十二、香港・澳門・台湾地区の司法制度の概況
(一)香港地区の司法制度の概況
1997年7月1日に、中華人民共和国は香港に対する主権行使を回復した。国家の統一と領土の完全を擁護し、香港の繁栄と安定を維持するため、中国政府は"一国二制度"の方針と憲法の規定に基づいて、香港特別行政区を設置した。香港特別行政区における諸制度の設立は『香港特別行政区基本法』を法的根拠とするもので、司法制度も例外ではない。
香港特別行政区基本法と香港の関係法律の規定に基づき、香港特別行政区の司法機構は主として裁判の職能を行使する各クラス裁判所ならびに検査の職能を行使する律政司を主とする関係機構によって構成される。
1、 香港特別行政区における裁判所の組織体系
(1) 末端裁判所。区域裁判所、裁判署法廷とその他の法廷からなる。
(2) 高等裁判所。高等裁判所には上訴法廷と原訴法廷が設けられる。
(3) 終審裁判所。
区域裁判所はかつては地方裁判所と言われ、全行政区に地区によって四ヵ所設けられ、地区別の民事、刑事案件を処理する。
裁判署法廷はかつては裁判司署と言われ、全行政区に九ヵ所設けられ、初級刑事裁判所であり、すべての刑事案件は最初は全部この法廷で受理され、初級的審理を行う。
高等裁判所はかつては「最高裁判所」と言われ、上訴法廷と原訴法廷が設けられ、民事、刑事案件の裁判権を行使する。
終審裁判所は香港特別行政区の終審権を行使し、香港特別行政区の最高審級であり、つまり香港の訴訟案件は終審裁判所の判決と裁定をもって最終的判決および裁定とする。
2、 香港特別行政区の検事機構
『香港特別行政区基本法』第63条は「香港特別行政区律政司は刑事検事の仕事を主管し、いかなる干渉も受けない」と規定している。これから見ても、律政司は香港の検事機構で、独立して検事権を行使していることが分かる。
律政司はかつては律政司や律政署と言われ、香港最大の法的機構で、特殊な地位にあり、役割が複雑で多様な法的部門である。その職権は立法、司法行政、検査、民事代理、法的政策の制定と改革および弁護など多くの機能に及ぶものである。その性格と仕事から見ると、アメリカの司法省に類似するものである。
律政司は検察機構として香港で起きた刑事案件の検査に対し全権をもって責任を負うほか、政府を起訴するすべての民事訴訟(行政訴訟を含む)においてはいずれも被告の身分で訴訟に参加し、法廷では政府を代表する。公衆の利益の擁護者として、公衆の合法的利益を擁護するため、司法審査を申請することができるし、公衆の利益を代表して重要な公益に関連する案件の審理に出廷、参与することができる。このほか、法廷を軽視する事柄を法廷に伝え、法廷の仕事に協力する。律政司長は特別区政府と行政長官の法的顧問である。要するに、律政司は裁判権以外のほとんどの重要な法的事務を担当するものである。
(二)澳門特別区における司法制度の概況
1999年12月10日に中国政府は澳門に対する主権行使を回復し、澳門特別行政区が成立した。『澳門特別行政区基本法』に基づき、澳門特別行政区は高度の自治を実行し、独自の司法権と終審権を享有するもので、これは澳門特別行政区の司法制度に関する原則的規定である。
1、 澳門特別行政区における裁判所の組織体系
澳門特別行政区には、三つのクラスの裁判所、即ち初級裁判所、中級裁判所、終審裁判所が設けられる。澳門は面積が狭いので、地区別によって地区裁判所を設ける必要がないのである。同時に澳門特別行政区は職能別によって設立した専門的裁判所は少なく、行政裁判所しか設けられていない。
(1) 初級裁判所
澳門特別行政区の初級裁判所は初審裁判所であり、必要に応じて、刑事、民事、経済などいくつかの専門的審判廷を設けることができる。
(2) 中級裁判所
復帰前の高等裁判所の部分的職権を行使する。
(3) 行政裁判所
澳門特別行政区の行政訴訟、税務訴訟および税関訴訟を受理する専門的裁判所である。等級上初級裁判所に属し、その判決に不服であれば、中級裁判所に控訴できる。
(4) 終審裁判所
特別行政区の終審権を行使する。
2、澳門特別行政区の検事機構
澳門特別行政区には検事院が設けられている。
検事院は主として次のような9つの職権を行使する。
(1) 澳門地区、公鈔局、市役所、行動能力のない市民にかわり訴訟に参与する。
(2) 刑事訴訟を提示し、裁判所が刑事案件を審理する時には出廷して公訴を支持する。
(3) 司法の独立を擁護し、裁判所の判決の執行を保証する。
(4) 法によって働く人たちおよびその家族のため訴訟代理をする。
(5) 刑事調査の仕事を指導し、警察の仕事を監督する。
(6) 犯罪の予防に力を入れ、破産および公共利益に関連するすべての訴訟に参与する。
(7) 総督(行政長官)のために法的コンサルタントを提供する。
(8) 裁判所の不正な判決に対し控訴を提起する。
(9) 法律によって賦与されたその他の権力を行使する。
澳門特別行政区検察院は独立の機構であり、その地位は中華人民共和国最高人民検察院と類似しているが、異なっている点としては、澳門特別行政区検察院の検察長は行政長官が指名し、中央人民政府に報告して任命されるが、検察官の任命と免職は行政長官が行うもので、したがって、検察院は行政長官の指揮と監督を受けないわけにはいかない。
(三)台湾地区における司法制度の概況
台湾地区の中央政府には行政院、立法院、司法院、監察員、試験院が設けられ、五院はそれぞれ行政権、立法権、司法権、検査権、試験権を行使する。司法院は五院の一つとして独特な地位を保っている。
司法院は台湾の最高司法機構であり、院長、副院長はそれぞれ一人ずつ、秘書長、副秘書長はそれぞれ一人ずつ置かれる。司法院には大法官会議が設けられ、17人の大法官からなる。司法院の所属機構は普通裁判
所、行政裁判所、公務員懲戒委員会などの諸委員会が含まれる。
司法院は民事、刑事、行政訴訟審判権、公務員懲戒権、憲法と法律法規解釈権など広はんな職権を有してい
る。そのほか、下記諸委員会はそれぞれの専門的職能を行使する。
法務部は行政院に属し、検察、監獄、司法保護などの行政事務および行政院の法的事務を主管する。法務部には部長一人を置き、政務委員の一人で、所属の職員と機構を指揮監督する。部長の下には政務次長、常務次長がそれぞれ一人置かれ、部長を補佐して部内事務を処理する。
1、台湾地区における裁判所の組織体系
台湾の裁判所は三つのクラスに分かれており、即ち、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所である。三つのクラスの裁判所間の関係は行政上の従属的関係ではなくて等級的関係である。
(1)最高裁判所
台湾の最高審判機構で、等級上では、第三審の終審裁判所である。民事法廷、刑事法廷がそれぞれ五つ設けられ、それぞれ性格の異なった案件を審理する。
(2)高等裁判所
省と特別区域に設けられ、台湾裁判所体系の中の第二級であり、民事法廷と刑事法廷をいくつか設け、審判長を一人、推事(審判官)を二人置き、また、専門的法廷が設けられ、公設弁護人、刑事資料室、書記室などが設けられている。
(3)地方裁判所
台湾の最低審判機構であり、原則として県、市で設けられているが、土地の狭い県、市では、いくつかの県、市が一緒になって地方裁判所をつくり、土地の広い県、市では支所がつくられる。地方裁判所が案件を審理する際、普通は推事(審判官)が独自で審判するが、事情がゆゆしい場合は推事(審判官)三人で合議審判をおこなうことになる。
そのほか、台湾では行政訴訟案件の審理にあたる行政裁判所が設けられている。
2、台湾地区の検察機構
台湾の検察機構の組織体系は最高裁判所に検察署、高等裁判所に検察処、地方裁判所に検察処が設けられ、いずれも行政院所属の法務部に属している。
(1)最高裁判所検察署
検察長を一人、検察官を数人置き、書記庁、会計室、人事室が設けられている。検察長は台湾地区の検察事務の指揮監督、施政方針、仕事の計画と全般的事務の処理にあたる。
(2)高等裁判所検察処
首席検察官と検察官を数人置き、書記室、刑事資料室、人事室、会計室が設けられている。
(3)地方裁判所検察処
首席検察官、検察官を置き、書記室、人事室、会計室が設けられている。首席検察官は同裁判所の検察事務を処理し、所属職員の仕事、業績の考課にあたる。
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