中国が対外開放政策を実行して以来、対外貿易を発展させ、対外経済協力と技術交流を展開させ、外資を吸収し、技術を導入するために、一部の地区、あるいは一部の地区に一定の区域を定めて、特別な政策を実行している。これらの地区あるいは区域は経済特別区と呼ばれる。
経済特別区の立法は二つの意味から理解することができる。
(1) その性格的意義から見て性質上の経済特別区の立法は、80年代以来、中国の関係地方に現れた経済特別区の関係のある政府機構が、全国人民代表大会あるいはその常務委員会から特別の授権を得て、効力が経済特別区の範囲を超えない規範的な法律を制定する地方立法のことを指す。
(2) 地理上の意味での経済特別区の立法は、経済特別区にあるすべての地方立法の総称を指す。このような経済特別区の立法は、性格的意義からの経済特別区の立法を含む以外、さらに憲法や憲法の性格を持つ法律の規定によって、地方的な法規と地方政府の規則を制定できる地方政府機関が、地方的法規と行政規則を制定することも含む。広東省、福建省、海南省とそれぞれの省都は、性格的意義上の経済特別区の立法権もあれば、地方的法規と地方政府の規則を制定する権限もある。本章以下に述べるのは前者の経済特別区立法で、これは中国の地方立法のいま一つの特別な形態である。
経済特別区の立法は、普通の地方、民族自治地方およびその他の地方の立法の主な相違点は次のとおりである。
(1) 立法権の授権機構が異なる。経済特別区の立法権は最高国家権力機関あるいはその常設機関によって授権される。普通の地方と民族自治地方の立法権は憲法、地方の組織法、立法法と『民族区域自治法』の規定によって授権される。
(2) 立法の効力のグレードと調整の範囲が異なる。経済特別区の立法権が普通の地方の立法権および民族自治地方の立法権の授権機構とは異なるので、経済特別区の立法の効力のグレードと調整の範囲も、普通の地方の立法と民族自治地方の立法と異なっている。一般的に言えば、経済特別区の地方立法の効力のグレードと調整の範囲は全般的に、普通の地方立法と民族自治地方の立法のような明確性を持ってはいない。経済特別区の立法によって生まれる規範的な法律文書はその性格から言えば、その効力のグレードは普通授権主体そのものが制定する規範的な法律文書より低く、普通の地方および権限を受ける主体と同じレベルの政府機関が制定する普通の規範的な法律文書より高いものである。経済特別区立法の範囲は、授権主体から授与される権限に限られているが、権限を授かる機関の職務範囲を超えてもよく、あるいは超えるべきである。それに対して、普通の地方立法と民族自治地方立法が調整する範囲は、憲法、憲法の性格をもつ法律、特に立法法が規定する事項の範囲あるいはこれらの地方の立法主体の職務範囲に制限されている。
(3) 普通の地方立法と比べると、経済特別区の地方立法ははっきりと破格的性格と先行的性格を持つと同時に、一定の試行性を持つ場合もある。
(4) 立法の段取りと任務の面では、経済特別区の立法は常に特殊性と不確定性を持ち、時間や空間(事項)などの面でさまざまな制限を受ける。普通の地方立法の任務と段取りは一般的、通常的、確定的で、その自主性もやや大きい。例えば、地方的な法規は全人大の常務委員会の批准を得る必要がなく、普通の地方立法の主体は自らの権限の範囲内で自主的に問題を解決することができる。
1980年以来、深せん、珠海、汕頭(スワトウ)、厦門と海南など五つの経済特別区が相次いで設置された。経済特別区の建設をスムーズに進め、特別区の経済管理が仕事の必要に応じ、しかも経済特別区の役割を充分果たすために、全人大は1981年11月に、『広東省と福建省の人民代表大会およびその常務委員会に、所属する経済特別区における単独執行の諸経済法則の制定権の授与に関する決議』を採択した。この二つの省の人民代表大会およびその常務委員会に権限を授与して、関係のある法律や法令、政策に規定された原則に基づいて、各省の経済特別区の具体的な状況と実際の必要にもとづいて、経済特別区における単独執行の諸経済法規を制定し、全国人民代表大会に報告して記録にとどめる。1988年4月、『海南経済特別区の設置に関する決議』が第7回全人大の第1回会議によって採択された。海南省の人民代表大会およびその常務委員会に権限を授与して、海南省経済特別区の具体的な情況と実際の必要にもとづいて、関係のある国家の法律や全人大およびその常務委員会の決定、国務院の行政法規の原則にもとづいて、法規を制定し、海南省経済特別区内で実施され、しかも全人大常務委員会と国務院の記録にとどめる。1992年7月、全人大常務委員会が『深せん市人民代表大会およびその常務委員会、深せん市人民政府にそれぞれ法規と規則を制定する権限を授与し、しかも深せん経済特別区内で実施する決定』を採択、1994年3月、第8回全人大第2次会議が『厦門市人民代表大会およびその常務委員会、厦門市人民政府にそれぞれ法規と規則を制定する権限を授与し、厦門経済特別区内で実施する決定』を採択、
1996年3月、第8回全人大第4回会議が『汕頭市と珠海市人民代表大会およびその常務委員会、人民政府にそれぞれ法規と規則を制定する権限を授与し、それぞれの経済特別区内で実施する決定』を採択した。これらの決定はそれぞれ深せん市、厦門市、汕頭市と珠海市人民代表大会およびその常務委員会に権限を授与して、具体的な情況と実際の必要に基づいて、憲法の規定および法律と行政法規の基本的原則にしたがって法規を制定し、深せん、厦門、汕頭と珠海の経済特別区で実施し、全人代常務委員会、国務院および所属する省レベルの人民代表大会の記録にとどめる。深せん市、厦門市、汕頭市と珠海市の人民政府に権限を授与して、規則を制定し、深せん、厦門、汕頭と珠海経済特別区によって実施する。
しかし、立法法が生まれる前に、立法を授権するいろいろな決定と決議があるにしても、経済特別区の立法授権に関する専門的な法律はなかった。立法法ができたことによって、経済特別区の立法授権に専門的な法律を与えられた。
経済特別区の立法権と立法範囲は、経済特別区の人民代表大会、人民代表大会の常務委員会と政府が国の立法機関の授権に関する規定にしたがって、経済特別区の実際の情況に結びつけ、国の立法機関の授権規定によって確立された立法任務を完成することを現わしている。
(1) 形式の面では、経済特別区の人民代表大会およびその常務委員会は経済特別区内で実施される法規を制定する権限を持っている。ここでいうところの法規は次のようなことを指す。一、広東省、福建省人民代表大会およびその常務委員会が、1981年11月に全人代常務委員会に採択された授権決定に基づいて、自らの省の経済特別区における単独執行の各経済法規を制定する権限がある。二、海南、深せん、珠海、汕頭、厦門などの省・市の人民代表大会およびその常務委員会が、1988年以来全人代あるいはその常務委員会が数回にわたって採択した授権決定に基づいて、自らの省・市の経済特別区内で実施される諸法規を制定する権限がある。
内容の面では、経済特別区の人民代表大会およびその常務委員会の立法権と立法範囲は三つの面に現われている。一、国の立法機関の関連授権規定に基づいて、もともと国の立法機関に属していた立法事項について立法を行い、これらの事項に焦点を合わせて経済特別区の法規を制定して経済特別区内で実施する。これは経済特別区の人民代表大会およびその常務委員会の授権にしたがって国の立法機関の一部の立法権を行使したことを示すものである。もちろん、このような立法権の行使には厳格で明確な制限がある。その内容は憲法の規定や法律と行政法規の基本原則に従わなければならず、憲法や法律の明確な規定によって、国の立法機関が法律を制定するはずの事項は、経済特別区内で実施される法規を制定してはならない。二、国の立法機関の関連授権規定に基づいて、経済特別区の具体的な情況および実際の需要と結びつけ、経済特別区の特殊な問題を解決する法規を制定する。三、経済特別区の具体的な情況と実際の需要に基づいて、授権の範囲内で実施の細則を制定して、憲法、法律、行政法規が同経済特別区内で効果的に貫徹、実施されることを保証する。経済特別区は特別な地域であるにもかかわらず、憲法や法律、行政法規を貫徹、実施することも依然として立法の重要な任務となっている。こうしたことをやりとげる際の任務と特徴は一般の地域と異なるものであってもよい。