3月14日は、バレンタインデーの一カ月後の「ホワイトデー」という日です(チョコレートをもらった男性が、お返しのお礼を女性に送ることになっています。)また、3月14日は、日本では「国際結婚の日」でもあります。これは1873年のこの日、日本で外国人との結婚が公式に認可されたのを記念して定められたということです。
チャイナネットで日中の国際結婚について記事がいろいろ出ていますが、離婚も多いという記事もあり、十分な準備が必要と指摘されています。
「「国際化」が進む日本社会②国際結婚には十分な心の準備が必要」
日中の国際結婚をしたカップルがどのような困難に遭遇し、それに対してどのような相互理解、工夫をもって克服するのか、ということについて考えてみたいと思います。
日本人と中国人との間では、親の面倒の見方(経済的支援(仕送り)の有無)、親戚との付き合い方、子供の育て方、収入の使い方、女性が働くこと、夫が料理など家事を行うこと、などで考え方がいろいろ違っています。結婚生活においては、これらの考え方の違いを前にして、いかに夫婦の間で折り合いをつけ、克服するかは、非常に重要な点です。そして、このことの中には、日中両国国民がどうしたらうまくつきあっていけるのか、を考える上でのヒントもあるのではないか?と思います。
(以下の文章を書くにあたっては、日本で発行されている中国語新聞『中文導報』『東方時報』、中国関連図書出版社『日本僑報社』の関係者、日中間の国際結婚をしている多くの友人たちから貴重な情報とご意見をいただきました。どうもありがとうございました。)
1. 日本で登録されている日中国際結婚と離婚の件数
まずデータを紹介してみたいと思います。日本の厚生労働省は、日本で登録された国際結婚の国別結婚数と離婚数を公表しています。2008年の発表データ(インターネットで見ることができます)からとってみます。(以下のデータでは、中国、その他の国で登録され、日本で登録されていない婚姻件数は含まれていません。)
(1) 日中国際結婚のデータ(婚姻件数)は、1965年~2007年まで年次別に発表されています。
● 夫日本人・妻中国人の婚姻件数:1965年から1980年までは百の桁です(1965年121組;1980年912組)。1981年から2000年までは、千の桁に増えます(1981年1,032組;2000年9,884組)。2001年以降は1万の桁となっています(2001年13,936組;2007年11,926組)。1965年から2007年までの43年間の婚姻件数累計は、170,664組です。・・・(A)
● 夫中国人・妻日本人の婚姻件数:1965年から2003年まで百の桁です(1965年158組;2003年890組)。2003年以降、千の桁に増えます(2004年1,104組;2007年1,016組)。1965年から2007年までの43年間の婚姻件数累計は、21,894組です。・・・(B)
● 以上を合計すると、1965年から2007年までの46年間で、192,558組の日中の国際結婚のカップルが、日本で登録したということです。・・・(A)+(B)
(2) 日中の国際結婚をした人の離婚のデータ(離婚件数)は、1992年から2007年まで年次別に発表されています。
● 夫日本人・妻中国人の離婚件数:1992年の1163組から漸増して2007年は5020組です。1992年から2007年までの16年間の離婚件数累計は、47497組です。・・・(C)
● 夫中国人・妻日本人の離婚件数:1992年の148組から漸増して2007年は568組です。1992年から2007年までの16年間の離婚件数累計は、5434組です。・・・(D)
● 以上を合計すると、1992年から2007年までの16年間で、52931組の日中の国際結婚のカップルが離婚したことが、日本で届けられています。・・・(C)+(D)
(3) 以上のデータから、以下のことが言えます。
● 日本で登録される日中の国際結婚では、夫日本人・妻中国人(A)が、夫中国人・妻日本人(B)よりも、約7.8倍も多い。
● また、夫日本人・妻中国人の離婚(C)は、夫中国人・妻日本人の離婚(D)よりも、約8.7倍多い。
● これは夫日本人・妻中国人の離婚の割合のほうが、夫中国人・妻日本人の離婚の割合より、やや高めということを示唆している。但し、このことは、結婚をめぐる様々な環境をよく分析しないといけないので、ただちに何らかの結論に結びつけるのは慎重にした方が良いでしょう。
2. 日中国際結婚で起きる問題をどう乗り越えるか
日中国際結婚において、その習慣の相違が、結婚生活の中で、潜在的な障害となり得るものとしては、以下のものがあるようです。何が障害となるかは、結婚して生活する場所が日本か中国か、生活面で主導権をとるのは夫か妻か、等でも状況は異なります。そもそも結婚する前に、お互いに意志疎通をしっかりし、お互いの考え方を十分理解しているのか、ということが問われます。以下のことは、私の問題意識を書きならべるものであり、十分なデータが無いものもあり、また地域差・個人差・カップル差が大きいので一概には言えないと思いますので、ぜひこのブログの読者の皆さんからご意見をお聞かせいただきたいと思います。
(1) 親の面倒を見るか?仕送りをするか?・・・中国の親子関係は、日本とはいろいろ違います。中国ではある意味では「孝」(親孝行)の考え方が脈々と生きていると言えると思います。また、社会的な保険、保障制度が、日本ほど中国では普及していない面もあるので、経済的に親子・血縁者どおしの相互扶助に頼る度合いも強いようようです。たとえば日本人どうしであれば、結婚した後は、夫婦は親とは完全に別個の家計を営み、両親がよほど経済的に困窮していない限り、子供夫妻が親を経済的に援助する(仕送りをする)習慣は、中国に比べればかなり少ないと思います。(以前は、長男夫妻が両親の面倒を見ることが期待されていましたが、だんだん少なくなる傾向にあります。日本の年老いた親は、退職金や年金で、経済的基盤は一応はできている場合が多いと言えます。)しかし、中国人にとっては、市場経済への移行の大変動の中でもあり、子供が(特に子供が外国で豊かな生活をしている場合)、親に仕送りをするのは当たり前、という考えかたがあるように思います。この点は、日中の国際結婚をした夫婦の間でよく話しあっておかないと、論争点・対立点になると思います。たとえば、日本人男性と結婚して、日本に来た中国人妻が、中国にいる両親にお金を仕送りしようとすると、日本人の夫にとっては、そのような習慣が日本では殆どないので、理解できないといった反応をするかもしれません。これはよく説明する必要があるでしょう。
(2) 妻が外で仕事をするか否か?・・・中国では妻が外で働く割合が、日本に比べて高いと言えるのだろうと思います。以前の中国であれば、夫妻共稼ぎをしないと、経済的に苦しいという面もあったでしょう。しかし、今日では、中国も豊かになり、夫に十二分な収入がある場合も出てきました。そのような場合でも、中国人女性は外で働きたいという意欲・希望を強く持っている人が多いように見受けられます。私の知り合いの富裕層の中国人女性達に、「なぜ貴女は外で働きたいのか?家でのんびり暮らして、文化を味わったりすれば良いではないか」と聞くと、「やはり自分の存在価値を示すために、外で仕事を持っていることが必要だ」という趣旨の答えをされる方が多いように思います。同時に、夫の死亡、離婚なども含めて何かあった時に備えて、妻も仕事を持っている方が安全だ、という面もあるのかもしれません。日本であれば、離婚する場合、財産分与、子供の養育費の面で、夫が支払う義務を負い、問題が生じれば裁判によって夫が支払うことになりますが、中国ではそこらへんの考え方・制度・実態が少し違うようにも見受けられます。但し、日本に滞在している中国人女性の間で、主婦になる人も増えているという研究調査結果もあるそうです。
(3) 夫が料理などの家事をするか否か?・・・中国の男性、特に上海の男性などは、家で料理をする人が多いとよく聞きます。(中国でも地方による差があるかもしれませんが。)これは、妻が外で働くのを支援する意味もあると思います。日本では、まだ男で料理をしたり、家事をするという人が、中国に比べると少ないように思えます。(日本でも男性向けの料理の本が売られており、また男性向けの料理教室もあることはありますが。)私の知り合いのある中国人女性(湖南省出身。日本人男性と結婚した)が私に対して、「私の夫(=日本人男性)は、家事を何もしないので、私の両親(湖南省の老夫妻)はいつも怒っている。私自身(=中国人の妻)、若い頃は家で家事をしないで良いと両親から言われていたものだった」と言っていました。
(4) お手伝いさん(アイさん)を雇えるか?外食が安いか?・・・中国(特に都市部)で、夫婦が共稼ぎをする場合、家事や子供の面倒(場合により親の面倒)を見るために、お手伝いさん(アイさん)を雇うことができます。廉価な労働力が農村から供給されています。日本でも戦前は廉価な労働力が農村から供給されていましたが、現在の日本では一般家庭が雇えるような廉価な労働力はありません。また中国では外食も廉価なので、よく夫婦で夕食などを外で食べていますが、日本では外食は相対的に廉価ではありません。したがって、この点では、共稼ぎをする夫妻にとり、日本では不利な状況にあると言えます。(この点は、中国でも都市部と農村部とで違いがありますが。)
(5) 日本における日本人の夫妻の場合、夫が仕事や付き合いで夜遅くまで家に帰らないことはよくあることであり、妻はさほど文句は言いません。しかし中国における中国人の夫妻の場合、夫が夜遅くまで外にいて家に帰らない場合、妻が夫に携帯電話をする等して、そのような状況を許容しない(日本人妻よりは許容度が低い)という話しも聞いたことがあります。私は中国人の友人に、「昔は携帯電話が無かったが、その時は、中国人の夫人はどうしていたのか?」とたずねたところ、「その場合、夫が遅く帰宅したら喧嘩になる」と言われました。
(6) 以上を総合しますと、中国人女性が日本に来て日本人男性と日本で一緒に生活する場合、中国人女性はいろいろな圧力(プレッシャー)を受け、困惑する場合も少なからずあるのではないかとも思います。すなわち、まずそもそも日本語がよく分からず日本の習慣になじめない、時として夫の両親の面倒をみないといけない、中国にいる自分の両親に仕送りをしたいけれど夫は理解してくれない、妻が外に働きに出ても日本人の夫は家事を手伝ってくれない、お手伝いさんは雇えない、外食もあまり(殆ど)行けない、夫は夜遅くまで家に帰ってこない、以上から妻は話し相手もおらず精神的にも孤立する、家事の負担が全て妻に集中する、しかし中国人妻はこれらの圧力に対する術を知らない、等等です。(中国人妻の出身が、東北地方か上海か、農村か都市か、によっても、これらの状況に対する反応の仕方もかなり異なるのでしょうが。)
(7) 日本に住んでいて、日本人妻と結婚した中国人男性は、妻に家事を全部任せられる、夜遅くまで家に帰らなくても妻から文句を言われない、といった点はよいかもしれません。しかし、日本人妻は、夫がしっかりした収入を得て、家を経済的にしっかり支え、収入は(全部)妻に渡すことを期待し当然視していますので、その点ではやはり圧力を受けることになります。またもし離婚する場合には、(状況により慰謝料をしっかり支払い、また)子供の養育を妻がする場合には養育費をしっかり支払う必要があります。
(8) 逆に中国における日中の国際結婚の場合、中国人の配偶者が生活の主導権を得ることになる場合が多いでしょう。まず日本人妻・中国人夫の場合、中国人夫が社会的・対外的に主導権を握ることが考えられます。北京においては中国人男性と国際結婚をした日本人夫人達がつくっているグループ「和華の会」というのがあります。そこでは、子供の教育、夫の両親の付き合い方などがよく相談されているそうです。
(9) 中国に住んでいる日本人夫・中国人妻の組み合わせの場合、日本人夫は、中国の習慣に触れる機会が相当程度あると思いますので、中国人妻の感情を理解する程度も高いことが期待されます。私が知っている数組の知り合いを見ると、日本人夫が中国的なやり方に合わせているところは、うまくいっているようです。
(参考) 日本における日中国際結婚で、満足度がどうかということについては、鹿児島大学王寧霞氏の「日中国際結婚の研究」があります。
(井出敬二 前在中国日本大使館広報文化センター所長)
「チャイナネット」2009年3月2日