政治家の言い方によれば、第一次開国は1868年の明治維新で、近代化国家の建設を目標としていた。第二次開国は1945年の無条件降伏で、マッカーサーによってアメリカ型の民主主義が日本に持ち込まれた。21世紀の初めごろ、半世紀余りの努力を蓄積の結果、第二次世界大戦の敗北から立ち直った日本は第三次開国に直面している。総理のイスを去って長年を経た中曽根康弘氏は今度の開国には「青写真がない」と言っているが、2000年防衛白書は一種の「青写真」を描いているのではないか。
次に、この白書は朝鮮半島の情勢が大きく緩和してから発表されたものである。日本はこれまでずっと「朝鮮脅威論」に基づいて、安全・防衛に関する支出を増加し、軍事能力を拡充してきた。日本の防衛庁は1999年、朝鮮のミサイルの日本に対する脅威を評価する「緊急反応委員会」を発足させた。同委員会は、朝鮮の弾道ミサイルに生物弾頭をつけて東京に命中させると、12万人の死傷者が出る、核弾頭や化学弾頭をつけた場合、東京では死傷者がそれぞれ8万人と1000〜2000人に達すると予測している。このような予測は世間を騒がせ、日本が再び武装され、アメリカと巨額を費やすTMDというシステムを共同開発する必要があると国民に思わせるようになった。
朝鮮の脅威を口実にして、軍事力を拡充するという、目先のことしか見えないやりかたは、朝鮮半島の情勢の緩和にしたがってボロが出るようになった。そこで、前から計画を立ててやろうと思っていたことを実現するために、新しいライバルや口実を探しはじめているのである。
この白書から見られる傾向について言えば、一部の日本人は矛先を中国に向けようとしている。極めて危険な傾向だと言えないわけにはいかない。
日本がこの数年の間に行った軍事拡充は誰の目にも明らかである。しかし中国では、日本がアジアで積載量最大の、最も近代的な駆逐艦を保有していること、日本が海上における最大の脅威になっていると見てはいない。日本はアジアで最も先進的なアメリカ製のF−15やF-16型戦闘機を配置しており、それよりもっと先進的な戦闘機を開発、研究していることで、空における最大の脅威になっていると見ることはない。また、空中早期警戒管制機や空中給油機を装備していることで、日本が遠距離作戦を行うと見ることもない。日本の軍事支出が中国の3倍以上にもなっているのに、日本は中国の国防建設に脅かされていると公言している。そこで、「われわれは日本を見まちがっていたのではないか」と中国人は皆まじめに考えざるを得なくなっている。
1996年3月、中国人民解放軍が台湾海峡で軍事演習を行っていた間、日本の橋本竜太郎元首相は「一晩中眠れなかった」という言葉を周りの人たちに述べた。4月にクリントン大統領が日本を訪問し、橋本首相と日米安保条約の継続について検討した。経済的な摩擦でアメリカに対して「ノー」と言おうと前から言い触らしていたが、急に非戦争期間でもアメリカ軍のために軍需品を輸送することにはじめて同意し、しかもいざという時には、アメリカに協力することをまじめに考えている。アメリカの『シカゴ・トレビューン』は次のような論説を発表した。アジアの国、特に中国に対して、日本はアメリカが太平洋地域に対する軍事行動に参加するという明確なメッセージを送った。これは重大なニュースである。もしも日本がたとえば台湾危機のような危機に対して手をこまねいて傍観するならば、将来のアメリカの大統領がこの危機を解決するために、どうやって国内の支持を得るのかは分かったものではない。
1997年9月、日米は安保条約のニュー・ガイドラインに調印した。いわゆる「周辺事態」という問題を取り上げ、朝鮮半島や台湾海峡に起きる可能性のある衝突を全部日本の安全を脅かす範囲に含められることになった。その後、台湾の『連合報』の記者が、「周辺事態」の問題や日本の元防衛庁長官・自民党の副幹事長・安全保障調査会長の玉沢徳一郎に対しておこなったインタビューについて見てみよう。
記者:日米防衛協力ニュー・ガイドラインが台湾海峡に及ぶものなのかどうかについて、台湾の人たちは知りたいのですが……
玉沢:武力紛争や武力紛争直前の情勢を含めるなど、「日本の安全を脅かす可能性のある周辺事態」が起きたら、日米は共同活動を取ります。
記者:それなら、1996年3月に台湾海峡に危機が起こった時、アメリカが航空母艦を2隻台湾に派遣したのは、「日本周辺に事態が起きた」ということですか。
玉沢:「中」台の問題を武力で解決するならば、日本はこの紛争を「周辺事態」だと認めないわけにはいかないのです。なぜならば、「中」台の間に戦争が起きたら、日本の安全に重大な影響をもたらすからですよ。1996年の台湾海峡事件に、アメリカが航空母艦を派遣しましたから、日本はもちろん物資、兵器・弾薬の輸送と供給、日本国内の基地・港湾・空港の提供を含む後方勤務の支援をしなければならなかったのです。
記者:ニュー・ガイドラインと1978年の古いガイドラインとはどう違いますか。
玉沢:古いガイドラインは主に元のソ連を仮想の敵国とみなしていました。ニュー・ガイドラインは「日本有事」だけでなく、「極東有事」と言えるのかもしれません。
日本の将来の軍事力の動きは玉沢氏の話からはっきり見えている。
日本は疑いなくアジアで一流の軍事力を擁している。2000年の国防支出は484億j、アメリカに次いで第二位で、中国国防支出の同期比の3.3倍にも相当する。日本の自衛隊は28のレーダー基地と空中予備警報機を利用して、日本および周辺地域の上空に対して24時間監視をつづけている。高解像度の地球観測衛星を打ち上げ、その映像解析力は1bもある。日本の海上自衛隊は主な海峡を封鎖して、敵の軍艦を通過させないこともできるし、対潜水艦作戦、水上の艦艇との戦いや水雷を配置する作戦なども行われる。これらの軍事力はなかなかなもので、「自衛隊」という名前からはるかに遠ざかるものである。
「青写真のない」第三次開国という中曽根康弘氏が今日の日本を描く言葉を自然に思い出させられる。
日本の政治家の考えでは、開国は「青写真」と「青写真を実現する力」という二つの条件がそろわなければならない。青写真だけあって力がなければ、ただの空想に過ぎないが、逆に力だけあって青写真がなければ、無理やりにやる結果を導く。それでは、他人に知られたくない青写真を持っているので、青写真がないふりをするというなら、またどういう状況になるのか。
90年代に入って以来、日本は「政治のバブルも経済のバブルも社会のバブルも弾ける」という難しい局面に面している。どうやって立ち直り、国民を国内問題から脱劫させるかは、政権を握っている人たちにとって当面の急務となっている。このような情勢の下で、海外問題を利用して視線をそらさせ、危機を転嫁するのは都合のいい選択だ。まして、「共栄圏」や「生命線」など日本の伝統的な考え方に未練を残す人もいる。
どこの国にもちゃんと自国の国益がある。これは当然のことだ。しかし、隣国を敵と見なすのは、自国の国益を実現するために、相手の国の国益を損なうということだ。隣を敵にするのは一方的なことだが、隣を友人にするのは、双方がともに努力するしかない。
中国としては、われわれは日本国内の友好的勢力を疑ったことはない。中日両国が代々付き合い、友好交流を行っていくのは、国の最高指導者の考えでもあり、一般の人民の願いでもある。日本の一部勢力はいろいろな手段で、中国を日本の「主な仮想敵」にしているにかかわらず、中国は日本を仮想敵にしたことはない。中国は日本が戦時に中国で犯した罪をつきとめるのは歴史に基づいて、相手にその教訓を覚えてもらって、悲劇が再演されないよう願っているからだ。しかし日本の根も葉もない「中国の脅威」という言い方は、公言できない目的を達成しようとするものである。政治家が目先のことしか見えないのは、国の利益を損なうだけで、その教訓は数えきれないほどある。人間としては、友人が多ければ多いほどよいが、国も同じである。しかし、友人は必要とする時になってはじめて作るということはできない。なぜかというと、友情というものは長期間にわたってはぐくむ必要がある。敵を必要とする時に敵を作るのはそれほど面倒なことではない。相手に脅かされていると公言すれば、友好関係はおしまいになる。
1993年に朝鮮がミサイルの打ち上げを試みてから、日本は朝鮮のミサイル研究基地に対して、「先んずれば人を制す」ような空からの攻撃計画をひそかに立てていた。海沿いの石川県にある小松基地から航空自衛隊の主力戦闘機を4機派遣し、1600海里を飛行してから水面に近い低空から朝鮮の領空に入り、相手のレーダーに発見されないうちに朝鮮のミサイル基地に500ポンドの爆弾を16発落として、高空からすばやく戻る。この作戦計画が結局実現しなかった直接の原因は、航空自衛隊の主力戦闘機F-4Eが理想的な奇襲機種ではないと同じに、空中給油技術や的確に爆撃する技術をマスターしておらず、しかも電子情報を収集する能力もそれほど強くなく、目標周辺地域の詳しい情報を知ることができなかったからだ。
6、7年ほど過ぎたいま、航空自衛隊のF-15もF-16も「理想的な機種」になったし、空中給油技術や的確に爆撃する技術もほぼマスターし、また高解像度衛星写真分析システムも持っている。以前と同じようなことがあったら、日本はどうするのだろうか。
世界中のそれぞれの国はみな自分なりの青写真をもっている。金が多ければ多いほど、青写真がきれいになるのではないし、実力が強ければ強いほど実現するスピードが速いというわけではない。日本は経済も発展し、進んだ軍事かをもっているにもかかわらず、目先のことしか見えない政治のせいで損をしている。
中国の青写真は経済の発展と祖国統一の完成で、21世紀の半ばごろまでに中程度の発達国のレベルに達する見込みである。中国は自分の描いた青写真を世界に発表した。この青写真を実現するためには、長期間にわたる安定した内外の環境を必要としている。中国は周辺のすべての国と相互協力し、善隣友好関係を打ち立て、世界各国の援助を求めている。
「青写真のない」日本も中国と同じであることをわれわれは願っている。
(筆者 国防大学国際関係研究室研究員)
「チャイナネット」2001年1月31日