大涼山区は四川省南西部の雲南省との省境に位置する、全国でも深刻な貧困地区だ。自然環境が厳しく交通の利便性が低いことから、出稼ぎ労働を選択する現地の若者が増えている。独特なイ族技術の継承者が不足し、徐々に廃れようとしていた。ところが幸運にも、1993年生まれの成都市の女性・小草さんがここを訪れ、ボーイフレンドの阿蔡さんとこの現状を変えようと試みている。
刺繍、銀飾り、毛織物、フェルトづくりなどのイ族の技術は、国家級無形文化遺産に登録されている。これは中国の少数民族による優秀伝統文化であり、継承者がいなければ非常に惜しいことになる。小草さんは成都市で羊毛フェルトのアトリエを開いていたが、大涼山を訪れるとボーイフレンドと27の県・市を歩き回り、イ族フェルトづくり職人を訪問し、彼らから古い技術を学んだ。
現地人は幼い頃から縫い物の基礎を固めている。二人は会東県で面積約300平方メートルの空き家を借り、羊毛フェルトの企業を設立し、現地の女性20人を雇用した。彼女たちの生活の中心はそれまで、子供や夫だった。毎日靴の敷き皮や負い紐を作るほかは、子供の面倒を見たり家で料理をしたりで、自分の生活というものがなかった。
涼山イ族自治州の伝統的なフェルトづくりの技術で羊毛フェルトを作るのは非常に複雑で、羊毛を梳いて整え、模型を作り、毛を敷き、煮沸水で処理し、石鹸をつけ、何度もこすり、干して乾かし、針を入れるといった煩瑣で複雑な工程を踏まえる必要がある。小草さんは伝統技術を参考にし、子供用のフェルト帽、スカーフ、手袋、猫の小屋といった可愛らしい商品を開発した。新しい手段により、歴史あるフェルトづくり技術を示した。
しかし「商品」はフェルトづくりの最大の問題ではなく、「無名」が実際の問題になっている。涼山イ族自治州は閉鎖的な環境で、村はそれぞれ独立している。羊毛フェルトという「山奥の宝物」を外部に進出させるのは極めて困難だ。彼女は最終的に、タオバオに出店することを決定した。「タオバオは一つの窓口のようなもので、外の人、さらには世界各地の人も私たち山の人が何をしているか目にできる」
小草さんの店の商品は広州中継ステーションに運ばれ、そこからさらに豪州、シンガポール、香港などに輸送される。そのため彼女は海外の消費者とも知り合うことになった。彼女のチームには、朝早くから夜遅くまで野菜を売っていた人がいるが、今や毎日規則正しく仕事をするだけで月収が3倍に増加した。
工場で勤務する女性のほか、イ族の高齢の女性も小草さんのチームに加わった。彼女たちはイ族の100%手作業の撚糸に長けている。これは国家無形文化遺産であるイ族フェルトづくり撚糸技術の一部だ。「あるおばあさんは今年74歳になるが、心はまだ若く自分の技術でお金を稼ごうとしている。私たちは羊毛の糸をあまり使わないが、彼女がいつも新しく撚った糸を持ってくると、使い切れないから必要ないとは言えなくなる」
毎日商品を出荷する前、小草さんはおばあさんが作った羊毛の糸を使い、紙箱を美しい蝶結びで飾る。購入者は商品を受け取ると、「実物のほうが美しい」と称賛し、「手の込んだ包装で心温まる」と思わず口にする。
「小草さんたちと出会わなければ、初めてどころか、一生飛行機に乗ることはなかった」小草さんのチームに加わる莫さんは12月5日、お金を稼ぎ新しい家に引っ越し、人々を食事に招待した。46歳の彼女は今年初めて飛行機に乗り、大涼山区の外に出た。それまで彼女が行ったことのある最も遠い場所は、50キロ離れた会理県の県都だった。
小草さんは、「自分の両手で現状を変えようと思う人ならば何歳でも大歓迎だ。このような手段により、彼女たちの世帯収入を改善できればと思う」と話した。小草さんたちは古い世代のほか、次の世代にも関心を寄せている。彼女たちは美姑県の聾啞学校を訪れ授業を行った。「いつの日か、羊毛フェルトの小さな飾りや一部を彼らに作ってもらい、それを回収したい。彼らは学業を終えても、就職が困難だからだ。私たちはいつか彼らに協力する力をつけたい」