チベット文化の保護と発展

一、チベット語・文字の学習・使用とその発展


チベット語・文字は漢・チベット語系に属し、千百年来、チベットの人たちの重要な交流手段であり、チベット文化の重要なシンボルと文化伝達の手段でもあり、中華民族の多元的な言語文化の中で独特の地位を占めてきた。半世紀余にわたり、中国政府はチベット人民がチベット語・文字を学習・使用する権利の保障を高度に重視し、チベット語・文字の学習、使用と発展を進める面で多大な努力を払い、重要な進展をとげた。

チベット語・文字の学習・使用は法律で保障されている。『中華人民共和国憲法』と『民族区域自治法』は、少数民族が自民族の言語・文字を使用し発展させる自由を保障すると規定している。チベット自治区は前後して1987年と1988年に『チベット自治区のチベット語・文字の学習・使用と発展についての若干の規定(試行)』と『チベット自治区のチベット語・文字の学習・使用と発展についての若干の規定(試行)の実施細則』を公布、実施し、チベットではチベット語・文字と漢語・漢字をともに重視するが、チベット語・文字を主とすることを明確に規定した。2002年にチベット自治区は従来より試行されてきた関連規定を『チベット自治区のチベット語・文字の学習・使用と発展についての規定』に改正し、チベット語・文字の学習・使用と発展に確固たる法律的保障を提供した。この仕事の展開をはかるため、1988年にチベット自治区チベット語・文字指導委員会が設置され、現在ではチベット自治区チベット語・文字委員会と改称され、各地区(市)、県にチベット語・文字の編集・翻訳機構が相次いで設置されている。現在、チベットではチベット語・文字の翻訳機構が100カ所以上あり、さまざまな翻訳やチベット語・文字関係の仕事に従事する専門家の数は約1000人に達している。

チベット語・文字の学習と伝承は幅広く行われている。旧チベットでは、チベット語・文字を学習する特権を有していたのは貴族の上層部と少数の僧侶で、総人口の95%以上の農奴と奴隷にはまったくその権利はなかった。中央人民政府はチベットの平和解放の日からチベット語・文字の学習と普及を十分に重視し、チベット入りする人員がチベット語・文字を学習・使用・普及させることについて明確な要求を出した。また20世紀50年代に前後して昌都(チャムド)、拉薩(ラサ)、日喀則(シガツェ)などでチベット語・文字の短期訓練班、青年訓練養成班、社会教育クラス、農業技術訓練クラス、財務会計訓練養成クラス、映画技術訓練クラスなどを開設し、各民族の人びとがチベット語・文字と科学技術を学習することを積極的に奨励し、サポートし、組織した。チベット自治区成立後、各種、各クラスの学校がチベット語・文字の学習・使用を重視し、チベット語・文字の教学に力を入れることが明確に規定された。チベットの教育体系はチベット語・文字の授業を主とするバイリンガル教育体系を全面的に推し進めている。現在、すべての農業・牧畜区と一部の都市小学校はチベット語と漢語で授業しているが、主要課程についてはチベット語で行っている。中学・高校でもチベット語と漢語で授業を行い、中国のその他の地方のチベット中学・高校でもチベット語・文字の授業を開設している。大学と中等専門学校の入学試験では、チベット語・文字が試験科目とされ、その成績が総得点に加算される。現在、チベットではバイリンガルの教師が1万5523人もおり、各種、各クラスの学校のチベット語専任教師が1万927人もいる。チベット自治区では小学校から高校までの計16科目の教科書が181種類、教学参考書が122種類、教学大綱(教科書の内容や教え方を定めたもの)が16種類あり、チベット語・文字はこれまでになくチベットのすべての学校で普及している。

チベット語・文字はチベットで幅広く使われている。チベット自治区成立以来、各クラスの人民代表大会が採択した決議と法規、チベットの各クラス人民政府およびその所属部門が下達した公式文書と公布した公告については、すべてチベット文字と漢字の両方が使われている。司法訴訟手続では、チベット族の訴訟参与者に対しチベット語・文字で案件を審理し、法律文書もチベット文字を使っている。政府機関・企業・事業体の公印や証明書、図表、封筒、便箋、原稿用紙、標識および機関、工場・鉱山、学校、駅、空港、商店、ホテル、レストラン、劇場、観光地、スタジアム・体育館、図書館などのマーク、町の標識、道路標識などは、すべてチベット文字と漢字が併記されている。

チベット人民放送局は1959年の設立以来、一貫してチベット語放送に努めることを重点に置き、合わせて42のチベット語(康巴<カンパ>語を含む)番組を制作・放送し、チベット語のニュースを毎日21時間放送し、康巴語は毎日18時間放送している。年間のチベット語への吹き替え番組は1996年の1200時間から2007年の9235時間に増えた。チベットテレビ局チベット語衛星テレビチャンネルは1999年にオンエアを始め、毎日多くのチベット語の特別番組とチベット語に吹き替えた映画・ドラマをオンエアしている。現在チベット語のテレビ番組は21あり、チベットの各民族の人たちに喜ばれている。2007年10月1日から、チベット語の衛星テレビは24時間連続オンエアを実現した。2007年にチベットテレビ局のチベット語吹き替え映画・ドラマは500時間(639回)、吹き替え映画のプリントフィルムは564、吹き替え番組は35に達した。毎年少なくとも25本のチベット語に新しく吹き替えた映画が農業・牧畜区で末端の人びとに向けて放映され、広大な農業・牧畜区では映画セリフのチベット語化が実現した。

チベット語の図書・新聞・雑誌は急速に増加した。全国では中国蔵学出版社、民族出版社、西蔵人民出版社、西蔵古籍出版社などの9社が毎年千種類以上のチベット語の図書を出版している。また専門家の整理を経て多くの古代のチベット語秘本や1冊しかない稀覯本が出版されている。現在、チベットではチベット語の雑誌が14種類、チベット語の新聞が10種類もある。全国で発行しているチベット語版雑誌は20種類以上に達している。『西蔵日報』紙チベット語版は2002年7月から毎週紙面を28面から36面に増やし、1日の発行部数は2万5000部に上っている。『西蔵科技報』紙(チベット科学技術報紙)、『西蔵科技信息報』(チベット科学技術情報報紙)、『致富之友』(富裕化のための友)などのチベット語の新聞・雑誌は、多くの農民、牧畜民が科学技術知識を学び、豊かになる経験と方法を身につけるうえで欠かせない読み物となっている。

現在、チベット自治区では4000余人の文学・芸術活動家がおり、そのうちチベット族の人たちが90%以上を占めている。プロの芸術団体10、少年児童芸術団体4、民間芸術団18、農村のアマチュア文芸隊は500以上、チベット劇団は160ある。これらの文芸団体はよく農業・牧畜区に入り、チベット語で創作し、チベット語で公演し、人びとに喜ばれている。

チベット語・文字は全面的に発展している。1984年に漢字・英語と互換可能なチベット文字処理システムが開発され、チベット文字の精密な写植が完成した。チベット文字エンコードの国際標準は1997年に国際標準化機構(ISO)に採択され、中国の少数民族文字の中で最初に国際標準を取得した。現在、チベットではすでに機械的自動処理のチベット語文法枠組と文法システムが完成しており、現在チベット語テキストの機械による自動分割とチャンク解析に取り組んでいる。機械翻訳用のチベット語・漢語のバイリンガル大辞典(12万単語)も完成し、チベット語、漢語、英語の機械翻訳に必要なチベット語文法属性の電子辞典と大規模なチベット語の確実なテキストデータが作られた。それらは情報化時代におけるチベット文化の伝承・伝播・発揚のための確固たる基礎を打ち固めた。

コンピュータ技術の使用とインターネットの普及はチベット語・文字の学習・使用と発展のために新しい基盤を構築した。中国が自主開発した先進的なチベット文字編集システム、レーザー写植システム、電子出版システムはチベットの報道・出版分野で幅広く利用されている。インターネットや携帯でチベット語の内外の情報を読み、受信、視聴することにより、チベット族の人たちの情報に対するニーズを満たしている。郵便・電信業務分野でもチベット語・文字を幅広く使用し、チベット語による電報・呼び出し電話・ショートメールなどのサービスを提供している。チベット語のファイル識別システムが実用化されたことにより、チベット文字のデジタル化に応用されるチベット文字識別の序幕が開かれることになった。

チベット語・文字の規範化・標準化事業は大きな進展をとげている。2005年に『新語・専門用語の翻訳と借用語の使用についての規則』の原則を審議、制定し、市場経済や小中学校教育などに関するチベット語の専門用語を3500以上審査決定の上、統一し、科学技術用語を約6万審査決定し、コンピュータ・インターフェース専門用語8000以上を認定した。なが年来、各クラスの出版社は相次ぎ『格西曲扎(ゲシェチュジャ)蔵文辞典』や『蔵文大辞典』、『蔵漢口語詞典』、『漢蔵対照詞彙』、『蔵漢詞彙』、『蔵漢詞典』、『市場経済蔵漢文対照詞典』、『蔵漢対照法律詞典』など多くの辞書を出版した。現在すでに『チベット語標準語方案の制定』の起草作業と『チベット族人名の漢字音訳転写規範マニュアル』のデータ収集・整理の作業を完了している。