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japanese.china.org.cn |29. 04. 2021

冬季競技服に「中国の知恵」

タグ: 競技服

 

春節(旧正月)直前、中国ではほとんどの大学がすでに冬休みに入っていた。しかし、筆者が北京服装学院の劉莉教授のスタジオを訪れたとき、彼女はまだ、冬季五輪の競技用ウエアのデザインの改善プランについて、チームのメンバーたちと熱い討論を交わしていた。

北京服装学院は2019年12月、申請を経て、冬季五輪中国代表チームのトレーニング用・競技用ウエアの開発者となった。その重責を担うのが劉教授だ。人間工学、機能性ウエアデザイン、スマートウエアなどの分野の専門家として、劉教授は多方面からの協力を得て、人間工学、流体力学、ウエア素材、工業デザインなどの分野における人材を集め、研究開発チームをつくり上げた。

 

中国フィギュアスケート代表チームの金博洋選手(男子シングル)が2019~2020年のシーズンにショートプログラム『曙光』で着用したコスチュームは、「蘇繍」(蘇州の刺しゅう)の技法を用いて、250時間かけて完成したもの

 

「0・01秒でも大事」

中国は1980年、初めて選手を派遣し、米国レークプラシッドで開かれた第13回冬季五輪に参加した。92年、中国選手は冬季五輪で最初のメダルを手に入れた。そして2002年のソルトレークシティー冬季五輪のショートトラック(1)女子500㍍で、冬季五輪初の金メダルを獲得。14年のソチ冬季五輪で、中国は初めてメダル数ランキングでアジア1位になった。冬季五輪における中国の競争力は徐々に高まっている一方、国内のウインタースポーツの科学技術研究開発分野の産業システムが不完全という問題は日に日に浮き彫りになっている。特にウエアの研究開発はかつて白紙に近い状態だった。

2年間の努力によって、劉教授が率いる冬季競技ウエア・機材研究開発センターは、スピードを競う種目(2)のウエア、けが防止の素材(3)や装備、低温耐性素材、テクニックを競う種目のウエアという4種類の製品のイノベーションに成功。中国の「科学技術によるオリンピック」という戦略の成果を示した。

スピードを競う種目の競技ウエアは「速さ」を重視し、フィギュアスケート(4)用のコスチュームは中国的な「美しさ」をアピールするとともに、ウインタースポーツ用の競技ウエアに必要な「けが防止」と「防寒」も大事にしなければならない。ショートトラックやアルペンスキー(5)などのスピードを競う種目では、「0・01秒でも大事で、わずかなアドバンテージでもメダルを取れるかどうかを決める可能性があります」と劉教授は説明する。「私たちは模型を分析して人体の皮膚の変形について理解し、その法則に基づいて個々人に合ったスキンスーツ(6)を作ります。選手が動くたびに、スキンスーツはその空気抵抗を最低限に減らし、十分な『速さ』を保障することができます」。生地や構造の調整を進めたことにより、チームが開発した最新のアルペンスキーの滑降種目用ウエアは、風速が毎秒32㍍のときの空気抵抗の減少が、世界のトップレベルの水準を4%上回った。将来、冬季五輪で使われる競技ウエアは、空気抵抗の減少効果がさらに向上するという。

「アルペンスキーの滑降速度は、通常の車の走行スピードを超える最高時速160㌔にもなります。このような条件に加えて、選手はさらに旗門を通過する必要があります。もしバランスを失って倒れたら、重傷になる可能性があるので、『けが防止』は非常に重要です」。アシスタントの張鳴雯研究員の紹介によると、同チームが開発したアルペンスキーのトレーニング保護ウエアは、新型の衝撃吸収素材(7)を使用し、選手が旗門を通過する際の負傷を効果的に防げる。また、ショートトラックの競技ウエアは切傷抵抗の生地を全身に使い、選手たちの体を全面的に守ることができる。

大抵のウインタースポーツには「防寒」が必要だ。冬季競技の訓練拠点は気温がマイナス20~マイナス30度になるのが一般的で、体感温度はさらに低く、選手の訓練に深刻な影響を与える。同チームが開発した総合保温システム「とりで」は、自動電熱フェイスプロテクター(8)、ベスト、グローブ、ソックス、クッションを含み、防風性、防水性、透湿性、耐摩耗性、高効率の保温性を統合して、マイナス30度の環境でも十分な熱量を提供でき、人体の温熱感覚を向上させ、全面的に防寒に徹している。

 

北京服装学院開発チームが作ったコスチュームを着て、2019年の世界フィギュアスケート選手権でペア優勝を果たした隋文静選手(左)と韓聡選手(写真提供・北京服装学院)

 

「どのウエアも唯一無二」

劉教授は今回初めてウインタースポーツに関わったわけではない。18年初頭の平昌冬季五輪直前、北京服装学院は中国国家体育総局の招請を受け、選手のためにスマート加熱服を開発するという緊急任務を引き受けた。限られた時間で重責を抱えながら、劉教授は最新技術とハイテク素材を用いる開発方向を打ち出した。わずか20日間で、劉教授のチームは軽くて柔らかく、スマート防寒の自動加熱式防寒服を100着余り開発した。

数回の協力を通して、劉教授のチームはその実力を十分に認められた。19年1月に、同チームはまた1カ月かけて、ペアスケーティング(9)選手の隋文静さんと韓聡さんのために、高級オーダーメイド競技コスチューム6着をデザインした。そのコスチュームを着て、隋選手と韓選手は2019年四大陸フィギュアスケート選手権と2019年世界フィギュアスケート選手権でペア優勝を獲得した。

「海外からサービスは買えても、選手のための『オーダーメイド』は買えません。そのため、自主イノベーション、知的財産権の獲得、高性能スポーツウエアの独自研究開発体制の確立こそが、私たちのチームの存在意義であり、私たちが冬季五輪事業に参加して、未来に残せる『財産』でもあります」と劉教授は語る。より体に合った服を作るため、開発チームは中国代表チームのメンバー全員を対象に3Dスキャンを行い、選手の人体データを精密に測定してデータベースを構築するだけでなく、現役選手や引退した選手をモデルに、「デジタル画像採集技術」を使って動作の情報を収集し、冬季五輪用競技ウエアのパーソナライズの研究開発を進めている。

 

チームメンバーとコスチュームのデザインについて討論をしている劉莉教授(左から2人目)

 

服装で語る中国の物語

フィギュアスケートは芸術性と競技性が融合するスポーツであるため、そのコスチュームは生地の軽さと柔軟性、高いストレッチ性を保ちつつ、使用曲や振り付け、選手の気質にマッチして、プログラムの内容と魅力を伝える必要がある。中国フィギュアスケートチームとの3年目の協力で、劉教授のチームは中国選手の競技コスチュームに、中国の服飾文化や美意識をさらに取り入れようと努力してきた。

「コスチュームは選手たちにとっての戦闘服であるため、体に合うかどうかは選手の自信と試合でのパフォーマンスに影響します」と劉教授。機能性と審美性を兼ね備えたコスチュームをデザインするためには、楽曲を理解し、綿密に調査し、デザイン画を描き、装飾を施し、陸上・氷上で試着し、修正を繰り返すといったプロセスが必要だ。どのコスチュームも、楽曲のテーマ、振り付けをベースに、選手一人一人の体格や性格、習慣などに合わせてカスタマイズされたもの。「どのコスチュームも個性的で唯一無二の存在です」とメインデザイナーの趙雅捷さんは誇らしげに語る。

交流と理解を深めていくうちに、北京服装学院のデザインチームと中国チームの選手たちとの協力はさらにスムーズになった。「以前、海外で注文したコスチュームは合わないところが多く、例えば、生地がとても滑りやすく、ペアの動作をするのに不便だったりしました。そういう場合は国内でもう一度作り直す必要がありました」。隋選手はインタビューの際にこのように述べた。「今は北京服装学院の先生たちと最初からしっかりと意思疎通を行い、試着の時に気付いた問題をいつでも解決できるので、効率が大幅に改善されています」

「以前、中国チームのコスチュームは海外で注文するしかなく、時間がかかる上に、海外のデザイナーは中国選手の体形や習慣、感情表現についてもよく理解していませんでした」と劉教授。「私たちのデザイナーはこの状況を打破し、プリント、染色、紡織、刺しゅうなどの中国の伝統工芸を駆使し、コスチュームで中国の物語を伝える努力をしています」

デザイナーにとって、中国の伝統文化にある要素や染色技術は、インスピレーションの宝庫だ。「昨シーズン、隋選手と韓選手のエキシビションの選曲は譚盾氏の『十歩一剣』(中国の戦国時代が舞台の映画『HERO』の挿入歌)でした。私たちは背景資料をたくさん調べて、秦国と趙国の衣装の特徴を研究し、映画で表現された書道・水墨画の要素からインスピレーションを探してきました。デザインをするときには、中国の伝統的な絞り染め(10)の技法を用いて水墨画のグラデーションを表すという自然な形で、中国文化をアピールしました」と語るデザイナーの趙さん。外国人デザイナーの作品との違いについて、中国のデザイナーたちも自分なりの考えを持っている。「外国人デザイナーのイノベーション力と大胆な想像力は、私たちにとって学ぶべきことです。ただ、フィギュアスケートの文化に対する理解を深めていくにつれ、私たちの能力もますます高くなっていくと信じています」

現在、劉教授のチームは、中国フィギュアスケート代表チームのペア、男子シングル、女子シングル、アイスダンス種目の主要選手22人にコスチュームを提供している。同開発チームは合わせて424のデザイン案を出し、競技用コスチューム70着とエキシビション用コスチューム99着を製作し、中国チームが数回の世界レベルの大会でメダル18個(金メダルを含む)を獲得するのに貢献した。19年に同チームが開発したコスチュームは、世界最大の主流フィギュアスケートフォーラム「ゴールデンスケート」で、「ベストコスチューム」に選出された。「メンバーは皆、中国チームと共に闘っているように感じており、非常に誇らしく思っています」と劉教授はほほ笑んだ。

 

「速さ」「美しさ」「けが防止」「防寒」を兼ね備えた競技ウエア

 

(1)ショートトラック 短道速滑                

(2)スピードを競う種目 竞速类项目

(3)けが防止の素材 防护材料

(4)フィギュアスケート 花样滑冰

(5)アルペンスキー 高山滑雪

(6)スキンスーツ 皮肤衣

(7)衝撃吸収素材 缓震材料

(8)自動電熱フェイスプロテクター 主动电加热护脸

(9)ペアスケーティング 双人滑

(10)絞り染め 扎染


 人民中国インターネット版 2021年4月29日