地方行政制度

地方行政制度は、国の行政管理の実施の便宜をはかるため行政区域を区画し、地方自治機構を設置する制度と慣例である。

一、行政区画

(一)行政区域の区画

中国の行政区画としては

1、全国は省・自治区、直轄市に分けられる。
2、省・自治区は自治州、県、自治県、市に分けられる。
3、県・自治県は郷、民族郷、鎮に分けられる。
4、直轄市と規模の大きい市は区、県に分けられる。
5、自治州は県、自治県、市に分けられる。

中央政府は特別行政区を設立することが出来る。

(二)中国行政区画の等級

二級制:直轄市――区。
三級制:省、自治区、直轄市――県、自治県、市――郷、民族郷、鎮。
四級制:省、自治区、直轄市――区が設置した市、自治州――県、自治県、市――郷、民族郷、鎮。

二、地方政府の形態

(一)普通の行政地方の政府

省、直轄市、県、市、市轄区、郷、民族郷、鎮でそれぞれ設置された地方各クラス人民代表大会、政府、裁判所と検察院が含まれる。

(二)民族自治地方の自治機構

自治区、自治州、自治県の人民代表大会と人民政府、自治区、自治州、自治県の人民代表大会によって選出された裁判機構と検察機構、国務院の認可を得て組織された現地の治安を維持する武装部隊が含まれる。

(三)特別行政区の地方政府

特別行政区の政府制度は全国人民代表大会が法律によって決定する。

(四)特殊形態の地方政府

経済特別区、開発区、鉱山工業区、自然保護区などが含まれ、その行政管理機構の設置は普通の地方政府と異なっている。

三、省・自治区政府

(一)省・自治区政府

省・自治区政府は中国の一級地方国家行政機関である全国には28の省・自治区がある。

省・自治区政府は国務院の統一の指揮と指導に従わなければならない。国務院は中央と省・自治区国家行政機関の職権配置についての決定権があり、省・自治区政府の不適切な決定と命令に対する変更・撤廃権がある。

省・自治区政府は、省・自治区人民代表大会とその常務委員会の制定した地方法規と決議を実行し、省・自治区人民代表大会とその常務委員会に責任を負い、活動を報告する。

省・自治区人民代表大会とその常務委員会は、省・自治区政府の活動に対する監督権があり、省・自治区政府の不適切な決定と命令に対する変更・撤廃権がある。

省・自治区政府は、域内の市、県、郷、鎮など各クラス政府の仕事に対する統一的指導権があり、域内の経済、社会、文化の建設などの行政事務を統一的に管理する。

(二)省、自治区政府の派出機関

省・自治区政府は必要な場合、国務院の認可を得て、いくつかの派出機関を設置することができる。
設置された派出機関は「行政公署」(行署)と呼ばれている。

行政公署は省、自治区政府の派出機関であり、政府ではなく、管轄する区域は行政区域でもない。その基本的職責は省・自治区政府を代表して、その所在する県、市の仕事に対し指導、協調を行うことである。

行政公署は専員1人、副専員、顧問数人を置き、省、自治区政府が任免する。

行政公署は専員責任制を実行する。

行署は、行署専員執務会議を設け、専員、副専員、顧問、専員補佐、正副秘書長が参加し、行署の日常の仕事の重大事項を討議して、専員が最後の決定をおこなう。

行署のメンバーには任期がなく、人員の変更は仕事の必要と人事の関連規定にもとづいて決める。

行署には仕事の機構が設置され、一般には局と称され、約40〜50人からなる。

四、市政府

(一)直轄市政府

直轄市政府は中国の地方国家行政機関である。

全国には北京、天津、上海、重慶など四つの直轄市がある。

轄市政府は国務院の統一的指揮と指導に従わなければならない。国務院は中央と直轄市の国家行政機関の職権配置についての決定権があり、直轄市政府の不適切な決定と命令に対する変更・撤廃権がある。

直轄市政府は、直轄市人民代表大会とその常務委員会の制定した地方法規と決議を実行し、直轄市政府人民代表大会とその常務委員会に責任を負い、活動を報告する。直轄市人民代表大会とその常務委員会は、直轄市政府の仕事に対する監督権があり、直轄市政府の不適切な決定と命令に対する変更・撤廃権がある。

直轄市政府は、域内の区、市、県、郷、鎮など各クラス政府の仕事に対する統一的指導権があり、域内の経済、社会、文化の建設などの行政事務を統一的に管理する。

(二)副省クラス市政府

副省クラス市政府はかなり大きな、計画独立市から発展して来た、行政組織としては省政府より低いものであるが、しかし、省政府のコントロールを受けることのない市政府である。現在までのところ、瀋陽、大連、長春、ハルビン、青島、南京、寧波、杭州、厦門(アモイ)、武漢、広州、深せん、西安、成都など15の市がある。

(三)地区クラス市政府

地区クラス市は直轄市、副省クラス市以外の大中都市である。一般的に言えば、市街区の非農業人口が25万以上であり、そのうち、市政府所在地の非農業人口が20万以上、工業総生産額が20億元以上で、第三次産業が発達し、その生産額は第一次産業を上回り、GDPに占める比率が35%以上、地方予算内財政収入が2億元以上に達する、いくつかの市、県の中にある中核的都市である。

地区クラス市政府は自地区の人民代表大会とその常務委員会に責任を負い、活動を報告し、省政府に責任を負い、活動を報告し、同時に国務院の統一的指導を受け、都市全体の経済文化の建設と行政の仕事を指導し、行政区域全体の諸行政事務を指導し、所属する県、県クラス市政府の仕事を指導する。

省・自治区政府所在地の市および国務院に認可された規模の大きい市の政府は、法と国務院の法規によって行政規則を制定することができる。

(四)地区クラス市に管理される県、県クラス市

地区クラスの市の県、県クラスの市に対する管理体制は、省と県、県クラスの市との間に正式の国家行政機関を設置し、省―地区クラス市―県、県クラス市―郷(鎮)の地方行政組織体制を形成する。

この体制は、地区クラス市政府が同時に農村と都市を管理する二重の職能をもつことを要求している。

主な形態は次の通りである。

1、地区と市を合併させる。

地区行政公署と行署所在地の地区クラス市政府を合併させ、県、県クラス市を管理する新たな地区クラス市政府を設置する。

2、県を市に組み入れる。

地区クラス市の周辺にある県、県クラス市を地区クラス市に組み入れ、地区クラス市政府が管轄する。

3、市を設置して県を管轄する。

県クラス市、県を地区クラス市に昇格させるか、あるいは地区行署機関を直接地区クラス市政府機関に改め、地区クラス政府を設置し、県、県クラス市を管轄する。

(五)県クラス市政府

県クラス市政府は、国の市設置基準に合致した小さな地域内に設置された市政府である。

県クラス市は一般には県に属する鎮から発展して設置されるかあるいは県を廃止して市を設置したもので、農業地区における行政管理の色彩がある。

県クラス市政府の国家行政組織の中における地位は大体次の三種類に分けられる。

1、地区行政公署を設置している地方の県クラス市は、省・自治区政府の直接の指導を受け、同時に、地区行政公署の監督・指導を受ける。

2、地区行政公署を設置しておらず、これからも設置しない地方の県クラス市は、省・自治区政府の直接の指導を受ける。

3、地区クラス市が県、県クラス市を管轄する体制及び民族自治を実施しているところの県クラス市政府は、地区クラス市・自治州政府の指導を受ける。

県クラス市政府の下には、郷、民族郷、鎮政府が設置され、街道(町)事務所も設置することができる。

(六)区政府

区政府は、区がある市に設置された、市の域内の地区別の職能的地方政府である。

区政府は、直轄市、副省クラス市、地区クラス市に設置される。

区政府は、直轄市、副省クラス市、地区クラス市政府の指導を受ける。

区政府は、その管轄地域別によって市内区政府と郊外区政府に分けられる。

市内区政府は、都市内に設置され、都市市街区の末端政府であり、市街区区政府は出先機構――街区事務所を設置することができる。

都市の周辺地区の都市、農村が結びついている地域には一般には郊外区政府が設置され、郊外区政府は、郷、民族郷、鎮政府を管轄し、街区事務所を設置することもできる。

五、農村地区政府

(一)県政府

県政府は農村地区に設置された地方政府である。

県政府の国家行政組織の中における地位は次のように三種類に分けられる。

1、地区行政公署を設置している地方の県政府は、省・自治区政府の直接の指導を受け、同時に、地区行政公署の監督・指導を受ける。

2、地区行政公署を設置しておらず、これからも設置しない地方の県政府および北京、上海、天津、重慶など四つの直轄市に管轄される県政府は、省・自治区及び直轄市政府の直接の指導を受ける。

3、地区クラス市が県、県クラス市を管轄する体制及び民族自治を実施しているところの県政府は、地区クラス市・自治州政府の指導を受ける。

県政府は郷、民族郷、鎮政府を管轄し、街区事務所を設置することもできる。

県政府は、必要な場合、省・自治区・直轄市政府の認可を得て、県政府の出先機構として、いくつかの区公所を設置することができる。

(二)郷、民族郷、鎮政府

郷、民族郷、鎮政府は農村地区における末端地方政府である。

郷、民族郷、鎮政府は、県、自治県、県クラス市、区政府の指導を受ける。

六、地方政府の機構と職権

(一)地方政府の構成

地方各級政府は、省長、市長、県長、区長、郷長、鎮長責任制を実行する。

1、省・直轄市政府の構成

省・直轄市政府は、省長、副省長、市長、副市長、秘書長、庁長、局長、委員会主任などによって構成される。

省長、副省長、市長、副市長は、省・直轄市人民代表大会によって選出され、省・直轄市政府の責任者が選出された後、正職のものは二カ月以内に省・直轄市人民代表大会に対して、秘書長、庁長、局長、委員会主任の任命申請書を提出し、そして国務院に報告する。

省・直轄市人民代表大会の閉会期間においては、省長、市長が事情があって職務を担当できない場合、省・直轄市人民代表大会常務委員会によって副省長、副市長の中から代理の人選を決め、次回の省・直轄市人民代表大会で補欠選挙を行う。

省・直轄市人民代表大会の閉会期間においては、副省長、副市長の個別の任免は省・直轄市人民代表大会常務委員会で決定する。

省・直轄市政府の任期は毎期5年となっている。

2、地区クラス市政府の構成

地区クラス市政府は、市長、副市長、秘書長、局長、委員会主任などによって構成される。

市長、副市長は市人民代表大会で選出される。

市人民代表大会の閉会期間においては、副市長の個別の人選は、市人民代表大会常務委員会で決定する。

秘書長、局長、委員会主任などその他の市政府構成メンバーは、市長、副市長が選出された後の二カ月以内に市長の指名によって、市人民代表大会常務委員会で決定し、省・自治区政府に報告する。

地区クラス市政府の任期は毎期5年となっている。

3、県、県クラス市、区政府の構成

県、県クラス市、区政府は、それぞれ県長、副県長、市長、副市長、区長、副区長と科長、副科長などによって構成される。

県長、副県長、市長、副市長、区長、副区長は県、県クラス市、区人民代表大会で選出される。
県、県クラス市、区人民代表大会の閉会期間においては、県、県クラス市、区人民代表大会常務委員会が、副県長、副区長の個別の人選を決定する。

県、県クラス市、区政府の局長、科長の任免は、県長、市長、区長の指名によって、県、県クラス市、区人民代表大会常務委員会で決定し、上級政府に報告する。

県、県クラス市、区政府の任期は毎期5年となっている。

4、郷、民族郷、鎮政府の構成

郷、民族郷政府は郷長1人、副郷長若干名、鎮政府は鎮長1人、副鎮長若干名を置く。

民族郷の郷長を少数民族の公民が担当する。

郷長、副郷長、鎮長、副鎮長は郷、民族郷、鎮の人民代表大会で選出される。

郷、民族郷、鎮政府の任期は毎期5年となっている。

(二)地方政府の職権、行政的地位と相互関係

1、地方政府の職権

県以上の地方各クラス政府は、法律で規定された権限によって、その行政区域内の経済、教育、科学、文化、医療・衛生、スポーツ事業、都市部・農村建設事業および財政、民政、公安、民族事務、司法行政、監察、計画出産などの行政の仕事を管理し、決定と命令を公布し、行政人員の任免、育成訓練、仕事の点検、奨励懲罰を行う。

省・直轄市政府は郷、民族郷、鎮の設置と区域区画を決定する。

郷、民族郷、鎮政府は、郷、民族郷、鎮人民代表大会の決議および上級国家行政機関の決定と命令を履行し、その行政区域内の行政の仕事を管理する。

2、地方政府の行政的地位

地方各クラス政府は、その地方の人民代表大会に責任を負い、活動を報告する。県以上の地方各クラス政府は、その地方の人民代表大会の閉会期間において、その地方の人民代表大会常務委員会に責任を負い、活動を報告する。

地方各クラス政府はその上級国家行政機関に責任を負い、活動を報告する。

全国の地方各クラス政府は国務院の統一的指導の下で仕事をする国家行政機関で、いずれも国務院に従うものである。

3、地方政府の相互関係

県以上の地方各クラス政府は、その直属部門およびその下のクラスの政府の仕事を指導し、その直属部門および下のクラスの政府の不適切な決定を変更・廃止させる権限がある。

県以上の地方各クラス政府には、会計検査機関が設置される。地方の各クラス機関は法律にもとづいて独自に会計検査監督権を行使し、その地方の政府と上級会計検査機関に責任を負う。