縄で括られながらも何とか酒を盗み飲もうと蔵に入り、酒の香りにウットリする「棒縛」の太郎冠者と次郎冠者(写真提供・在中国日本大使館)。 |
「このあたりの者でござる」で始まる日本の古典芸能・狂言が中国でも国境を越えて笑いを巻き起こした。人民網が伝えた。
中日平和友好条約締結40周年を記念して在中国日本大使館が主催し、人間国宝の野村万作氏、俳優としても活躍する野村萬斎氏による狂言公演が10日に北京の天橋芸術中心で行われた。そのチケットは発売開始から30分ほどで完売するほどの人気で、会場には中国人の若い女性たちの姿が多くみられた。
公演はまず野村萬斎氏による狂言に関する紹介からスタート。萬斎氏が舞台に姿を現した瞬間、会場全体にどよめきともいえる歓声があがり、中国での人気の高さをうかがわせた。
同公演では「棒縛(ぼうしばり)」と「川上(かわかみ)」、「茸(くさびら)」の3作品が演じられ、萬斎氏はそのあらすじと鑑賞する上でのポイントなどをユーモアを交えながら紹介。松の木を背景にしたシンプルな舞台、様々なシーンを「型」と呼ばれる所作で表現する点など、中国の散楽をルーツとする狂言には、中国の伝統芸能・京劇などと共通する点もみられる。また、公演後のインタビューで野村万作氏と萬斎氏は、その誇張された滑稽な動きや擬音を使ったセリフなどは日本の漫画やアニメにも通じ、「川上」で語られる夫婦のやり取りは現代の介護問題に通じる点もあるなど、狂言は「古典でありながら現代的なニュアンスを持つ」魅力を備えていると語っている。
萬斎氏は、狂言には歌舞伎や京劇のような華やかさはないが、是非イマジネーションを働かせて鑑賞し、同公演を通じて、日本には狂言という笑いを扱う芸術があることを知ってほしいと紹介の言葉を締めくくった。
最初の作品「棒縛」では、縄で括られながらも何とかして酒を盗み飲もうとする意地汚くも、いじましい二人の男の姿が笑いを誘い、続く「川上」では、万作氏が87歳という高齢を感じさせない素晴らしい演技を披露。盲人である男が山道で激しく転ぶシーンでは、思わず観客席から声が上がるほどだった。
そして最期の「茸」では次々とでてくる「茸」たちのシュールな動きに会場は爆笑の渦に。
華やかさはないとしていたものの、棒に括り付けられた太郎冠者が着ていたのは両手を広げた姿そっくりのトンボが背に大胆に描かれた肩衣。シュールな茸たちはそれぞれ違うデザインと色の笠を被ることで、その動きをより効果的に見せ、最後に舞台に並べられた笠の配置は空間と色の絶妙なコントラストとなっており、東京五輪とパラリンピックの演出を総合統括するチーフECDを務めるという萬斎氏の五輪における演出にも大いに期待を抱かせてくれる今回の公演だった。
また同公演には、駐中国日本大使の横井裕夫妻をはじめ、中国側からは外交部(外務省)の孔鉉佑副部長、文化・観光部(省)の張旭副部長、文化部(省)の劉徳有元副部長らも来賓として訪れていた。(文・玄番登史江)