(二)裁判官制度

 裁判官制度は裁判制度の重要な構成部分であり、裁判官の選任資格、選任方式、在職期限、奨励と処罰、物質面の待遇の規定と制度についての総称である。1995年2月28日に公布された裁判官法は17章42条からなり、これに対し比較的全面な規定を設けている。

1、 裁判官の資格に対する要求
裁判官は法によって国の裁判権を行使する裁判要員であり、各クラスの法院の院長、副院長、裁判委員会委員、廷長、副廷長、裁判員、裁判員補佐を含む。裁判官の職責は合議制法廷に参加し、事件の裁判を独立して担当する。
裁判官を担当するにはまず最初に裁判官の資格と条件を備えなければならない。裁判官法第4章の規定により、裁判官の担当は次の条件を備えなければならない。
(1)中華人民共和国国籍を有する。
(2)年齢が満23歳。
(3)中華人民共和国憲法を擁護する。
(4)良好な政治、業務の資質と良好な品行がある。
(5)体が健康である。
(6)大学法学部卒業かあるいは大学法学部卒業ではないが、法律知識があり勤務が満2年のもの、あるいは法学学士の学位を取得した勤務が満1年のもの。法学の修士の学位または博士学位を取得したものは上述の勤務年限の制限を受けない。
罪を犯して刑事処罰を科せられたもの、あるいは公職を除名されたものは裁判官を担任してはならない。
そのほか、人民法院組織法の規定によると、人民法院の院長と副院長、法廷長と副法廷長、審判員と審判員補佐および人民陪審員は選挙権、被選挙権を有する、年齢が満23歳の公民、法律専門知識を身につけたものでなければならない。

2、裁判官の任免
憲法と法律は次のように裁判官の任免の権限と手続きを規定している。
各クラス人民法院院長は同じクラス人民代表大会が選出するか職を免じる。各クラス人民法院院長の任期は同じクラス人民代表大会の任期と同じであり、同副院長、審判委員会委員、法廷長、副法廷長と審判員は本院院長が指名し、同じクラス人民代表大会常務委員会が任免する。審判員は本院院長が任免する。専門人民法院の裁判官の任免方法は全国人民代表大会常務委員会が別途決める。
初任の審判員、審判員補佐は、公開試験、厳格な考課方法を採用し、才徳兼備の基準に基づき、裁判官の条件の備わるものの中から人選を提出する。院長、副院長、審判委員会委員、法廷長、副法廷長の担当者は実際の仕事の経験がある優れたものの中から人選を提出するべきである。
裁判官は人民代表大会常務委員会の構成人員を兼任してはならず、行政機関、検察機関および企業、事業体の職務を兼任してはならず、弁護士を兼任してはならない。
国籍を失い、考課を受けてその任にたえないとされたもの、規律に違反し、法律に違反して罪を犯したもの、および健康などの原因で長期間職務を履行することができない裁判官に対しては、法に基づいて、その裁判官の職務の免除を提出するべきである。

3、裁判官保障制度
裁判官法の規定によると、裁判官は職責を履行する上で次の保護を受ける。
(1)職業保障。裁判官の職責を履行するには、相応の職権と仕事の条件が備わり、法による事件審判で行政機関、社会団体と個人からの干渉を受けず、法律に定められた原因、法律に定められた手続きによることではない免職、職務の格下げ、辞退、処分などを受けない。
(2)給与保障。法官は規定に基づき、労働報酬を獲得し、保険、福祉待遇を享受する。
(3)人身の保障。裁判官の人身、財産、住所の安全は法律の保護を受ける。
(4)その他の保障。裁判官には辞任、訴え、告訴を提出し、研修に参加するなどの権利がある。

4、裁判官の昇進制度
裁判官は12の等級に分かれる。最高人民法院院長を主席大裁判官とし、2級から12級までは大裁判官、高級裁判官、裁判官などの職名に分かれている。裁判官の等級は、裁判官の担当職務、才徳のよしあし、業務水準、審判上の実績、職歴をよりどころとし、年度考課を通じ、級を追って昇進する。裁判官の昇進は、その所在の法院指導部が実施する。昇進は客観的かつ公正におこなわれ、指導者と大衆を結び付けておこなわれ、平時の仕事ぶりと年度考課を結び付ける原則にのっとってすすめられる。

5、裁判官の賞罰制度
審判活動のなかで著しい成績をあげ、貢献をしたか、あるいはその他の突出した実績のある裁判官に対して、適切な奨励を与える。奨励の種類は賞状・賞品授与、功績三等、功績二等、功績一等、栄誉称号の授与からなる。これらの奨励はいずれも精神的奨励と物質的奨励を結び付ける原則にしたがって行われる。
裁判官は次の行為をしてはならない――国家の名誉をそこなうような言論をまき散らす。不法組織に参加したり国家に反対することを目的とする集会、デモなどの活動、ストに参加する。汚職、収賄をし、私腹を肥やし、私情にとらわれて法律を乱用し、 刑具をつかって自白を強要し、証拠を隠とくするか偽造する。国の機密または審判の中の秘密を漏えいし、職権を乱用し、公民と法人またはその他の組織の合法権益を侵害する。職務怠慢で事件の判決があやまるかあるいは当事者に重大な侵害をもたらす。案件に対する裁きを故意に怠ける。職権を利用し、自分あるいは他人のために私利をむさぼる。営利的活動に従事する。無断で当事者とその代理人と会見し、当事者とその代理人の接待や贈物を受けるなどの違法行為をする。
裁判官が上述の行為がある場合、処分を与える。処分としては、警告、過失記録、重過失記録、職名等級の格下げ、免職、除名などが挙げられる。免職の処分を受けたものは同時にその賃金の等級が引き下げられる。犯罪を構成するものに対しては、法に基づいて、刑事責任を追及する。

6、その他の制度
裁判官は定年退職、辞任、研修、訴え、告訴などの権利を享有する。定年退職後、国の定める養老保険金およびその他の待遇を得ることができる。

(三)法院の審判組織形態

中国の人民法院組織法とその他の法律の規定によると、人民法院の審判組織形態として、次の三つのものが挙げられる。

1、独任法廷
審判員が独自で簡単な事件を審判する組織形態である。法律の規定に基づき、独任法廷は次の事件を審判する。
(1)第一審の刑事自己訴訟事件とその他の軽微な刑事事件。
(2)末端人民法院とその派遣した人民法廷が審判した簡単な民事事件と経済紛争事件。
(3)特別手順での審理が適用される事件について、有権者資格件あるいはその他の重大の審理がむずかしい事件は審判員からなる合議法廷が審判するのを除き、その他の事件は審判員が独自で責任をもって審判する。

2、合議法廷
三人以上の審判員あるいは審判員と人民陪審員が集団で事件を審判する組織形態である。人民法院は第一審の刑事事件、民事事件、経済紛争事件に対し、独任法廷による一部の簡易事件を審判するのを除き、その他の事件は三人の審判員からなる合議法廷が審判する。第一審の行政事件は全部合議法廷が審判する。第二審の事件、再審事件、死刑判決再審事件はすべて合議法廷が審判する。
合議法廷は、人民法院が事件を審判する基本的審判組織形態であるが、そのメンバーは決まってはおらず、臨時に構成されるものであり、法院院長あるいは法廷長は一人の審判員を選んで裁判長を担任させる。合議法廷が事件を評議するときに、意見の食違いが生じた場合、少数が多数に服従するという原則をとるが、少数のものの意見は評議記録に記入され、合議法廷のメンバーはそれに署名すべきである。

3、審判委員会
人民法院組織法の規定に基づき、各クラス人民法院は審判委員会を設置する。審判委員会委員は法院院長が提出し、同じクラスの人民代表大会常務委員会が任免する。審判委員会は法院院長が指導し、その任務は次の通り。
(1)重大あるいは難しい審理事件を討論する。
(2)審判の経験を総括する。
(3)その他の審判の仕事にかかわる問題を討論する。

(四)審判活動の基本制度

1、審判公開制度
中国の憲法第125条の規定に基づき、審判公開制度は「人民法院は事件を審理するとき、法律に定められた特殊な状況を除き、一律に公開して行う」ことを指す。法に基づき、公開審理をしない事件に対しても、一律公開に判決を宣する。公開とは、社会に公開することである。開廷審判の全過程に対し、合議法廷での評議を除き、公民の傍聴、記者の取材、報道をいずれも認める。法にもとづいて公開審理をすべき事件を審判するにあたり、法院は開廷前、事件の原因・由来、当事者の名前、開廷時間、場所を公告する。
人民法院組織法第7条の規定に基づき、次の事件は公開審理をしない。
(1)国家機密にかかわる事件。
(2)個人のプライバシーにかかわる事件。
(3)未成年者の犯罪事件。
そのほか、民事訴訟法の規定に基づき、離婚当事者と企業秘密にかかわる事件の当事者が審理の非公開を申し出た場合、公開審理をしなくてもよい。

2、弁護制度
憲法と法院組織法は、被告人は弁護を獲得する権利があることを定めている。
刑事訴訟法はさらにこう規定している。人民法院は被告人の弁護の獲得を保証する義務がある。犯罪容疑者、被告人は自ら弁護権を行使するほか、一人か二人を委託して弁護人とすることができる。次のものは弁護人となることができる。
(1)弁護士。
(2)人民団体あるいは犯罪容疑者、被告人の勤務している部門が推薦したもの。
(3)犯罪容疑者、被告人の監護者、親戚および友人。
但し、刑罰執行中あるいは法によって人身の自由が剥奪、制限されたものは弁護人を担当することができない。
公訴事件については、事件が審査・起訴に移送された日から、犯罪容疑者は弁護人を委託することができる。自訴事件の被告人は弁護人を随時に委託する権利がある。公訴人が出廷する公訴事件については、被告人は経済的に豊かでないか、あるいはその他の原因で弁護人を委託しない場合、人民法院は、法律援助の義務がある弁護士を指定し、弁護を提供させることができる。被告人は視覚、聴覚、言語の障害者あるいは未成年者であり、弁護人を委託せず、また被告人は死刑を言い渡される可能性があり、弁護人を委託しない場合、人民法院は、法律援助の義務がある弁護士を指定し、弁護を提供させるべきである。

3、二審を終審とする制度
人民法院組織法第12条は、「人民法院は事件審判で二審を終審とする制度を実行する」と規定している。二審終審制とは、一つの事件に対する審理は一、二級法院が判決と裁定を行って終わることを指す。
人民法院は四級、二審を終審とする制度を実行し、つまり四級人民法院、二審を終審としている。事件の性格と難度に基づき、審級別を設定して管理を行う。当事者が第一審の判決あるいは裁定に対し、不服を申し立てるなら、法律に定められた期限内に一級上の人民法院に控訴することができる。また、人民検察院は第一審の判決あるいは裁定が誤ったと見るなら、法律に定められた期限内に一級上の人民法院に上訴することができる。控訴期限内に、当事者は上訴せず、人民検察院も控訴しないなら、この一審判決あるいは裁定は法律上効力が発生するものと認められる。一級上の人民法院が控訴、上訴事件に対し、第二審で行った判決あるいは裁定は終審の判決あるいは裁定であり、死刑を判決された事件は法にもとづいて、再審査が行われることを除き、残りは直ちに法律の効力が発生する。
法律の規定に基づき、次の事件は第一審を終審とする。
(1)最高人民法院が審理した第一審の事件。
(2)末端人民法院が民事訴訟法の特別手続きにしたがって、審理した有権者資格案件。公民の無行為能力あるいは制限行為能力と見られる案件。行方不明になった事件。死亡確認の事件。財産の持主がいないと確認された事件。

4、合議制度
人民法院組織法第10条の規定によると、人民法院は事件審判で合議制を実行している。審判にあたって、第一審の簡易な民事事件と法律に別途に定められた事件を除き、すべては合議法廷を設けるべきである。合議法廷は、三人以上の審判員あるいは三人以上の審判員と人民陪審員からなり、共同審判を行う法廷であり、合議制とも称されている。合議法廷のメンバーは奇数で、一般は三人からなり、少数が多数に服従する原則をとるが、少数の意見を記録に留めなければならない。審判員と人民陪審員は同等の権利がある。

5、回避制度
回避制度とは、司法関係者がその取り扱う事件あるいは事件の当事者とある特殊な関係で結ばれ、事件の公正な処理にひびく可能性があるため、 同事件の処理に参加してはならない、とういうものである。
刑事訴訟法の規定によると、審判人員、検察人員、取調べ人員が次の諸点の一つにあたるなら、すすんで回避し、当事者とその代理人にも上述の人員の回避を要求する権利がある。
(1)本事件の当事者あるいは当事者の親族。
(2)本人あるいはその親族が本事件と利害関係があるもの。
(3)本事件の証人、鑑定人、弁護人あるいは付随民事訴訟の当事者の代理人を担当したもの。
(4)本事件の当事者とその他のつながりがあり、事件の公正な処理にひびく可能性があるもの。
以上の規定は書記員、通訳、鑑定人にも適用する。
審判人員の回避は本法院院長が決定を下し、院長の回避は本法院審判委員会が決定を下す。
民事訴訟法、行政訴訟法には、類似した規定がある。

6、死刑再審査制度
人民法院組織法と刑事訴訟法の規定によると、死刑事件に対し、最高人民法院は判決を行うほか、地方法院の判決は最高人民法院に報告し、再審査を受けなければならない。殺人、婦女暴行、強盗、爆破およびその他の公共の安全と社会の治安に重大な危害をもたらした死刑判決事件に対する再審査は、最高人民法院が必要な場合、省、自治区、直轄市の高級人民法院に権限を授けて行使させる。中級人民法院によって死刑が判決され、2年の執行猶予を言い渡された事件は、高級人民法院の再審査を受けなければならず、高級人民法院が死刑判決を認めないなら、再審を命ずることができる。

7、審判監督制度
再審制度とも称されており、つまり、人民法院はすでに法律上効力が発生した判決と裁定に対し、法にもとづいて改めて審判を行う特別な審判制度である。審判監督制度は、二審終審制度の補完であるといえる。
人民法院組織法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政訴訟法の規定によると、審判監督の主な内容として次の四点が挙げられる。
(1)法律上効力が発生した判決と裁定は事実あるいは法律適用から見て、誤りが確かにあること。
(2)各クラス人民法院院長、一級上の人民法院、一級上の人民検察院、最高人民法院、最高人民検察院が審判監督手続きを提出する権利があること。
(3)審判監督の方式については、各クラス人民法院院長が審判委員会に依頼して処理する。最高人民法院が審判を行うか、下級人民法院による再審を命ずる。一級上の人民検察院、最高人民検察院は審判監督手続きに基づき、控訴する。
(4)人民法院は審判監督の手続きに基づき、再審を行う場合、別途に合議法廷を設けて審判するべきである。当初の審判が第一審の事件に属するなら、その審判は第一審の手続きに基づいて行われるべきである。当初の審判が二審の事件、あるいは一級上の人民法院が審判した事件であれば、その審判は二審の手続きに基づいて行われ、判決と裁定も終審の判決と裁定となる。

8、司法協力制度
それは、一国の司法機関(主として裁判所)が国際条約または二国間、多国間の協定に基づき、互恵の原則で他国の司法機関あるいは関係当事者の依頼に応じて、訴訟過程のすべての司法行為を代行することである。
中国の司法協力は主として次の面でおこなわれている。
(1)書類を送付し、取り調べを行う。
(2)互いに双方の裁判所の判決と仲裁裁決を認める。
(3) 書類送付、取調べ、犯罪者の引き渡しなどの司法協力を行う。