japanese.china.org.cn |05. 03. 2024 |
「質の高い発展」と中国の新時代
文=ジャーナリスト・木村知義
「質の高い発展」、中国に関心を持っていらっしゃる皆さんは、最近、中国の指導者の言説で、あるいは中国から発表される文書などでこの言葉に頻繁に出会うことにお気付きだと思います。今月は「両会」、第14期全国人民代表大会(全人代)第2回会議と中国人民政治協商会議(全国政協)第14期全国委員会第2回会議が開かれますが、そこでも、多分この「質の高い発展」という言葉に出会うことになると思います(執筆時は両会開催前)。今号ではこの「質の高い発展」について考えてみます。
中国に出掛けるたびに、目まぐるしく中国は「変わって」いきました。街を歩いていると、行き交う車も人もなにもかも、まさにうなりをあげているような錯覚に陥るぐらい、時代の歯車がすさまじい勢いで回る音が聞こえるような気がしたものです。
成長、発展の中国は大きく様変わりして、当時のことを話しても若い世代の人たちにはなんのことやら想像もできないだろうと思う社会のたたずまいになっているというわけです。
時代はいま、さらに歩みを進めて新たな段階に入ったと感じます。それが「新時代の中国の特色ある社会主義」を目指す時代だということでしょう。つまり、歴史を大きく俯瞰して言えば、新中国を誕生させて人民民主主義から社会主義を目指そうとした毛沢東時代、その試行錯誤と曲折を経て、「貧しいことは社会主義ではない」として生産力の発展に全力を傾注する決意をして改革開放の道をまっしぐらに突き進んだ鄧小平時代。「絶対的貧困」を脱して「小康社会」へと歴史を進めた一方で、都市とりわけ沿海部と内陸、農村との地域格差や社会の階層における格差、さらには改革開放、経済成長の過程で生じた副作用と言うべき腐敗問題に直面して、社会の「ひずみ」を正していく過程を経ながら、「共同富裕」という新たな高みを目指す、そんな段階に踏み入れたと理解すると、今の中国がくっきりと見えてくるのではないかと思うのです。「質の高い発展」とは、こうした新たな歴史段階における重要な概念だという理解なのです。
「質の高い発展」は、2017年の中国共産党第19回全国代表大会における報告で「わが国の経済はすでに急速な成長の段階から質の高い発展の段階へと転換した」と指摘されたことに源を見ることができます。そして20年10月、中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)で、「わが国はすでに質の高い発展の段階へと転換した」と指摘されました。一見ささいな表現の違いに見えますが、3年の間に、「質の高い発展」は「わが国の経済」から「わが国」へと変わりました。つまり経済にとどまらず中国の全てを包括するものとして「質の高い発展」が語られることになったというわけです。
さらに、昨年秋、「新たな質の生産力」という新しい言葉を中国指導者が提起した。中国指導者が招集した「新時代の東北全面振興推進座談会」において、新エネルギー、新素材、先進製造、電子情報などの戦略的新興産業を積極的に育成し、未来産業を積極的に育成して、新たな質の生産力の形成を加速し、発展の新たな原動力を強化する必要性が強調されたと新華社が伝えました。
ここにも生産力を高めるためにひたすら注力してきた従来の「生産力」からさらに一段段階を登り、生産力の新たな高みを目指す時代に中国が立ち至ったことが見て取れます。つまり、「質の高い発展」を支えていく「新たな質の生産力」を開き、構築していくことで、新時代における中国の特色ある社会主義を力強くけん引する動力としていくことを提示したということです。これは同時に、「高い段階の社会主義」に進む上で重要になる「新たな生産関係」、すなわち、中国社会の新しい姿を創り出すことにつながるものでしょう。
昨年末開催された中央経済活動会議において、「来年(24年)は質の高い発展の推進を巡り、重点を際立たせ、鍵を握り、経済運営に着実に取り組まなければならない」として、科学技術イノベーションで近代産業システム構築をリードすることや国内需要の拡大に力を入れることなど9項目にわたって政策課題について微に入り細をうがつ提起をしています。まさに中国の新たな未来を予感させるものと言えます。
このように考察を深めていくと、「質の高い発展」とは、これから中国が歩む道の全てを大きく包み込む、あるいは隅々まで網羅する重要な概念だということが分かってきました。そして、中国の現在と未来について大きく視界が開けていくことを実感します。今回は、筆者の認識の一端を申し述べたにすぎず、「質の高い発展」についてのほんの端緒というべき考察にとどまりますが、今後読者の皆さんと共に、「質の高い発展」についてさらに考察を深め、中国についての理解、認識を一層実りあるものにしていきたいと考えます。
「人民中国インターネット版」2024年3月5日