京セラ名誉会長
稲盛 和夫
本年は、日中国交正常化40 周年という記念すべき年にあたります。中国と日本は、近代の一時期を除き、その長い歴史のほとんどの時代において、友好的な関係を築き上げてきました。
もちろん、長い歴史の間には、一衣帯水の隣国であるが故に遭遇する様々な試練もありましたが、両国民は常に困難を乗り越え、その絆を深めようと努めてきました。特に1972 年の国交正常化以降は、経済面においても、人的な交流面においても、急速に友好関係が進んできました。
私は今後も日中両国が、かつて墨子が説いた「兼愛交利」という、国と国との交わりの精神をベースに、真の友好関係を維持していくべきだと考えています。
私は、この「兼愛交利」という言葉を、中国日本友好協会の宋健会長(現名誉会長)からお聞きいたしました。その意味は、「自他の区別なく、平等に愛し、相互に利益を受ける」ということだといいます。
この精神は、「相手のことを思いやり、相手を利することが、ひいては自らの利益にもなる」という、仏教の「自利利他」の考え方にも通じるものであろうかと思います。
思えば、京セラが中国に進出するにあたり、ベースとした精神も、この「自利利他」の考え方でありました。
こうした姿勢を貫いた結果、京セラは最初の中国進出以来、一貫して中国の地域社会、また合弁企業と良好な関係を築いてきましたし、京セラの中国におけるビジネスも自ずから拡大してきました。今では、中国本土の関連会社だけで24 社、従業員数は約22,000 名を数えます。この成長発展は、「自利利他」の精神をビジネスの根底に据えていたことが最大要因であったと信じています。
国と国の関係も同様であろうと思います。自らが利益を得たいなら、自国の利益ばかりを追求するのではなく、相手の利益をも考慮し、共に繁栄する道を探ることが重要です。そうすることが、短期的には不利益を被るように見えても、長期的には必ずや両国の強固な互恵関係を確立することに繋がるはずです。
この国交正常化40 周年という記念すべき年を契機として、日中両国民が、「自利利他」の心で相手のことを思いやり、その精神に根ざした行動をとるならば、日中両国間に素晴らしい共存共栄の関係を築くことができるのみならず、東アジア、さらには全世界の平和と安定にも大きく貢献することができると確信しています。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2012年7月23日