チベットの基本状況

 チベットは中国に5つある自治区の一つで、チベット族を主とする民族自治区域である。

 チベットは中国南西部の国境地帯、青蔵(青海・チベット)高原の南西部に位置する。平均標高は4000メートル以上で青蔵高原の主体をなし、「世界の屋根」と呼ばれている。土地面積は122万平方キロ以上で、全国総面積の約12.8%を占めている。

 長さ2400キロ、幅200〜300キロのヒマラヤ山脈がチベット高原の南部にあり、平均標高は6000メートル以上である。標高8844.43メートル世界最高峰チョモランマがネパールとの国境地帯に聳えている。

 チベット高原は複雑な地形がゆえに、北西部は寒く、降雨量が少なく、乾燥しており、南東部は降雨量が多く、温暖で湿潤という独特な気候が形成されている。このほか、さまざまな地域的気候と著しい垂直気候帯もある。

 中国の大部分の地区と比べて、チベットは空気が稀薄で、日照が十分で、気温がかなり低く、降雨量が少ない。チベット高原の1立方メートル当たりの空気の中の酸素はわずか150〜170グラムしかない。だが、複雑な地形や独特な気候がゆえに、チベットは生物資源の非常に豊富な地区でもある。統計によると、チベットには高等植物が5766種ある。チベットは中国最大の林業区の一つでもあり、森林蓄積量は約20億8000万立方メートル、森林カバー率は9.84%である。トウヒ、モミ、ツガなどからなる針葉林帯は最も広く、チベットの森林総面積の48%と総蓄積量の61%をそれぞれ占める。チベットの松林の面積は約92万6000ヘクタールもあり、そのうち、チベットの長葉松と白皮松は特有の松であり、国から保護樹種として指定されている。野生薬用植物は1000種以上に達し、そのうち、かなりよく知られているものは、冬虫夏草、貝母、大黄、天麻、三七、党参などがある。

 チベット高原はまた、中国のいくつかの特有の珍しい動物の生息地であり、区内には哺乳動物が118種、鳥類が473種、爬虫類が49種、両生類が44種、魚類が61種、昆虫類が2300種ある。野生動物の中で、チベットガゼル、野生ヤク、野生ロバ、盤羊などは青蔵高原特産の珍しい動物であり、国の保護動物に属している。白唇鹿は中国の特産で、世界でも珍しい動物の一つである。黒頚鶴、蔵馬鶏はともに国の一級保護動物に指定されている。

 チベット自治区は中国で人口が最も少なく、人口密度も最小の自治区である。1990年の第四回国勢調査のデータによると、チベット自治区の総人口は219万6000人(1950年比119万6000人増加)、人口密度は1平方キロ2人以下である。1998年末現在、チベット自治区の人口は245万、そのうち、チベット族の人口は236万で、総人口の96.33%を占め、漢民族は6万7000人で、2.73%を占め、その他の少数民族は2万3000人で、0.94%を占めている。

 1970年以来、チベット自治区の人口出生率、自然増加率はともに全国の平均水準を上回った。1982年から1990年にかけて、全自治区のチベット族人口は30万9300人増加し、自然増加率は1.734%で、同期の全国の平均人口増加率より0.264ポイント高いものであった。この10年間に、チベット自治区の人口は年平均3万8000人増加した。現在、チベット自治区の年間人口出生率は2.3%以上、自然増加率は1.5%以上に達している。チベット自治区政府は人口総数を抑制するために自然増加率を1.6%と定めた。人口の健康レベルも急速に向上し、平均予期寿命は平和解放(1951年)以前の36歳から現在の65歳に上昇した。

 チベット自治区は全国でチベット族住民が最も集中している地区で、全国のチベット族人口の45%を占めている。チベット族のほか、チベット自治区にはメンパ族、ロパ族、漢民族、回族などおよびデンバ人、シェルパ人などがいる。
 チベット自治区では、多数の人がチベット仏教を信仰している。イスラム教を信仰する者は約2000人、カトリック教を信仰する者は約600人である。

 1949年に中華人民共和国が樹立した。1951年5月23日、中央人民政府とチベット地方政府が「十七カ条の取り決め」を結んだため、チベットの平和解放が実現した。1959年に、チベットでは民主改革が実施され、封建的農奴制が廃止された。1965年9月に、チベット自治区が正式に成立した。

 現在、圧倒的多数の農民・牧畜民の衣食問題が基本に解決され、豊かになった農民・牧畜民も一部いる。農民・牧畜民の一人当たり純収入は1978年は約200元だったが、1996年は約975元、1997年は1040元、1998年は1158元であった。都市部住民の一人当たりの可処分所得も1978年より大幅に増え、1996年は5030元で、1997年は5130元に増えた。1997年末までに、全自治区の都市・農村の預金残高は30億4500万元に達した。

 チベットの交通はたえず発展をとげている。全自治区には幹線道路が15本、支線道路が315本あり、全長は2万2000キロに達している。チベット自治区に至る主な幹線は、全長2122キロの青蔵道路(青海省の西寧市=ラサ)、全長2413キロの川蔵道路(四川省の成都市=ラサ)、全長1179キロの新蔵道路(新疆ウイグル自治区の葉城県=アリ地区の獅泉河鎮)、全長315キロのでん蔵道路(雲南省の下関市=マルカム県)、全長736キロの中国ネパール国際道路(ラサ=シガズェ地区のチャンム通商地)など5本ある。

 東部の青海省西寧市から西部のゲルム市までの青蔵鉄道の第一期工事がすでに1980年代の初めに完工して開通した。全長846キロのこの鉄道は平均標高3000メートル以上の地帯に敷設されている。第二期工事は全線施工中で、計画投資額は約140億元、チベット自治区に鉄道がなかった歴史に終止符が打たれる。

 ラサ市から北京市、成都市、上海市、広州市、重慶市、西安市などに飛ぶ国内航空ルートおよびネパールの首都カトマンズに至る国際航空ルートがすでに開通している。ラサのゴンガ空港が拡張されるならば、ボーイング767が離着陸できるようになる。

 チベット自治区にはいろいろな自然と人文景観がある。ラサ市はチベット自治区の政治、経済、文化、交通の中心であり、チベット仏教の中心でもある。ラサ市にはチョカン寺、ラモチェ寺、ポタラ宮、八廓街、ロブリンカとチベット仏教ゲルク派の三大寺(ガンデン寺、レプン寺、セラ寺)がある。ロカ地区はチベット族文化の発祥地であり、チベット最初の宮殿――ユポラカン、チベット王墓、サンイェ寺などがある。シガズェ地区の名所旧跡としては主にヤンゾユム湖、タシルンポ寺、サキャ寺、パンコル・チョエテン寺とチョモランマなどがある。