六、弁護士制度
弁護士制度は国の法律で規定される弁護士の性格、任務、組織と仕事の原則および弁護士がいかにして社会に法的サービスを提供するかについての法的規範の総称である。
(一)弁護士の性格、任務と地位
1.弁護士の性格
中国が1996年5月15日に公布した「中華人民共和国弁護士法」(以下、「弁護士法」と略称)第2条では、「本法律のいう弁護士とは法によって弁護士従業証明書を取得し、社会に法的サービスを提供する従業要員を指す」と規定されている。中国の弁護士は中国の社会主義法制として不可欠の重要な力の一つである。「弁護士法」第3条では、「弁護士は従業の際、必ず憲法と法律を順守し、弁護士の職業モラルと従業規律を守らなければならない。弁護士の従業は事実を依拠とし、法律を準拠としなければならない。」と規定されている。
2.弁護士の任務
弁護士の任務は国の法律で明確に規定されている、弁護士の従業活動を通じて実現する目的を指す。「弁護士法」第1条の規定によれば、当事者の合法的権利と利益、法律の正確な実施を守ることは、とりもなおさず弁護士の任務である。弁護士の任務のこの二つの側面は補完し合って成り立ち、弁証法的統一の関係と密接なかかわりがある。これは当事者の合法的権益を守ることと法律の正確な実施を守ることの間の一致性によって決定されるものである。
3. 弁護士の地位
弁護士の地位は弁護士が社会生活、訴訟過程におけるしかるべき地位を享有する権利およびその果たす役割を指す。
中国の弁護士は訴訟の中で独立した地位にある。弁護士は人民法院と人民検察院にも従属しないし、完全に当事者に従属するのでもなく、訴訟に参加して当事者の合法的権益を守ることで独立した訴訟参加者の地位にある。弁護士は一般の訴訟参加者の訴訟権利を享有するばかりでなく、弁護士の責務履行と関係がある訴訟権利を享有する。
(二)弁護士の従業条件
弁護士の従業は、まず弁護士の資格を取得するとともに、実習を満了してから従業証明書を申請しなければならない。弁護士の資格を取得してから、また法律に定められた条件とプロセスに従って弁護士従業証明書をもらって、はじめて弁護士の資格で業務を扱い、法によって弁護士の権利を享有し、弁護士の義務を担うことができ
る。
弁護士の資格を取得したものは一時弁護士の職業に従事せず、その資格を留保することができる。中国が取っているこのやり方は、弁護士の資格と弁護士の従業との分離と称されている。
1.弁護士の資格
弁護士業務の従事者が必ず備えなければならない条件を指す。
中国の「弁護士法」第5条では、「弁護士の従業は、必ず弁護士の資格と従業証明書を取得しなければならない」とされている。第6条には弁護士の資格を取得する二つのルート、つまり国の統一試験による取得と司法行政部門の考課・批准による取得が規定されている。
(1)「弁護士法」第6条では、「国は弁護士資格の全国統一試験制度を実行する。大学・高専の法学学科・専門科以上の学歴または同等の専門業務水準および大学・学院のその他の学科の本科(大学卒業)以上の学歴を持つものは、弁護士の資格についての試験を経て合格すれば、国務院の司法行政部門が弁護士の資格を授与する」と規定されている。
(2)「弁護士法」第7条では、「大学・学院の法学部の本科以上の学歴をもち、法律研究、法学教学などの専門の仕事に従事するとともに、高級職の資格を有するかあるいは同等の専門業務水準を備え、弁護士の従業を申請したものは、国務院司法行政部門の規定される条件に基づく考課と認可を経て、弁護士の資格を授与される」と規定されている。
2.弁護士従業証明書
(1)弁護士従業証明書の申請、取得条件
「弁護士法」第8条では、「中華人民共和国憲法を擁護するとともに、次の条件に符合するものは、弁護士従業証明書を申請、取得することができる」と規定されている。
I、 弁護士の資格をもつ者。
II、 弁護士事務所で満一年見習をした者。
III、 品性のよい者。
(2)弁護士従業証明書を発給しない。
「弁護士法」第9条では、「次の状況の一つがあるものには弁護士従業証明書を発給しない」と規定されている。
I、 民事行為の能力がなく、あるいは民事行為の能力が制限されている者。
II、 過失的犯罪を除いて、刑事的処罰を受けたことがある者。
III、 職務を解かれ、あるいは弁護士従業証明書が取り上げられた者。
(3)弁護士従業証明書を申請、取得するプロセス
まず、弁護士従業証明書を申請、取得するものは所在するかまたは転入した弁護士事務所が要求される申請書類を所在地の司法行政機関に提出する。これら申請資料には、「弁護士法」第10条の規定によると、次の4点が含まれている。
(一)申請書。
(二)弁護士資格証明書。
(三)申請者の所在する弁護士事務所が出した実習鑑定書類。
(四)申請者の身分証明書のコピー
住所所在地の司法行政機関は申請書類を受け取った日から15日以内に審査意見を出すとともに、クラスごとに省、自治区、直轄市の司法庁(局)に報告すべきである。
次に、省、自治区、直轄市以上の人民政府の司法行政部門は申請書類を審査した後、「弁護士法」で規定されている条件にかなったものに、申請を受け取った日から30日以内に弁護士従業証明書を発給すべきである。「弁護士法」で規定されている条件にかなわないものに対しては、弁護士従業証明書を発給しないとともに、申請を受け取った日から30日以内に申請者に書面で知らせるべきである。
(4)弁護士従業証明書登録制度
弁護士従業証明書は年度ごとに一回登録すべきであり、登録を経ない弁護士従業証明書は無効である。登録の仕事は省、自治区、直轄市の司法庁(局)以上の司法行政機構が責任を負う。仕事の必要があれば、省、自治区、直轄市の司法庁(局)は地区、市、州の司法局に付託して、本地区の弁護士従業証明書登録の仕事に責任を負わせることもできる。
3. 弁護士の従業に対する制限
(1)「弁護士法」第12条では、「弁護士は一つの弁護士事務所で従業すべきであり、同時に二つ以上の弁護士事務所で従業してはならない。弁護士の業務活動は地域の制限を受けない」と規定されている。
(2)「弁護士法」第13条では、「政府機関の現職公務員は従業弁護士を兼任してはならない。弁護士は各クラスの人民代表大会常務委員会のメンバーになっている期間、弁護士の業務に従事してはならない」と規定されている。
(3)「弁護士法」第14条では、「弁護士従業証明書を取得していないものは弁護士の名義で弁護士業務に従事し、経済利益をはかるために訴訟代理または弁護の業務に従事してはならない」と規定されている。
(4)法学の教学と学術研究に従事しているものは合弁弁護士事務所またはパートナーシップの弁護士事務所の合弁者またはパートナー経営者になってはならない。
(三)弁護士事務所
「弁護士法」第15条では、「弁護士事務所は弁護士の従業機構で」、弁護士の行為に対し規範と管理を行う基礎的部門であり、弁護士の業務活動は弁護士事務所の派遣を受け、弁護士事務所の名義で行うものであると規定されている。
1. 弁護士事務所の性格
「弁護士法」では三種類の形態の弁護士事務所、つまり国の出資で設立された弁護士事務所、パートナーシップの弁護士事務所と合弁弁護士事務所が規定されている。異なった条件で設立した弁護士事務所は、異なった運営メカニズムを採用し、同時に、条件の異なった弁護士事務所は異なった法的義務、つまり民事責任を担う。
「弁護士法」第16条では、「国の出資で設立された弁護士事務所は、法によって弁護士業務を自主的に繰り広げ、弁護士事務所の全資産でその債務に責任を負う」と規定されている。
「弁護士法」第17条では、「弁護士はパートナーシップの弁護士事務所を設立し、弁護士事務所の全資産でその債務に責任を負うことができる」と規定されている。
「弁護士法」第18条では、「弁護士は合弁弁護士事務所を設立し、合弁者は当該弁護士事務所の債務に無限責任と連帯責任を負うことができる」と規定されている。
2. 弁護士事務所の設立
(1)「弁護士法」第15条では、「弁護士事務所は次の条件を備えるべきである。
I、 独自の名称、住所と規約がある。
II、 10万元以上の資産を持つ。
III、 本法の規定に符合する弁護士がいる。」と規定されている。
(2)弁護士事務所設立の審査・認可のプロセス
「弁護士法」第19条では、「弁護士事務所の設立を申請することで、省、自治区、直轄市以上の人民政府の司法行政部門の審査を経て本法の規定に合致した場合、申請を受け取った日から30日以内に弁護士事務所従業証明書を発給すべきで、本法の規定に合致しない場合は弁護士事務所従業証明書を発給しないとともに、申請を受け取った日から30日以内に申請者に書面で知らせるべきである」と規定されている。
(3)弁護士事務所の支所の設立
「弁護士法」第20条では、「弁護士事務所は支所を設立することができる。支所の設立は設立準備中の弁護士事務所所在地の省、自治区、直轄市人民政府の司法行政部門の規定条件に基づく審査を経なければならな
い。弁護士事務所はその支所の債務に責任を負う」と規定されている。
(4)弁護士事務所の変更と終止
「弁護士法」第21条では、「弁護士事務所は名称、住所、規約、合弁者などの重大な事項を変更し、または弁護士事務所を解散する場合、元の審査・認可部門に報告しなければならない」と規定されている。
3. 弁護士事務所の内部管理
「弁護士法」第23条では、「弁護士の業務を引き受けることは、弁護士事務所が統一的に付託を引き受け、付託人と書面契約を結び、国の規定に則って当事者から料金を取るとともに、如実に帳簿に記入する」と規定されている。
「弁護士法」第24条では、「弁護士事務所と弁護士はその他の弁護士を誹謗するかまたは仲介料支払いなどの不正な手段で業務を争ってはならない」と規定されている。
4. 弁護士事務所の体制変更
分離と体制変更を実行する対象には、(1)すでに独立収支を実現した国の出資する弁護士事務所、(2)事業
体、企業または社会団体に属する弁護士事務所、(3)司法機関の認可を経て設立された、政府部門、事業体、企業または社会団体に属する社会法律諮問サービス機構が含まれる。分離以降、体制を合弁弁護士事務所またはパートナーシップの弁護士事務所に改め、行政または事業体にもう一度属することなく、行政上の級を持たないようになるべきである。独立収支を実現しておらず、依然として財政の助成金に頼っている国の出資する弁護士事務所は当分の間、従属する部門との分離と体制変更を行わない。
従属する部門との分離と体制変更の仕事は2000年10月31日以前に達成する。
国有資産の画定と資産の処置は「財産権が投資者に帰する」という原則を堅持し、国の関係規定に従って行い、国有資産が流失しないことの保証を前提とし、専門業務要員の知的労働の蓄積によって形成された資産要素に適宜に配慮する。
(四)従業弁護士の業務と権利、義務
1. 従業弁護士の業務
「弁護士法」第25条では、「弁護士は次の業務に従事することができる。
(一) 公民、法人とその他の組織の招請を受けて法律顧問を担当する。
(二) 民事案件、行政案件の当事者の付託を引き受けて代理人を担当し、訴訟に参加する。
(三) 刑事案件の犯罪容疑者の招請を引き受けてそのために法律諮問を提供し、控訴、上告を代行し、審問を待つための保釈の申請を行い、犯罪容疑者、被告人の付託または人民法院の指定を受けて、弁護人を担当し、自訴案件の自訴人、公訴案件の被害者またはその肉親・親族の付託を受けて、代理人を担当し、訴訟に参加する。
(四)さまざまな訴訟事件の申し立てを代行すること。
(五)当事者の委託を受理し、調停、仲裁の活動に参加すること。
(六)非訴訟法律事務の当事者の委託を受けて、法律サービスを提供すること。
(七)法律関係の諮問に答え、訴訟書類と法律関係事務のその他の書類を代書すること。
2、弁護士の権利と義務
わが国の法律、例えば『中華人民共和国弁護士法』、『中華人民共和国刑事訴訟法』、『中華人民共和国民事訴訟法』、『中華人民共和国行政訴訟法』および関連法律の規範的な解釈文書の中で、いずれも弁護士の権
利、義務についての規定がある。
(1)弁護士の権利
T、調査の権利
『弁護士法』第31条は「弁護士は法律事務を引き受け、関係部門または個人の同意を得て、彼らに情況について調査をおこなうことができる」と規定している。
U、保存公文書を調べる権利
『中華人民共和国刑事訴訟法』には「弁護士は人民検察院が訴訟事件について審査・起訴をおこなった日から、この事件の訴訟文書、技術的鑑定資料を調べ、抄録し、コピーすることができる。人民法院が訴訟事件を受理した日から、この事件を告発した犯罪事実資料を調べ、抄録し、コピーすることができる」という規定がある。『弁護士法』第30条には弁護士は訴訟活動に参加し、訴訟法の規定に基づいて、この事件と関係のある資料を調べることができる」という規定がある。
V、人身の自由を制限されている人との会見と通信の権利
W、法廷に出席して訴訟に参与する
X、弁護と代行を拒絶する権利
Y、弁護士の人身の権利は侵害されない
(2)弁護士の義務
T、憲法と法律を遵守し、弁護士の職業道徳と業務執行紀律を守る。
U、ゆえなく弁護と代行の義務を拒否してはならない。
V、法律扶助の義務を提供する。
W、守秘義務
『弁護士法』第33条には「弁護士は業務執行の中で知ることになった国家機密と当事者の企業秘密を守るべきで、当事者のプライバシーを漏らしてはならない」という規定がある。
X、特定の訴訟事件を引き受けてはならない義務。
『弁護士法』第34条は「弁護士は同一の訴訟事件の中で、双方の当事者のために代理人を引き受けてはならない」と規定している。第36条は「かつて司法官、検察官を担当した弁護士は、人民法院、人民検察院から離任後2年間以内に、訴訟の代理人または弁護人を引き受けてはならない」と規定している。
Y、無断で委託を受理してはならない義務。
Z、法律サービスの便宜を利用して当事者の争っている利益をむさぼるまたは相手の当事者の財物を受け取ってはならない。
[、規定に違反して司法官、検察官と会見してはならない。
\、司法官、検察官、仲裁者とその他の関係者に贈り物をしたり賄賂を使ったりするか、当事者が賄賂を使うよう指図し、誘導してはならない。
]、証言を妨害してはならない。
『弁護士法』第35条の第5項は「弁護士は虚偽の証拠を提供し、事実を隠すか他人をおどして利益でいざなって虚偽の証拠を提供し、事実を隠して相手の当事者が合法的に証拠を得ることを妨げてはならない」と規定している。
]I、法廷、仲裁廷の秩序を妨害してはならない。
(五)弁護士協会
1、弁護士協会の性格
『弁護士法』第37条第1項は「弁護士協会は社団法人であり、弁護士の自律的組織である」と規定している。
弁護士協会の地位 司法行政機関と弁護士協会との関係は、指導と被指導、監督と被監督の関係である。
2、弁護士協会の設置
『弁護士法』第37条第2項は「全国に中華全国弁護士協会を設け、省、自治区、直轄市に地方弁護士協会を設け、区を設置した市は必要に基づいて地方弁護士協会を設けることができる」と規定している。
3、弁護士協会と弁護士との関係
『弁護士法』第39条は「弁護士は所在地の地方弁護士協会に参加しなければならない。地方弁護士協会に参加した弁護士は、同時に中華全国弁護士協会の会員である。弁護士協会の会員は弁護士協会の規約に基づい
て、規約で与えられた権利を享有し、規約に定められた義務を履行する」と規定している。
4、弁護士協会の職責
『弁護士法』第40条は「弁護士協会は下記の職責を履行し、
(1) 弁護士が法律に基いて業務を執行することを保障し、弁護士の合法的権益を守る。
(2) 弁護士の仕事の経験を総括し、交流する。
(3) 弁護士の業務上の訓練を組織する。
(4) 弁護士業の職業道徳と業務執行紀律の教育、監督、検査を行う。
(5)弁護士を組織して対外交流を展開する。
(6)弁護士の業務執行の中で発生した紛糾を調停する。
(7)法律に定められたその他の職責。
弁護士協会は規約に基づいて弁護士に奨励か処分を与える」と規定している。
(六)弁護士の職業道徳と業務執行紀律、弁護士の懲罰、戒告
1、弁護士の職業道徳
1996年10月6日に中華全国弁護士協会が採択した『弁護士の職業道徳と業務執行紀律の規範』では次のように規定されている。
(1)弁護士は業務執行の中で終始サービスを堅持しなければならない。
(2)弁護士は職務に忠実で、国の法制と社会の正義を守らなければならない。
(3)弁護士は誠実かつ信用があり、職責を果たして当事者に法律扶助を提供しなければならない。
(4)弁護士の間では互いに尊重し合い、公平に競争すべきである。
(5)弁護士は業務執行の中で廉潔・自律を保ち、みずからの修養を重視すべきである。
(6)弁護士は弁護士の事業に忠実で、意識的に弁護士の名声を守るべきである。
2、弁護士の業務執行紀律
1996年の『弁護士の職業道徳と業務執行紀律の規範』は以下のいくつかの面から弁護士の業務執行紀律に対して規定を行っている。
(1)その勤務機構における弁護士の紀律は、主に弁護士が訴訟事件の受理と業務料金の面で守るべきである業務執行紀律である。
(2)訴訟と仲裁活動における弁護士の紀律。
(3)弁護士の委託人と相手側当事者との関係についての紀律。
(4)弁護士の同僚の間の関係についての紀律。
3、弁護士の懲罰、戒告
司法部は1992年10月22日に『弁護士の懲罰、戒告の規則』を公布し、主に次のことを規定している。
(1)弁護士の懲罰、戒告措置
A、警告。
B、業務執行の一時停止。
C、弁護士資格の取り消し。
(2)懲罰、戒告機構と手続き
懲罰、戒告機構は地区、市、州以上の各級司法行政機関である。地区、市、州以上の司法行政機関に弁護士懲戒委員会を設立し、具体的に懲罰、戒告の仕事に責任を負う。懲戒委員会は業務執行弁護士、弁護士協会と司法行政機関の関係者からなる。
懲罰、戒告の手続き。
A、懲罰、戒告の提起と審査。
B、懲罰、戒告案についての評議。
C、再審手続き。
D、 懲罰、戒告の実施。
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