戦前から続く日本のプロ野球。今日では12の球団が毎年リーグ戦を組み熾烈な競争を繰り広げている。来日当初、筆者はリーグ期間中大学の研究室で「読売ジャイアンツ」ファンと「阪神タイガース」ファンが互いに相手チームの選手や監督を罵倒しあったり、『読売新聞』なんて死んでも読まないなどと叫んでいる光景を時折目にしたら、日ごろ大きな声を上げて騒ぐことの少ない日本人が野球の話になると変貌してしまうことに、筆者は長い間理解できずにいた。
4年前に関西に引越すことになり、通勤時に阪神甲子園球場前を通るようになると、筆者は日本人の野球に対する情熱を改めて知ることになった。リーグ期間中は毎日のように虎をモチーフにしたユニフォームを着たファンらで電車は満員になる。中には上は70、80歳のご老人から下は3、4歳の子どもまでが全身を黄色と黒でコーディネートし、応援グッズが詰まった大小のカバンを持って一家総出で応援に駆けつけるという姿も見られた。
ルールさえ分からない筆者は、ただただ熱狂的なファンの姿をはたから眺めているしかなかった。しかし、電車の中で、老若男女も富も貧も立場も問わず虎の衣装を身にまとい、幸せや喜びを享受している日本人の姿に、筆者も気がつけば興味が沸いていた。筆者の観察では、タイガースファンは関西人が多く、巨人ファンは関東人が多い。社会学的にみると、日本のプロ野球は商業的スポーツであるだけでなく、その土地の人々の絆をも結びつける粘着剤の役割も果たしているのではないだろうか。
しかし、奇妙なことに、「広島東洋カープ」のユニフォームを来た女性の野球ファンが、近年東京に増え始めている。赤と白をベースにしたユニフォームによって、東京のスタジアムはほぼ赤一色に染まり相手席を圧倒する勢いである。彼女たちは全国各地からやってきて東京で暮らしているのに、なぜ「広島ファン」なのだろう。