中国の気候変動政策と行動

二、気候変動の中国に対する影響


中国は気候変動のマイナス影響を最も受けやすい国であり、その影響は主として農牧業、森林と自然生態系、水資源、海岸地帯などに及ぶ。

農牧業に対する影響

気候変動が農牧業生産に与えるマイナス影響は次の5点に反映されている。①農業生産の不安定性が増大。②一部の地域で干ばつ・高温による被害が深刻化。③気候温暖化により農作物の発育期間が繰り上げられたため早春の冷害が拡大。④草原の生産量と質がやや低下。⑤気象災害が農牧業にもたらす損失が増大。

将来、気候変動が農牧業に与えるマイナスの影響は大きい。小麦、水稲、トウモロコシの三大作物が減産する可能性が大きい。農業生産の分布と構造に変化が起こり、土壌の有機質の分解が速まり、農作物の病虫害の発生範囲が拡大する可能性があり、草地の潜在的砂漠化の傾向が拡大し、自然的要素による火災の発生頻度が高まる傾向にあり、家禽・家畜の生産性と繁殖能力に影響を与える可能性があり、家禽・家畜の発病率が高くなっている。

森林とその他自然生態系に対する影響

気候変動が森林および生態系にもたらした影響は主に次の5点にまとめられる。①東部の亜熱帯、温帯の北限が北へ移動し、生物季節現象が早めに起こっている。②一部地域の林帯の下限高度が上昇。③山地凍土の下限海抜が上昇し、凍土の面積が減少。④全国的に動植物の病虫害の発生頻度が上昇し、またその分布が著しく変化。⑤西北地域の氷河面積が減少し、全面的な衰退傾向を見せ、氷河と積雪の溶解が加速し、オアシス生態系に脅威を与えている。

将来気候変動によって、生態系の脆弱性がさらに著しくなる。つまり主要な造林樹種と一部の希少樹種の分布域が縮小し、森林病虫害の発生範囲が拡大し、森林火災の発生頻度と被害面積が増加し、内陸の湖がさらに縮小し、湿地資源が減少しその機能が退化し、氷河と凍土面積の縮小が加速し、青蔵(青海・チベット)高原の生態系の永久凍土空間分布が大きく変化し、生物の多様性が減少する。

水資源に対する影響

気候変動によって中国の水資源分布が変化している。約20年来、北方の黄河、淮河、海河、遼河の水資源総量は著しく減少し、南方の河川の水資源総量はいくらか増えている。洪水・冠水災害がいっそう頻繁に発生し、干ばつ災害が深刻化し、極端な気象現象が著しく増加した。

将来の気候変動は中国の水資源の時間的、空間的な分布にかなり大きな影響を及ぼし、水資源の年間変化と経年変化を大きくし、洪水・冠水と干ばつなど極端な自然災害の発生確率を増加させると見込まれる。特に気候温暖化は西部地域の氷河溶解を加速化させ、氷河面積と氷の貯蔵量をいっそう減少させ、氷河の溶解水を主な水源とする河川の表流水にかなり大きな影響を与える。気候温暖化は北方地域の干ばつ化の傾向を拡大し、水資源の不足を悪化させ、水資源の需給矛盾を拡大する可能性がある。

海岸帯に対する影響

約30年来、中国の海水面の上昇傾向が続いている。海水面の上昇は海水の侵入、土壌の塩害、海岸の浸食を引き起こし、海浜湿地、マングローブ、サンゴ礁など典型的な生態系に危害を及ぼし、海岸帯の生態系のサービス機能と海岸地域の生物の多様性を低下させた。気候変動に伴う海水温上昇と海水の酸化により、一部の海域は酸素不足になり、海洋漁業資源と絶滅の危機に瀕する希少生物資源が衰退している。

予測によると、将来中国の沿海の海水面は引き続き上昇する。海水面上昇によって沿海都市の行政が管理する排水システムの排水能力が低下し、港の機能が弱体化する。

社会経済および他の分野に対する影響

気候変動は社会経済および他の分野にも深刻な影響を及ぼし、国民経済に巨大な損失をもたらす。気候変動に対応するには、相応の経済コストと社会コストが必要である。気候変動は疾病の発生・伝播の可能性を大きくし、人の健康に危害を及ぼし、地質災害と気象災害の発生確率を増加させ、重要なプロジェクトの安全性に脅威を与え、自然保護区と国家公園の生態環境と種の多様性に影響し、自然と人文の観光資源に影響し、公衆の生命と財産に対する脅威を増大させ、社会の正常な生活秩序と安定に影響する。