十、国家賠償制度
国家賠償は国家による権利侵害の損害賠償とも言われ、国家が公権行使による権利侵害行為の損害の結果に対して賠償責任を負うことである。
わが国は1994年5月12日の第8期全国人民代表大会で『中華人民共和国の国家賠償法』を可決し、この国家賠償法の第2条は「国家機関と国家公務員が法に違反して職権を行使し、公民、法人、その他の組織の合法的権益を侵害して損害をもたらした場合、被害者はこの法によって国家賠償を得る権利がある」と規定している。
わが国の『国家賠償法』は行政賠償と刑事賠償の二つの国家賠償について規定している。
(一)行政賠償
行政賠償は行政機関とその公務員が法に違反して行政職権を行使し、公民、法人とその他の組織の合法的権益を侵害して損害をもたらした場合、国家が賠償責任を負う賠償を指す。行政賠償は国家賠償の主な構成部分である。
1、賠償の範囲
『国家賠償法』の第3条、第4条は行政賠償の範囲を規定している。
(1)法に違反して拘留するか、法に違反して公民の人身の自由を制限する行政的強制措置をとった場合、
(2)不法に拘禁するかその他の方法で公民の人身の自由を不法に剥奪した場合、
(3)殴打などの暴力行為か他人をそそのかしての殴打などの暴力行為で公民の体の傷害か死亡をもたらした場合、
(4)法に違反して武器、警官の装備を使って公民の体の傷害か死亡をもたらした場合、
(5)公民の体の傷害か死亡をもたらしたその他の違法行為、
(6)法に違反して罰金を課し、許可証と許可書を取り上げ、生産を停止し、休業するよう指示し、財物などを没収した行政処罰を行った場合、
(7)法に違反して財産を差し押さえ、取り押さえ、凍結するなどの行政的強制措置をとった場合、
(8)国の規定に背いて財物を徴収し、費用を割り当てた場合、
(9)財産の損害をもたらしたその他の違法行為。
『国家賠償法』の第5条は同時に国家が行政賠償責任を負わないいくつかの状況について規定している。
(1)行政機関の公務員が職権を行使することと関係のない個人の行為、
(2)公民、法人とその他の組織自体の行為のために損害が発生することになった場合、
(3)法律の定めたその他の状況。
2、賠償義務機関
『国家賠償法』に基づいて、賠償義務機関の確定は以下のいくつかの状況に分けられる。
(1)行政機関とその公務員が職権を行使して公民、法人とその他の組織の合法的権益を侵害して損害をもたらした場合、この行政機関を賠償義務機関とする。
(2)2つ以上の行政機関が共に職権を行使した際に公民、法人とその他の組織の合法的権益を侵害して損害をもたらした場合、ともに行政の職権を行使した行政機関を共同賠償義務機関とする。
(3)法律、法規から権限を授けられた組織が授与した行政権限を行使した際に公民、法人とその他の組織の合法的権益を侵害して損害をもたらした場合、権限を授けられた組織を賠償義務機関とする。
(4)行政機関の委託を受けた組織あるいは個人が委託を受けて行政権限を行使した際に公民、法人とその他の組織の合法的権益を侵害して損害をもたらした場合、委託の行政機関を賠償義務機関とする。
(5)賠償機関が取り消された場合、引き続きその職権を行使する行政機関を賠償義務機関とする。引き続きその職権を行使する行政機関がない場合、この賠償義務機関を取り消した行政機関を賠償義務機関とする。
(6)再審機関の再審を経る場合、最初に権利侵害行為をもたらした行政機関を賠償義務機関とするが、再審機関の再審の決定が損害を重くする場合、再審機関は重くなった部分に対して賠償義務を履行する。
行政賠償の請求人はまず賠償義務機関に賠償の要求を提出すべきであり、行政賠償の再審を申請し、行政訴訟を提出する際に一緒に提出してもよいが、賠償義務機関の処理を経ることなく直接訴訟を提起してはならな
い。
(二)刑事賠償
刑事賠償は司法機関が誤って勾留し、誤って逮捕し、誤って判決をおこなったことによる国家賠償を指す。
1、 賠償の範囲
『国家賠償法』第15、16条には、刑事賠償の範囲について次のように規定されている。
(1) 犯罪事実がなく、あるいは重大な犯罪容疑を証明できる証拠がないものを間違えて拘留したこと、
(2) 犯罪事実がない人を間違えて逮捕したこと、
(3) 裁判の監督手続きで、再審によって無罪判決を言い渡されたが、前回の判決で言い渡された刑罰が執行されたこと、
(4) 拷問あるいは殴打などの暴力行為に訴え、あるいは他のものをそそのかし殴打などの暴力行為をさせ、公民の体を傷つけ、死亡に至らしめたこと、
(5) 法律に違反して武器、警棒を使って、公民の体を傷つけ、死亡に至らしめたこと、
(6) 法律に違反して公民の財産を差押さえ、押収、凍結、没収したこと、
(7) 裁判の監督手続きで、再審によって無罪判決を言い渡されたが、前回の判決で言い渡された罰金、財産没収が執行されたこと、
『国家賠償法』第18条には、国が刑事賠償の責任を取らないことについても、次の通り規定されている。
(1) 公民自身が故意に虚偽の供述をし、あるいはその他の有罪証拠を偽造して、拘禁され、あるいは刑罰を言い渡されたこと、
(2) 刑法第14、15条の規定で刑事責任を負わないものが拘禁されたこと、
(3) 刑法第11条の規定で刑事責任を追求されないものが拘禁されたこと、
(4) 国の偵察、検察、裁判、監獄管理職権を行使する機構の職員と職権行使と関係のない個人行為、
(5) 公民みずからを傷つけ、みずからなどの故意行為でもたらされた損害、
(6) 法律で規定されたその他のこと、
賠償義務機構
『国家賠償法』に基づき、賠償義務機構についての確定は次の通りである。
(1) 国の調査、検察、裁判、監獄管理の職権を行使する機構の職員が管理の職権を行使するにあたり、公民、法人およびその他の組織の合法的権益を侵害して損害を与えた場合、当該機構は賠償義務機構となる。
(2)犯罪事実がなく、あるいは重大な犯罪容疑を証明できる証拠がないものを間違えて拘留した場合、拘留の決定を下した機構は賠償義務機構となる。
(3)犯罪事実がないものを間違えて逮捕した場合、逮捕の決定を下した機構は賠償義務機構となる。
(4)再び裁判をおこなって無罪判決を言い渡されたら、発効した元の判決を下した裁判所が賠償義務機構となる。二審の裁判で無罪判決を言い渡されたら、一審の判決を下した裁判所および逮捕の決定を下した機構は合同賠償義務機構となる。
賠償請求者はまず賠償義務機構に賠償要求を届け出なければならず、期限までに賠償されず、あるいは賠償金額に異議があるなら、賠償請求者は期限満了の日から30日以内にその上級機構に再審を提出できる。
中級人民裁判所には賠償委員会が設けられ、3〜7人の裁判員からなる。
賠償請求者が国に賠償要求を提出した場合、賠償義務機構、再審機構および裁判所は賠償請求者から費用を一切受け取ることはできない。
3、国の賠償は賠償金を主な支払い方式とするが、財産返還あるいは原状復帰が可能な場合、財産を返還し、原状復帰させる。国の賠償の計算基準は次の通りである。
(1) 公民の人身の自由が侵害された場合、毎日の賠償金は国の前年度の職員の一日の平均賃金にもとづいて計算される。
(2) 公民の生命健康権が侵害された場合、賠償金は次のように計算される。
身体に傷害を与えた場合、医療費を支払うと同時に、出勤不能のために減少した収入を賠償する。減少した収入に対する毎日の賠償金は国の前年度の職員の一日の平均賃金にもとづいて計算され、最高額は国の前年度の従業員の一日の平均賃金の5倍となる。
働く能力を一部あるいは全部喪失することになった場合、医療費、傷害賠償金を支払う。傷害賠償金は働く能力の喪失の度合によって確定し、働く能力を一部喪失させたものに対する賠償金の最高額は国の前年度の職員の年間平均賃金の10倍となり、働く能力を全部喪失したものは国の前年度の職員の年間平均賃金の20倍と
なり、そしてそのものが扶養する働く能力のない家族に対しても生活費を支払うべきである。
死亡させた場合、死亡賠償金、埋葬費を支払うべきで、総額は国の前年度の職員の年間平均賃金の20倍とな
り、そしてそのものが扶養する働く能力のない家族に対しても生活費を支払うべきである。
(3) 公民、法人およびその他の組織の合法的権益を侵害して損害を与えた場合、次ぎのような規定にもとづいて処理する。
罰金、財産没収に処し、あるいは国の規定を違反して財物を徴収し、費用を割り当てた場合、財産を返還する。
財産を差押さえ、押収、凍結した場合、財産に対する差押さえ、押収、凍結を解除し、
財産を破損、消失させた場合、復元可能なものは復元し、復元不可能なものは、破損状況に応じて相応の賠償金を支払う。
返還すべき財産が破損した場合、復元可能なものは復元し、復元不可能なものは、破損状況に応じて相応の賠償金を支払う。
返還すべき財産が消失した場合、相応の賠償金を支払う。
財産が競売された場合、競売で得た金額を支払う。
営業許可証を取り上げ、生産を停止させた場合、生産停止期間に必要な経常的費用を賠償する。
財産権に対するその他の損失を与えた場合、直接の損失にもとづいて賠償する。
国の賠償費用は各クラスの財政予算に組み入れ、各クラスの財政により財政管理体制にもとづいてクラスにわけて負担する。
『国家賠償法』第32条は、国家賠償の有効期間について「賠償請求者の国家賠償を要求する有効期間は2年間であり、政府機関とその職員の職権行使行為が違法だと認められた日から計算を始め、拘禁期間は計算に入れない。」と規定している。
『国家賠償法』第33条は、外国人に対する国家賠償の原則について次の通り規定している。「外国人、外国企業と機構が中華人民共和国領内で中華人民共和国の国家賠償を要求する場合、本法を適用する。外国人、外国企業と機構の所属する国が中華人民共和国公民、法人、組織の当該国に対する国家賠償要求権利を保護せ
ず、あるいは制限した場合、中華人民共和国は当該外国人、外国企業、組織の所属する国と対等の原則を取るものである。」この原則的規定は中国の外国人、外国企業と組織に対する尊重を具現するばかりでなく、同時に中国の主権と尊厳を守るものである。
『国家賠償法』第14、24条は行政賠償と刑事賠償における国の賠償追徴権利としてそれぞれ次のように規定している。「賠償義務機構が損失を賠償した後、故意あるいは重大過失を犯した職員あるいはその委託した組織と個人に、一部あるいは全部の賠償費用を負担させるべきである。」「賠償義務機構が損失を賠償した後、次の状況の中の一つがある職員に対し、一部あるいは全部の賠償費用を追徴賠償させるべきである。1、本法第15条第4、5項に規定された状況(4、拷問や殴打などの暴力行為に訴え、あるいは他のものをそそのかし殴打などの暴力行為をさせて、公民に身体の傷害、死亡に至らしめたこと、5、法律に違反して武器、警棒を使って、公民に身体の傷害、死亡に至らしめたこと――編集者注)、2、裁判監督の手続きで、再審で無罪判決を言い渡されたのに、前回の判決で言い渡された罰金、財産没収が執行されたこと」
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