チベット文化の保護と発展

二、文化遺産の継承・保護と発揚


チベット文化遺産は中国の文化遺産の重要な構成部分である。中央人民政府はチベット伝統文化の保護と発展に大いに力を入れ、多大な人力や財力、物資を投入し、法律・経済・行政などさまざまな手段を使って、すぐれたチベット伝統文化をちゃんと保護し、それを継承、発揚、発展させるようになった。

文化財や旧跡はちゃんと保護されている。民主改革以後、中央人民政府はチベット文化財保護の仕事を高度に重視し、政策や人材、資金、技術などの面でのサポートに大いに力を入れた。それによって、チベットの文化財管理機構はちくじ完備され、文化財を保護する力はたえず拡大し、文化財保護システムはますます整備され、文化財の研究、保護の能力はたえず向上している。チベット自治区は『文物保護条例』や『寺廟文物管理暫定条例』、『文物単位消防安全管理弁法』、『散逸文物管理暫定規定』、『ポタラ宮保護管理弁法』など十数の法規を公布し、文化財保護の仕事を法制化・規範化の軌道に乗せるようになった。

国はチベットで文化財の全面的調査を前後して2回行い(現在は第3回文化財全面調査を展開中)、さらに青海・チベット鉄道のチベット区間沿線の文化財に対し詳細な調査を行い、さまざまな文化財・旧跡と遺跡の分布や数量、現在の状況をかなり全面的に把握した。危険な状態にある文化財・旧跡に対し緊急的発掘や整理、修繕を行い、2万件以上の散逸していた文化財を博物館に収蔵した。2006年末現在、チベットの登録済みのさまざまな文化財保護スポットは2330カ所以上あり、各クラスの文化財保護指定を受けているものは239カ所となった。そのうち、全国重点文化財保護指定を受けているものは35カ所、自治区クラス文化財保護指定を受けているものは112カ所、市(県)クラス文化財保護指定を受けているものは182カ所である。ポタラ宮は世界文化遺産に登録され、大昭寺(ジョカン寺)、羅布林卡(ノルブリンカ)はポタラ宮歴史地区として世界文化遺産に追加登録されている。ラサ市、日喀則(シガツェ)市、江孜(ギャンツェ)鎮は全国歴史文化都市に指定されている。自治区内の博物館が所蔵する文化財は数十万件に達し、そのうち国家クラスの文化財が1万件以上に達する。

20世紀80年代以来、国はチベットの重要な文化財・旧跡の保護・修繕のために巨額の資金を投下し、多くの重点文化財保護指定を受けているものに修繕を施したうえ、再開放させた。中でも80~90年代に中央人民政府は3億元余りを拠出してチベットの1400以上の寺院を修復して再開させ、昌都の卡若(カルォ)、ラサの曲貢(チュゴン)、山南(ロカ)の昌果溝(チャングォゴウ)などの新石器時代の遺跡に対し考古学的発掘を行い、チベット史前史時代の考古学の空白を埋めることになった。また扎什倫布寺(タシルンポ寺)、薩迦寺(サキャ寺)、桑耶寺(サムイェー寺)、大昭寺(ジョカン寺)、強巴林寺(チャンパリン・ゴンパ)、夏魯寺(シャル寺)、江孜宗山(ギャンツェゾン)の抗英(イギリスに抵抗したときの)遺跡、羅布林卡(ノルブリンカ)、白居寺(パンコル・チョエデ)などの古代建築物や遺跡を重点に保護・修繕した。特に1989年から1994年まで、国は5500万元と大量の金や銀など貴金属を拠出してポタラ宮の大がかりな修繕を実施した。また、2001年にポタラ宮、羅布林卡(ノルブリンカ)、薩迦寺(サキャ寺)の三大文化財の修繕のために3億3000万元の特別支出金を計上した。さらに2006~2010年には、チベットの22カ所の重点文化財保護指定を受けているものを修繕するため再び5億7000万元を振り向けることに決定した。このような膨大な資金投下や大がかりな修繕は中国文化財保護史上においてもかつてないことである。ここ数年来、中国チベット文化保護発展協会などの非政府組織(NGO)が相次いで設立され、チベット文化の保護・発展において積極的な役割を果たしている。

無形文化遺産はちゃんと保護・伝承され、発展をとげている。20世紀70年代以来、チベット自治区と各地区・市は民族文化遺産の救出・整理・研究に携わる専門機構を設置し、自治区の民間文化芸術遺産に対し全面的調査を行い、民間の芝居や舞踊、音楽、寄席、歌謡、ことわざ、物語などの文学・芸術の資料を収集して整理・研究し、3000万字以上のチベット語・漢語資料を記録、整理し、チベット族の伝統文化に関する学術論文を1000篇以上発表し、文芸研究に関する著作を30点以上出版発行した。2003年以来、中央人民政府とチベット自治区人民政府は無形文化遺産保護プロジェクトを実施してきた。チベット自治区と各地区・市の政府は無形文化遺産保護の仕事の指導グループと専門機構を設置し、自治区内の無形文化遺産の状況に対しより広く、より深い全面的調査を行い、伝承が途切れるおそれがある遺産をちゃんと保護した。自治区指定の民間芸術郷(県または自治県の下の行政組織)が19あり、120項目が自治区クラス無形文化遺産リストに登録され、61項目が国家クラス無形文化遺産リストに登録され、31人が国家クラス無形文化遺産プロジェクトの代表的伝承者に選ばれた。大量のチベット語の文献・典籍は遅滞なく救出された。また、『中国戯曲誌』、『中国民間歌謡集成』、『民族民間舞踊集成』、『ことわざ集成』、『演芸集成』、『民族民間歌曲集成』、『戯曲音楽集成』、『民間物語集成』など十大文芸集成誌のチベット巻を編集、出版し、文字記載が乏しかったチベット文化芸術史に終止符を打ち、多くの重要な文化遺産をすみやかに救出し、ちゃんと保護した。歌と語りで伝承されてきた長編英雄叙事詩の『格薩爾(ゲサル)王伝』は、長期にわたり師弟間だけで伝授されていた。国は『格薩爾王伝』の収集・整理・出版を重点科学研究項目として専門機構を設置し、特別予算を組み、すでに芸能者の歌と語りによるテープ5000時間分を収録し、書籍300点以上を収集し、チベット語版120、モンゴル語版25、漢訳本20以上、学術著書20点を整理、出版し、また一部分は英語版や日本語版、フランス語版などに翻訳出版された。

チベットの文芸創作は史上最もよい発展期に入っている。チベット族の伝統芸術は現代芸術と結びつきながらたえず革新され、発展をとげている。チベットの平和解放後、文芸活動に携わる各民族の芸能者は実生活に溶け込み、すぐれた民族文芸の伝統を掘り起こし、受け継ぎ、詩歌や小説、歌と踊り、音楽、絵画、映画、写真など多くの作品を創作し、チベット芸術のジャンルをたえず豊かにし、文芸形式を充実させ、芸術レベルを引き上げてきた。ここ数年来、伴奏つきの大型舞踊『珠穆朗瑪(チョモランマ)』や大型の歌と踊り『金色の歳月』、『多彩哈達(ハタ:敬意を表す長い白色の絹織物)』、『天上西蔵』(世界の屋根チベット)、『和諧頌』、新劇『穿越巓峰(最高峰を越えて)』、新しいチベット劇『朶雄の春』、京劇とチベット劇を融合させた新しい時代劇『文成公主』など盛りだくさんの文芸作品が相次いでお目見えした。こられの作品は斬新な題材を取り上げたもので、鮮明な民族の特色があり、時代の息吹きを感じさせ、チベット芸術全体のレベルを向上させ、各民族の人びとの文化的生活に活気をもたらし、充実させた。そのうち、『文成公主』は「国家舞台芸術優秀作品プロジェクト」の十大優秀演目に選ばれた。またここ5年来、自治区直属の3つのプロ文芸団体が34演目、7つの地区・市のプロ文芸団体が300以上の演目(番組)を新たに創作し、延べ3000回以上の公演を行い、観客は500万人以上に達した。40以上の国家クラスの賞を受賞し、270以上の自治区賞を受賞している。チベット文化の対外交流が盛んに行われている。ここ30年来、チベットの360の文化芸術団(グループ)が国外に派遣され、アメリカ、カナダ、ロシアなど50余カ国・地域を訪れ、その訪問人数は延べ4320人に達した。一方チベットは30余カ国・地域からの200人以上の芸術家を受け入れて公演、交流を行った。

旧チベットには一般の人びとに向けての文化施設はなかったが、今のチベットには公共文化施設ネットワークがかなりそろっている。チベットはスケールの大きな現代図書館12カ所、博物館2カ所、多目的大衆芸術館6カ所、県クラス総合文化活動センター37カ所、文化情報資源共有プロジェクト衛星ステーション22カ所、郷クラス文化ステーション175カ所、村クラス文化室550カ所以上を有している。文化産業は急速に発展している。チベットには文化・レジャー娯楽施設が2596カ所、従業員が1万8350人、さまざまな文化旅行会社や芸術広告デザイン会社、画廊、リゾート村、レジャー林卡(庭園の意味)などが3000以上ある。これらの公共文化施設の整備と文化産業の発展は、大衆の文化的生活を充実させ、チベット文化を発揚するうえでますます重要な役割を果たしている。

チベット医薬事業が急速な発展をとげている。チベット医薬はチベット族の貴重な伝統文化である。しかし旧チベットには、ラサの「門孜康」(蔵医星算学院)、「薬王山医学利衆院」および日喀則(シガツェ)の「仙人聚集堂」の3つの小さな規模の官営の医療機構しかなく、医療従業者は百人足らずであった。主に高官や貴族、上層の僧侶のためのものであり、広範な勤労大衆は病気になっても治療を受けることができなかった。民主改革以後、国はチベット医薬事業を発展させ、人民の健康を守るために巨額の資金を投下した。2007年末現在、チベットにはチベット医学病院が18カ所あり、すべての県にチベット医学科などの医療機構が設置されている。現在、チベットにはチベット医学病院のベッド650床、チベット医学医療機構の従業者1484人、村と民間のチベット医学医師678人を有している。2007年、自治区のチベット医学による診療を受けた患者は延べ48万9000人に達し、そのうち延べ7340人の患者が入院して治療を受けた。チベット薬の生産は手工業的作業から現代的工業化の大量生産へと移行し、その製造プロセスは標準化、規範化、規模化、科学的管理の軌道に乗っている。チベット薬生産企業は18社あり、360種類以上のチベット薬を生産している。すべてのチベット薬の品種は国家基本医療保険薬品リストに収録されている。2007年のチベット薬の生産額は6億6000万元、売上高は4億5000万元に達した。一部のチベット薬は全国各地や国外に出荷されている。

チベット医薬の科学研究と教学活動には大きな成果が見られた。チベット自治区チベット医薬研究院と各クラスのチベット医学機構はチベット医薬関連の科学研究を積極的に行い、『中国医学百科全書・チベット巻』や『蔵伝天文暦算大全』、『甘露本草明鏡』、『四部医典』(チベット語・漢語版)、『四部医典八十幅彩色唐卡(タンカ)掛図シリーズ全集』、『晶鏡本草』、『蔵医診断学』、『蔵薬方剤大全』などかなり高い学術的価値をもつ著作を収集・整理・編集・出版した。1989年のチベット自治区チベット医学院の設立は、伝統的チベット医薬の教育・教学モデルをちくじ現代的高等医学教育の軌道に乗せることになった。2007年現在、同医学院は合わせてチベット医薬専攻の大学・専門学校卒業生を1200人以上、修士・博士を56人育成した。現在の在校生は1194人で、そのうち修士が54人いる。チベット医薬学という伝統的民族医薬学はめざましい発展をとげ、チベットの人たちの健康レベルを高め、人類に幸福をもたらすために重要な役割を発揮している。