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japanese.china.org.cn | 10. 02. 2017

王暁輝編集長:トランプ氏の交渉術は中米関係に大ダメージを与える可能性がある

タグ: 安倍 トランプ 訪米 中米関係

トランプ氏の交渉術は中米関係に大ダメージを与える可能性がある

王暁輝・チャイナネット総編集長インタビュー

聞き手・野中大樹

 

トランプ大統領が「為替操作国」などとやり玉にあげるのが中国だ。政権中枢には対中強硬派も複数入った。この事態を中国はどう見ているのか。中国のインターネットニュースセンター『チャイナネット』総編集長の王暁輝さんに見解を聞いた。

――ドナルド・トランプ氏は中国を盛んに「為替操作国」だとし、米国の雇用を奪っていると批判しています。

最近、人民元の対ドルレートは確かに下落していますが、人民元の下落はドル高の結果であり中国が為替レートを操作しているというのは客観的ではありません。

一つの産業が、ある国から別の国へと拠点を移す場合、それは多くの利点の比較によって決定されるものであり、為替レートだけで決まるものではありません。

アメリカのトランプ大統領は選挙中、「アメリカを再び偉大にする」とのスローガンを打ち出し、アメリカのGDP成長率を4%に達すと承諾した。中国との貿易赤字を逆転するために、トランプ氏は中国からの輸出商品に高い関税を徴収するほか、中国を「為替操縦国」リストにランクインしようとしている。

 もし中国が為替レートを操作していると言うのなら、ドルはドルの操作をしていないのでしょうか。グローバル化を背景に、産業の流動性は水と同じで、コストがより低い場所に流れてゆきます。これは一種の法則であり、米国人の仕事が中国に奪われたとは言えません。

連邦準備制度理事会のバーナンキ元議長はかつて、中国は為替レート操作国であるとトランプが言うのは現実に即していないと言ったことがあります。彼はまた、中国と米国にひとたび貿易摩擦が発生すれば、とても危険だと警告しました。

米国は第2次世界大戦以後、一貫して世界最強国であり続けてきたため、他者の問題について指摘することに慣れすぎており、自らの原因を探ることがほとんどありません。自国の経済に問題が生じたのに自分にはまったく落ち度がなく、すべてを他国のせいにするのでしょうか。 トランプ氏が成熟した政治家であるのなら、いかにして中国のような大国と協力していけるかを、もっと真剣に考えるでしょう。

トランプ氏は海外に移転した工場を米国に戻すと言っていますが、これは大統領が決定できることではなく経済法則が決めることです。さらに言えば、現在の大企業はみな国際資本であり、米国の企業といえども実際には日本の株あるいはドイツの株が多く占めているかもしれず、彼らは必ずや移転コストを比較するに違いありません。

また、産業の米国への回帰は、米国からすると本当によい事なのでしょうか。米国はずっと世界のイノベーションのエンジンであり、グローバル化に逆行するやり方は米国を再び強大にするとは限らず、世界経済を不振に陥れる可能性すらあります。

 

中米関係に相当ダメージ

――トランプ政権で新設される国家通商会議の議長にはピーター・ナバロ氏が就きます。ナバロ氏は米国の経済問題の多くは中国に起因するとして、著書「中国による死」という本も書いています。また、通商代表部(USTR)代表に就くロバート・ライトハイザー氏は国際貿易・訴訟法を専門とし、中国を相手どったダンピング訴訟を手がけた人間です。「対中国強硬」人事のようです。

トランプ政権の中に幾人もタカ派がいて、これまで幾度も中国脅威論を提起してきた人物が入っていることに私も気が付きました。

おそらく彼らは、米国だけが強大かつ世界一であるべきであり、経済でも国際的影響力においても、他国が米国のレベルに近づくと気分を害するのでしょう。

新政権メンバーのこれまでの発言を見る限り、中米関係は今後相当なダメージを受けるでしょう。圧力のかなりの部分はホワイトハウス内部からくるとみています。 しかし中国には「青山は遮りおおせず、畢竟東に流れゆく」という言葉があります。平和的にことを解決していくという大きな流れは変わりません。大国間の関係は数人の好悪により決定されるものではなく、大国間の利益を対比・比較し、バランスと駆け引きによって緊張が収まるように考えていくべきです。

――トランプ氏は大統領選に勝利した昨年12月、中華民国(台湾)の蔡英文と電話会談をしました。その後、ツイッターに「The President of Taiwan(台湾の総統)」が電話をかけてきた、ありがとう」とつぶやいたことが話題を呼びました。「一つの中国」原則を見直す可能性も示唆しています。

私は、これはトランプ氏が意図的に行なったものであり、蔡英文が偶然にも電話をかけてきたといった話では絶対にないと思います。米次期大統領と台湾地区の指導者が37年ぶりに行なった電話会談です。

台湾問題は中米関係のレッドラインで、対応を間違えば両国に大きな痛手となります。そうと知りながらトランプ氏があえてそれを行なったのは、彼は中国のボトムラインを探っていたのではないかと察します。彼は今後、中国と政治・経済交渉を行なう上での切り札を増やそうとしたのかもしれません。ビジネスマンとしてはこれも交渉技術の一つでしょう。

しかし私は、そのような方法は賢いとは思いません。これは中米関係に覆いかぶさる影なのです。

――トランプ氏はエクソン・モービル会長兼CEOのレックス・ティラーソン氏を国務長官に指名しています。同社はロシアとの関係が深いことでも知られています。ティラーソン氏の起用はロシアを介した「中国牽制」という見方がもっぱらです。

ティラーソン氏とロシアの関係は非常に密接で、中国とも多くの交際があります。しかし大国間の交際は国際利益、戦略的平衡によって決定されるもので、個人的傾向も影響するかもしれませんが、決定的な作用を及ぼすことはありません。

また、中ロ間の戦略的協力関係は近年とても順調に発展しており、十分に緊密です。しかし、米国とロシアにはとても根の深い対立があります。大国間にはいつだって協力もあれば対立もある。中米関係もそれは同様です。

 

細い縄でゾウを繫ぐよう

2017年1月12日から17日まで、日本の安倍晋三首相はフィリピン、オーストラリア、インドネシア、ベトナム4カ国を訪問した。出発前、彼は「各国の首脳とお互いに力を合わせることで何ができるか、あるいは地域の平和や安定にどのように貢献していくべきかということを率直に話をしてきたいと思います」と述べました

――安倍政権は原発や新幹線の売り込みで「中国包囲網」を敷いています。

安倍晋三首相はかつて、中国に対する「ひし形包囲網(安全保障ダイヤモンド構想)」を提起した文章を発表したことがあり、彼は現在も頻繁にアセアン諸国を訪問し、新幹線などの経済プロジェクトで相手国との協力を協議しています。中国への敵対意識は明らかです。中国が参与している国際プロジェクトには必ず日本がちょっかいを出すとも言われています。 こうした日本の動きが経済的な分野にとどまるのであれば、われわれは何も言うことはありません。しかしながら日本の意図が、アセアンや東南アジア諸国との協力関係によって中国包囲網をつくり上げようとするものであるのなら、それはまったく現実的ではなく、独りよがりな考えです。

現在の国際政治・経済情勢のなかで日本が中国を牽制できる可能性はありません。中国包囲網をつくり上げたとしても、細い縄で大きなゾウを繋ぎ止めるようなものです。また、そのつくり上げた包囲網がどれだけ頑丈なのでしょうか。フィリピンと中国は南海問題で紛争がありますが、現在は協力すべきものは協力せねばならないという考えで合意しています。中国とアセアンも緊密です。中国包囲網を形の上でつくったとしても、何の役にも立ちません。

――日本では外務官僚を筆頭に「中国脅威論」が支配的で、沖縄県名護市での新基地建設も宮古・八重山での自衛隊配備も中国脅威論がその大義になっています。

日本が中国脅威論を語るのは、中国人は感情の上で受け入れることができません。日本は第二次大戦期間中に他国を侵略し、中国やアジアの国々に大きな被害をもたらしました。日本がなすべきは、自らの軍国主義による被害を反省することであり、どうすれば他国と平和的・友好的にやってゆけるのかを考えることです。

日本の外務省官僚の一部には、血気盛んな者がいて、戦後、中国と友好関係を築こうとした政治家とはまったく様子が違います。

ただ、安倍氏のような人が首相であるなら、こうした外務官僚が出現するのも自然といえば自然です。しかし彼らのいう中国脅威論は憲法改正、軍隊合法化、軍事実力拡張の口実にすぎないと私は見ています。経済力を強化し、国際的影響力の向上を狙う心理は理解できますが、それは包囲網の建設や軍事力拡張によって実現すべきではありません。そうした姿勢は必ず失敗し、他国民はおろか自国民にも災難をもたらすということを歴史は何度も証明しています。

王暁輝(オウ ギョウキ)

中国インターネットニュースセンター(チャイナネット)総編集長。中国翻訳研究院副院長。新華社ロンドン支局マネージャー、新華社情報センター海外部主任、チャイナドットコムCEOなどを歴任。報道、インターネット関連業務の経験から、国際会議やフォーラムの司会を多数つとめる。(撮影/馮進)

原文は2017年1月27日発行の『週間金曜日』(1121号)に掲載

 

2017年2月10日

 

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