チベットの民家

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 チベットの伝統的な民家はチベットのその他の文化の形態と同じように、独特な個性を持つものである。チベット族の民家は豊富多彩であり、チベット南部の谷のようなくぼ地のトーチカ風家屋、チベット北部の牧畜地区のテント、ヤルツアンポ江流域の営林区の木造建物はそれぞれ特色があり、アリ(阿里)高原では横穴式住居を目にすることさえある。

 チベットの民家の歴史は非常に古く、4000年前のカロの新石器時代の遺跡でもさまざまな建物の遺跡が発見されている。

 チベット族の最も代表的な民家はトーチカ風家屋である。その多くは石と木でつくられたものであり、外観は荘重でがっちりしており、素朴な風格で飾り気がない。壁は上の方へいくほど狭くなっており、山を後ろに控えて建てられたものは家の中の地面にも坂があるようである。トーチカ風家屋は普通は二階建てで、柱の数によって部屋数を計算する。一階は家畜小屋と貯蔵室で、フロアは比較的低い位置にある。二階は居住フロアで、大きな部屋が居間、寝室、炊事場であり、小さな部屋は貯蔵室あるいは階段の踊り場の位置にある小部屋である。もし三階があるならば、多くは読経堂と物干し台として使われている。

 トーチカ風家屋は丈夫でがっちりしており、厳密な構造で、建物の角が整然としているという特徴があり、風をさえぎり、寒さを防ぐことにも役立てば、忍び込んでくる敵を食い止め、盗難を防ぐこともできる。

  テントはトーチカ風家屋とまるっきり違い、それは牧畜地区のチベット族の人々が水や草を求めて暮らすための移動の多い生活様式に適応するために採用された特殊な建築形態である。普通のテントは比較的低くて小さく、正方形あるいは長方形で、木の棒を使って高さ2メートルぐらいの骨組みを支え、屋根はヤクの毛で作った黒いフェルトで覆われ、屋根の中央部には幅約15センチ、長さ1.5メートルの通風採光用のすきまが残してある。テントの周りはヤクの毛で作った縄を使ってテントの布を引っぱって地面に固定することになっている。テントの中の周囲は草と泥の塊(かたまり)や土れんがあるいは石を積み上げた高さ50センチぐらいの低い壁があり、壁の上にはハダカムギ、スー油の入った袋と乾燥した牛糞(燃料として使う)が積まれている。内部のしつらえは簡単で、中央部のやや前のところにかまどがあり、かまどの後ろには仏像を供えられており、周りの床にヒツジの皮を敷き、座ったり、横になったり、寝ったりするときに使われる。テントの構造は簡単で、支える枠組みも作りやすく、据え付けたり、はずしたり、引っ越したりするにも便利という特徴がある。

 チベット族はおしゃれで、美を表現することに長じた民族であり、そのため住居の装飾も非常に重んじ、室内の壁の上部に吉祥の象徴である模様が描いてあるのをよく見かける。客間の内壁には青空、土地と海を象徴する青、緑、赤色3本の帯が描かれている。シガズェ(日喀則)の民家は扉(とびら)の上に日、月、祥雲の気象の図が描かれているか、あるいは風馬の旗が掲げられているが、チャムド(昌都)、マルカム(芒康)の民家は外壁と窓を極力きれいに飾り立て、きれいな絵付けで、人の目を引き付けるものがある。

 濃厚な宗教色に富むこと、これこそチベットの民家がその他の民族、民家と違う最も著しい特色である。

 民家の室内、室外のしつらえは神仏の崇高な地位を示すものである。農民・牧畜民の住宅であろうと、上層部の貴族(民主改革以前)の屋敷であろうと、いずれも仏像を供える施設がある。最も簡単なものでも供え机を置いて菩薩像を祭っている。
 宗教的色彩に富んだ装飾はなおさらチベットの民家の最も人目を引く特色であり、外壁の門と窓の上に突き出した小さなひさしの下に赤、青、白3種の帯状の幕がかけてあり、窓の周囲は黒いカバーをかぶせ、屋根の凸凹の小さな壁の底部と曲がり角のところは赤、白、青、黄、緑5色の帯状の布で作った「幢」である。チベット族の宗教的色彩観の中で、この五種類の色はそれぞれ火、雲、天、土、水を示し、それによって吉祥の願いを表わす。

 なお、壁の装飾でチベット仏教の流派を示すこともある。例えば、サキャ(薩迦)派の民家の壁には白色の帯が塗ってあり、帯の上に更に同じ幅の赤褐色と濃厚な灰色を帯びた青色の帯が塗ってあり、中空の部分は白色であり、建築の主体あるいは塀の直角の曲がり角とかなり広い壁面に、さらに上から下へと赤褐色と白色で帯を描き、それによってこの地区の人々がサキャ派を信仰していることを示す。

 チベットで最も代表的な集落様式は宗教集落である。宗教集落の形成と発展はチベット民家の魅力をさらに強めている。例えば、ラサのバゴ(八廓)街の民家群はチョカン寺の周りに発展したものであり、都市部の宗教集落の典型的なものである。農業・牧畜地区の民家集落の形成は、寺を中心として自由に配置され、互いに入り混じり、互いに従属することのない枠組みを形成している。

 チベットの民家は寒さを防ぎ、風をさえぎり、地震に耐えると同時に、風除けの門、天井、天窓などを設けるやり方で、生産、生活に対する気候、地理条件などの自然環境のマイナスの要素の影響をかなり上手に解決しており、通風と暖房の効果がある。

 1959年の民主改革以前、チベットのほとんどの住民は低い掘っ立て小屋に住み、家のない貧民はひさしの下や道端に身を寄せる以外になかった。チベット自治区成立以降、政府は大量の資金を投じて住民の住居を改善し、1994年には、都市人口の1人当たりの住宅面積は12.24平方メートル、農村の人口は1人当たり20.36平方メートルに達した。旧チベットは経済の発展が遅れていたため、建築材料は石と粘土に限られていた。今の民家はすでにさまざまな近代的建築材料を十分に利用し、高層建築も次々と建てられ、チベット風の建築スタイルをよりよく生かしている。旧チベットの圧倒的多数の民家の室内施設はきわめてお粗末であったが、今はテレビ、ラジカセ、フルセットのチベット風家具がすでに一般のチベット族の人たちの家庭に入っている。中国の改革開放はチベット族の人たちの財布を膨らませ、彼らは自分たちの住居をきれいで特色のあるようにつくり変えている。

写真の索引
1、 チベットの民家
2、 後蔵(チベット西部)の民家の建築スタイルを代表するシガズェのチベット族の村落
3、 ルドク(日土)の古いトーチカ風宮殿遺跡と民家
4、 サキャ寺の近くにある薄ねずみ色の家屋群
5、 ラサのチベット風新築民家
6、 ラサのバゴ街の民家
7、 バルリの民家
8、 チベット北部高原の牧畜民のテント
9、 テント
10、チベット南部の民家
11、チベット風建物の門の飾り
12、チベットの多くの民家の正門の扉に画いてある絵
13、チベット風民家のテラス
14、チベット族の牧畜民が夏季に住むテント
15、バルリの民家
16、バルリの農民の住居
17、チベット風家屋の窓
18、チベット風建物の門の飾り
19、ラサの東郊外の農民の新居
20、屋上に仏教の幡を掲げている民家