11月15日、私は東京大学を訪問し、社会人たちと中国について意見交換をする機会がありました。日本においては、中国に関して本当に多くの人が関心を持っているということ、そしてさまざまな場で勉強会、意見交換会が開かれているということ、つまりさまざまな組織の垣根を越えた幅広い視野を身につけるための(お金儲けのためではない)知的「ネットワーク」が日本では重視されていることをご紹介したいと思います。
まずこの日は、東京大学の卒業生たちが大学を訪問するという「ホーム・カミング・デー」でした。これは、第9回「同窓会」にも書きましたが、日本の大学が卒業生たちとのネットワークを強化しようという試みの一環です(写真参照)。
東大赤門の前
さて、私が東京大学を訪問したのは、東京大学のエクゼクティブ・マネジメント・プログラム(以下「EMP」と略記)というコースの受講生達に対して、中国についてのお話をし、意見交換するためでした。このプログラムでは、25名のビジネス界、官界で働く社会人の皆さんが、毎週金曜と土曜、約半年間にわたって、多様な講義を大学の教師や、ビジネス関係者などから受けるというものです。
このプログラムの目的について、東京大学EMPのウェブサイトからご紹介しますと、「日本人、および日本の組織は、・・・多極化していく世界において通用する課題設定と解決の能力向上に対する高い志を持つべきである。そのためには、狭量な覇権主義や国益主義に陥ることのない人格と、多様な文化圏の持っている価値観に対する共感を持ちながら、最先端の知識を背景に鋭敏な感覚を持って他に先駆けて課題提起し、同時に、先端的、かつ具体的な課題解決策を構築できる人材を育む機会をいま必要としているのである。また、産業界、公官庁などからもそのような人材育成の要請があった。以上のような状況を踏まえ、社会からの要請に応えるために、東京大学は社会人向けの「東大EMP」を開設した。このプログラムでは、東京大学が持つさまざまな分野における最先端の知識を自らのものとし、さらに、深い智慧や教養と実際的で柔軟な実行力を併せ持つ、高い総合能力を備えた人材を育成する。」となっています。
ここでは、これから国際社会で活躍すべき人材について、非常に重要な問題提起があると思います。つまり、ビジネスマンにしても、単にお金儲けだけを目標とするのではなく、他者の立場、文化、価値観に対して共感を持ち、さまざまな課題を解決できる総合能力をもった人材が求められているということです。また、これまでの大学教育だけでは不足していた点もあるのではないか、社会に出た人たちがどういう見識を身につけるべきか、そのための教育をどう組み立てていくべきか、という問題意識もあると思います。このような問題意識は私も強く共感するところで、このような試みは非常に重要だと思います。このプログラムは東京大学で開設されたばかりで、今回が第一期ということです。
東大において行われた意見交換会
中国についての意見交換会においては、私からはあくまでも個人の意見ということで、中国の改革・開放30年間の成果と課題をどう見るか、中国は今後どのような方向に向かうのか、そして日本のこれまでの中国の改革・開放を支援してきた政策や平和外交はどのような成果を産み、今後はどうすべきかということについてお話しさせていただきました。その際強調したのは、日本、中国を含めた国際社会は、あらゆる世界の問題の解決のために一致協力して対応しないといけないということです。たとえば、最近、ソマリアの海賊により、日本、中国の船を含めて国際社会が広く被害を受けている問題があります。また金融危機に際して日本、中国がそれぞれ途上国への支援の方策を発表したばかりですが、それが欧米の新聞から高く評価されたことなどを紹介しました。世界の諸問題を解決するためには、政府間の協力に加えて、多国籍企業、国際的なNGOなどの参加も不可欠です。そのような観点から、社会人の皆さんが、国民の一人として、またビジネスの立場からも、積極的に世界の諸問題に向き合い、解決に向けて貢献していただきたいとお願いしました。これは日本人だけに向かって言うのではなく、このブログを読んでいる中国人の皆さんにも申し上げたいことです。
意見交換会に参加された皆さんは、中国とのビジネスや交流にも日ごろから積極的に参加されている方が非常に多く、大変活発な議論がありました。
参加者からの指摘としては、日本人と中国人がお互いに知らないことが多すぎる、まずは相互に訪問して交流すべき、交流のためには査証発給制度なども不断に改善していく必要がある、マスコミもどうお互いを報道したらよいか考えるべき、日本企業のトップも中国人メディアと直接交流すべき、歴史にはどう向かい合うべきか、歴史教科書をどうしたらよいか、腐敗問題はどうなるか、経済などさまざまな国際ルールをどう共有していくか、中国の沿海部だけではなく内陸部とどう交流と連携を発展させていけるか、外国にいる華僑に期待する役割は何か、アジア太平洋の安全保障をどうするか、日本として大きな対外戦略をどう作っていくか、といった諸点が参加者から指摘、問題提起されました。
約2時間の会合でしたが、時間が足りず、皆さんもっと言いたい・聞きたいことがあるということでした。私にとっても非常に刺激と勉強になった会合で、このような知的「ネットワーク」を更に発展させていきたいと思っております。また中国の友人たち(政府の官僚、研究者、マスコミなど)には私から常々申し上げているのですが、日本に来て、このような知的「ネットワーク」に頻繁に顔を出していただきたいと思います。既にそのような日中の知的「ネットワーク」作りに多大な貢献をされている方も、この会合に参加されていました。いろいろな方々のご尽力を得て、また私も微力ながら協力できることがあれば協力して、日中間の知的「ネットワーク」を拡充させていければと思います。
(井出敬二 前在中国日本大使館広報文化センター所長)
「チャイナネット」2008年11月19日