中国の気候変動政策と行動

三、気候変動に対応する戦略と目標


気候変動に対応するための中国の指導方針は次の通りである。科学的発展観を全面的に貫き実行に移し、資源節約と環境保全という基本的国策を堅持し、温室効果ガス排出の抑制、持続可能な発展能力の増強を目標とし、経済成長の確保を中心とし、経済発展モデルの転換を加速し、省エネ、エネルギー構造の最適化、生態環境の保護・整備の強化を重点に置き、科学技術進歩を支柱とし、国際協力を増進し、気候変動対応能力をたえず高め、世界の気候を保護するための新たな貢献を行う。

中国は気候変動に対応するため、次の原則を堅持している。

――持続可能な発展の枠組みのもとで気候変動に対応する。その理由は気候変動が発展の中で生まれるものであるため、発展過程で解決しなければならないからである。気候変動に対応する過程で持続可能な発展を促し、経済発展と気候変動対応のウィンウィンを実現するよう努力する。

――「共通だが差異のある責任」の原則。これは『気候条約』の中核となる原則である。先進国にせよ発展途上国にせよ気候変動の軽減と適応に関する対策を実施する責任を有するが、各国の歴史的責任、発展レベル、発展段階、能力、貢献方法が異なるため、先進国はその歴史的な累計排出量と当面の1人当たりの排出量の高さに責任を負い、率先して排出を削減し、それと同時に、発展途上国に資金を供与し、技術を移転する。発展途上国は経済発展と貧困撲滅の過程で、積極的な適応と軽減に関する対策を実施し、排出をできる限り少なくし、共同で気候変動に対応するために貢献を果たす。

――軽減と適応をともに重視する。気候変動を軽減しそれに適応することは気候変動対応の2つの有機的構成部分である。軽減は相対的に長期的かつ困難な任務であるのに対して、適応はより現実的で切迫することで、発展途上国にとってきわめて重要である。軽減と適応を統一的に計画し、協調させ、同等に重視しなければならない。

――条約と議定書は気候変動に対応するための主要ルートである。『気候条約』と『京都議定書』は気候変動に対応するための国際協力の法律的基盤を築き、国際社会の共通認識を示した、現在最も権威のある、普遍的かつ全面的な気候変動対応の国際的な枠組みである。気候変動対応において、『気候条約』と『京都議定書』の中核的メカニズムと主要ルートとしての地位を確固として守るべきである。そのほかの多国間協力や二国間協力はすべて『気候条約』と『京都議定書』の補充、補助となるべきである。

――科学技術革新と技術移転に頼る。気候変動対応には技術が必要であり、技術革新と技術移転が気候変動対応の基盤と支柱である。先進国は自国の開発を進め先進技術を応用すると同時に、技術の国際協力と国際移転を推進し、発展途上国に資金を供与し技術を移転する承諾を着実に履行し、発展途上国が必要な資金を獲得し、気候にやさしい技術を使用でき、気候変動に対する軽減能力と適応能力を向上できるようにする義務がある。

――全国民の参加と幅広い国際協力。気候変動に対応するには旧来の生産方式と消費方式の転換が必要であり、社会全体の幅広い参加が必要である。中国は資源節約型で環境にやさしい社会の構築に努め、政府が導き、企業が参加し、大衆が自発的に行動する社会の雰囲気を作り出し、企業の社会的責任感と大衆のグローバルな環境意識を増強させる。気候変動は世界が直面する挑戦であり、世界の幅広い協力と共同努力を通じてこそ解決することができる。中国はこれまでどおり気候変動対応にプラスになるすべての国際協力を積極的に展開し、それに参加する。

2007年6月に中国政府は『気候変動対策国家方案』を公布し、2010年までの中国の気候変動対応の全般的目標を提起した。その内容は、温室効果ガスの排出抑制策と抑制措置が明らかに成果を上げ、気候変動への適応能力をたえず増強させ、気候変動関連の研究レベルをたえず向上させ、気候変動に関する科学研究が新たな進展を見せ、国民の気候変動に対する意識を大きく高め、気候変動対応の分野のシステム・メカニズムをいっそう強化する、というものである。

温室効果ガスの排出抑制

――経済発展パターン転換を加速し、省エネと高効率利用に関する政策の導きを強化し、法に基づき省エネ管理を実施することに力を入れ、省エネ技術の開発・デモンストレーション・普及を速め、市場を基礎とする新しい省エネメカニズムを十分に発揮させ、社会全体の省エネ意識を向上させ、資源節約型社会の構築を加速することによって、温室効果ガス排出の軽減に努める。2010年までに単位GDP(国内総生産)当たりのエネルギー消費を2005年より約20%削減し、それに応じて二酸化炭素の排出を低減させる。

――再生可能エネルギーを大いに発展させ、原子力発電所の建設を積極的に推進し、石炭層ガスを開発・利用するなどの措置を通じて、エネルギー消費構造を最適化する。2010年までに、再生可能エネルギーの開発・利用の総量(大型水力発電を含む)の一次エネルギー消費構造に占めるウェイトを約10%に引き上げ、石炭層ガスの抽出・採掘量を100億立方メートルに到達させるようにする。

――冶金、建材、化学工業などの産業政策を強化し、循環経済を発展させ、資源利用率を高め、亜酸化窒素排出対策などの措置を実施することによって、工業生産過程における温室効果ガスの排出を抑制する。2010年までに工業生産過程で排出される亜酸化窒素を2005年レベルに抑えるように努める。

――低排出の高生産性水稲品種と半乾性栽培技術の普及を引き続き推し進め、科学的灌漑技術とカスタマイズした施肥法(測土配方施肥)を採用し、反芻動物の優良品種の育成技術と規模化する飼育管理技術の研究開発などの措置を通じて、動物の糞便、廃水、固形廃棄物に対する管理を強化し、メタンガスの利用を促進し、メタンの排出抑制に力を入れる。

――植樹造林、退耕還林還草(耕地を森林や草地に戻すこと)、天然林資源の保護、農地の基盤整備などの重点プロジェクトと政策・措置を引き続き実施することによって、2010年までに森林カバー率を20%に引き上げ、森林の年間二酸化炭素固定量(吸収量)を2005年より約5000万トン増やすよう力を入れる。

気候変動適応能力を増強

――さまざまな災害のモニタリング・警報・緊急対応メカニズム、多くの部門が参加する政策決定の協調メカニズム、社会全体が幅広く参加する行動メカニズムの完備を通じて、極端な気象災害のモニタリング予報能力の整備を強化する。2010年までに経済社会に対して基礎的、全局的、キーポイント的な役割を備えたいくつかの気象災害防御プロジェクトを完成し、極端な気象災害に対応する総合的なモニタリング・警報能力、防御能力、減災能力を高める。

――農地の基盤整備の強化、栽培制度の調整、抵抗力の強い品種の選択・育成、バイオテクノロジーの開発などの適応措置を通じて、2010年までに新規改良草地を2400万ヘクタール増やし、退化、砂漠化、アルカリ化した草地5200万ヘクタールを整備し、農業灌漑用水の有効利用係数を0.5まで引き上げるよう努める。

――天然林資源の保護と自然保護区の監督管理を強化し、生態保護重点プロジェクトの建設を引き続き展開し、重要生態機能区を設置し、自然生態の回復を早めるなどの措置を通じて、2010年までに約90%の典型的森林生態系と国家重点野生動植物を効果的に保護し、自然保護区の面積が国土総面積に占めるウェイトを約16%に高め、水土流失した土地の整備面積25万平方キロ、生態修復面積30万平方キロ、砂漠化した土地の整備面積2200万ヘクタールの達成に努める。

――水資源を合理的に開発し、その配置を最適化し、農地水利基盤整備の新メカニズムを完備し、節水と水文モニタリングを強化するなどの措置を通じて、2010年までに水資源系統の気候変動に対する脆弱性を低減させ、節水型社会の構築において実質的な一歩を踏み出し、大型河川における総合的な洪水・冠水の予防、除去、減災システムを基本的に確立し、農地の干ばつに対する抵抗力の基準を全面的に引き上げる。

――海水面の変化の趨勢に対する科学的モニタリング、海洋と海岸帯の生態系に対する監督管理を強化し、海岸線を合理的に利用し、海辺の湿地を保護し、沿海防護林体系を確立し、マングローブの保護・回復をたえず強化するなどの措置を通じて、2010年までにマングローブ区を全面的に回復し、沿海地域の海洋災害防御能力を向上させるよう力を入れる。

科学研究と技術開発を強化

――気候変動分野の基礎研究を強化し、分析方法をさらに開発し完備し、関連する専門家や管理者を養成するなどの措置を通じて、2010年までに気候変動研究の一部領域を世界の先進レベルに到達させ、気候変動対応の戦略や政策を効果的に制定し、気候変動対応における国際協力に積極的に参加するために科学的な根拠を提供するよう努める。

――自主革新能力を向上させ、国際協力と技術移転を積極的に推進するなどの措置を通じて、2010年までにエネルギー開発、省エネ、クリーンエネルギー技術などの面でかなり大きな進展をとげ、先端技術の産業化のテンポを速め、農業や水利、林業などの部門の気候変動に適応する技術レベルを高め、気候変動に効果的に対応するために科学技術面で充実したサポートを提供するよう努める。

大衆意識と管理レベルの向上

――現代的な情報伝播技術・手段を利用し、気候変動に関する広報、教育および訓練に取り組み、大衆の参加を励ますなどの措置を通じて、2010年までに社会全体に気候変動に関する基本知識を普及させると同時に、全国民の気候保護意識を向上させ、気候変動に効果的に対応するために良好な社会的雰囲気を作るよう努力する。

――多くの部門が参与する政策決定の協調メカニズムを整備し、企業や大衆が気候変動対応活動に幅広く参加する行動メカニズムを確立するなどの措置を通じて、気候変動対応活動にふさわしく、効率のよい組織機構と管理システムをじょじょに確立するよう努力する。