チベット文化の保護と発展

三、宗教信仰と民族習俗に対する尊重


チベット仏教はチベットの大部分の人びとが信仰している宗教であり、チベットの伝統的な文化の重要な構成部分である。チベットの人たちは長い歴史の過程でユニークな民俗風習と生活習俗を形成してきた。チベットの平和解放以来、中国政府はチベットの各民族の人たちの宗教信仰の自由と民族の習俗を大いに重視し、また十分に尊重している。

旧チベットで実行されていたのはヨーロッパの中世のような政教合一の宗教制度であった。ダライを総代表とする上層勢力が政治、経済、文化の命脈を握り、信者が天国に入る「入場券」を握り、広はんな信者たちに神権統治と宗教独裁を実行するもので、とうてい宗教信仰の自由と言えるものではなかった。この体制は社会の活力を抹殺し、人びとの思想を抑えつける重い首かせやクサリとなった。1959年の民主改革は、腐り果てた政教合一の制度とダライをはじめとする寺院の活仏の教権統治を徹底的に覆し、政教の完全な分離と寺院の公共事務管理の民主化を実現し、宗教信仰の自由の実現に制度面から保障を与えた。

国はチベット仏教をチベット民族の伝統文化としてきちんと保護している。信者たちの宗教信仰の自由の要望を満たすために、国は強力な措置をとり、宗教寺院と文化財・旧跡を適切に保護し、布達拉宮(ポタラ宮) 、大昭寺(ジョカン寺) 、哲蚌寺(デプン寺)、色拉寺(セラ寺)、甘丹寺(カンデン寺)、扎什倫布寺(タシルンポ寺)、薩迦寺(サキャ寺)などの多くの宗教活動の場所を全国または自治区の重点文化財保護単位に組み入れ、また毎年多くの特別支出金を計上して修繕を行っている。1980年代以来、中央とチベット地方財政は前後して7億元余と多くの金、銀などの物資を拠出し、一連の宗教活動の場所に修繕を施した。現在、チベットにはさまざまな宗教活動の場所1700余、寺院に居住する僧、尼僧4万6000余人がいる。寺院の壁画、彫刻、塑像、唐卡(タンカ)、経典、仏具、佛龕などの宗教文化財が保護され修繕されている。数多くの宗教文献が保護され、整理され、出版された。各寺院の伝統的な印経院(経典を印刷する所、バルカン)が継承され、拡大し、現在、木如寺(ムル・ゴンパ)印経院、布達拉宮(ポタラ宮) 印経院などの大きな印経院が60カ所近くあり、年間に印刷される経典は6万3000種に及び、民間の経書販売所は20軒もある。1984年チベット自治区政府はチベット語の大蔵経『カンチュル』のラサ版を中国仏教協会チベット分会に贈り、またラサ印経院を援助しそれを彫刻させ自治区内外の寺院に配布した。1990年、さらに特別支出金50万元を計上し、ラサの木如寺(ムル・ゴンパ)が行うチベット語の大蔵経『タンチュル』の新しい木版彫刻を援助し、すでに彫刻された160巻(帙)は現在印刷中である。これはチベット史上ラサで彫刻、印刷される最初の『タンチュル』である。国はまた4000余元を投下して百人以上のチベット語の専門家を組織し、20余年かけて、チベット語の大蔵経『カンチュル』、『タンチュル』の校訂出版を完成し、現在すでに大蔵経『タンチュル』124点を全部出版し終え、『カンチュル』108点は2008年までに全部出版される予定である。現在までに大蔵経『カンチュル』1490点がすでに印刷され、またチベット仏教の儀礼規範、伝記、論著などの古籍も印刷発行された。1998年、チベット自治区のチベット語古籍出版社とチベット人民出版社はそれぞれ『苯(ボン)教カンチュル』と『苯教タンチュル』(大蔵経)を整理し出版した。仏教に関する一連の専門書、例えば『貝葉経の整理研究』、『チベット苯教寺院志』なども相次いで出版された。

正常な宗教活動と宗教信仰が法律によって保護されている。チベット自治区と7つの地区・市にはすべて仏教協会が設置されている。中国仏教協会チベット分会はチベット仏学院、チベット語印経院と協会のチベット語による刊行物『西蔵仏教』を出版している。国は「中国チベット語系高級仏学院」を創設し、チベット仏教のハイレベルの人材を育成している。すでに100余人の活仏、高僧がこの学院に入学し造詣を深めている。寺院では仏教経典の学習、弁論、学位昇進、受戒、灌頂(チベット仏教の僧侶が密法修行時に必ず行う宗教儀式で、チベット語で力を与えるという意味)、修行などの伝統的な宗教行事が正常に進められている。活仏転世(生き仏が生まれ変わる)はチベット仏教特有の伝承方式として国に尊重され、すでに40余人の新しい転世活仏が宗教儀礼規範と歴史的制度により認められている。

チベットの宗教活動は内容が豊かで、形式も多様である。1980年代以来、チベットは各種宗教祝日40余を相次いで復活させた。信者たちは毎年薩噶達瓦祭(サガダワ祭)、雪頓祭(ショトン祭、通称ヨーグルト祭)などさまざまな宗教行事に自由に参加し、掲げられた経幡(仏教の旗、タルチョ)、経文が刻まれたマニ堆および宗教行事を行う信者たちの姿をいたるところで目にすることができる。信者たちはみんな家に経堂や佛龕を設置し、いつも転経(聖地を回りながらお経を読む)し、仏を参拝し、寺院の僧、尼僧を招いて法会などの宗教行事を行っている。

チベットの人たちの習俗が尊重され保護されている。平和解放の後、中国政府はチベット族および他の各民族の伝統的な習俗に対する尊重と保護にとくに留意し、彼らが自分の意志で宗教と民族の活動に従事する自由を尊重し保障している。50余年来、チベットのチベット族と他の少数民族は自民族の服飾、飲食、住居などの伝統的なスタイルを保ち、毎年決まった日に各種の伝統的な祝祭活動を行っている。それと同時に、封建農奴制に伴っていた腐り果て、立ち遅れ、勤労大衆を蔑視した旧い習俗などが、社会の進歩と発展につれて人びとに見捨てられ、これに代わって現代的、文明的、健康的な新しい気風が現れている。チベットでは毎年チベット暦新年、沐浴祭、望果祭(豊作を祝うもの)、酥油灯祭、達瑪祭(射撃・弓術大会)、煨桑祭(山神を祭る)、噶爾恰欽(ガルチャチェン)祭、競馬会などいろとりどりの伝統的な祝日や宗教の祝日が祝われている。その他に国慶節、国際労働婦人デー、メーデーなどの全国的、世界的な祝賀行事もあり、また山南(ロカ)地域の雅礱(ヤールン)芸術祭、昌都(チャムド)の康巴(カンバ)芸術祭、日喀則(シガツェ)のチョモランマ峰芸術祭、林芝(ニンティ)のツツジ祭など現代的な民族の祝日もある。チベット族の伝統的なすぐれた文化は現代文明の新しい思想、文化と結びつき、チベット民族文化に新たな風格を添えている。