一橋大学の浜林正夫名誉教授など889人の歴史学者は15日、同日付「日本と中国」に連名による文章を掲載し、「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集された歴史教科書について「歴史をわい曲した言論」と批判するとともに、虚偽と虚構による歴史教育に反対を表明した。掲載された文章は次の通り。
教科書に虚偽と虚構の内容が含まれるべきでないのは当然のことで、歴史教科書においては特にそのことが言える。
1890年ごろから1945年の敗戦まで、日本の歴史教育の目的は天皇に忠誠を尽くす「臣民」を育てることで、歴史教科書は子どもの臣民教育に大きな役割を果たすことになった。このような教育を受けた子どもたちは、排他的で思い上がった思想を身に付け、日本を戦争の道へと導き、国内外に大きな犠牲を出し、最終的には敗戦となった。こうした歴史を振り返ってみると、我々は間違った歴史教育の責任の重大さを忘れてはならない。
そして「新しい歴史教科書をつくる会」は、虚偽や虚構の内容を記載した歴史教科書を教科書検定に提出し、各方面から批判を集めている。我々はこれについて特に次の2点を指摘する。
(1)ある神話を歴史的事実のように記載している点について、各歴史学者と歴史教育者は神話を歴史的事実として記載すべきでないと考える。
(2)「つくる会」は日本の発動した戦争を史実を無視して正当化し、大日本帝国を美化して「植民地解放の旗手」とし、「大東亜戦争」を「アジア解放戦争」と表記している。これは歴史のわい曲であり、虚構に満ちた「現代の神話」を創るものであると考える。
日本政府が公然とこうした歴史教科書を採用して学生教育を行うのは、戦前の歴史教育と何ら変わりがない。教科書検定基準には「国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がなされていること」という条項があり、「つくる会」の歴史教科書はこうした取り決めに違反しているだけでなく、平和と民主化を望む世界、とりわけアジアの世論に対する挑戦であり、日本が国際社会で孤立する危険性をはらんでいる。我々歴史学者と歴史教育者は、こうした歴史教科書の出版に深い懸念を表明する。
2001年3月17日