中国市場で優位に立つには 


 他に注視すべきは、2022年末に日本政府が成立させた経済安全保障法が、日本企業の対中投資に及ぼす影響です。

 

 経済安保問題に関する日本企業の姿勢は、対中投資の二極化と同様の影響を及ぼしています。中国に強い企業は、例えば経済安保の問題に関しても中国でのリスクと米国政府の規制の内容に関して詳細に情報を収集して分析し、それにうまく適応するような対中戦略を取っているため、さほど大きな影響は受けていません。しかし中国であまり成功していない企業はあまり熱心に情報収集していないことが多いため、リスク面を強調する日本のメディア報道をうのみにして中国投資を慎重にしようと判断する企業も多いように見えます。対中投資への取り組み姿勢の差が、経済安保問題への対応にも影響していると考えられます。 


 大切なことは、日本企業が経済安保の制限の中身を正確に把握しているか否かですが、そこに大きな問題があります。もし本気で中国の市場に取り組もうとするのであれば、まず経済安保規制の発信源である米国政府の考え方や規制の中身を、弁護士やロビイストを通じて正確に把握し、どの製品分野で、どのスペックまでであれば中国に出しても米国政府はOKなのかをタイムリーに把握し、米国政府の規制に抵触しない部分を十分把握した上で、安全に出せる製品を中国に出せばいいのです。 


 米国にせよ欧州にせよ、そして中国にせよ、日本以外の企業は重要な製品・サービスに対して政府の規制がかかったときには、規制の中身を正確に把握し、必要に応じて規制を緩めてもらえるよう政府に働き掛けるといういわゆるロビイングを常に行っています。それをしていないのは、唯一日本企業だけでしょう。よって日本以外の企業は政府との交渉に慣れていますが、日本は慣れていないため、中国における立場が欧米企業に比べて弱く、不必要に慎重になる立場にあります。 


 昨年10月、中国の地方政府で投資誘致担当の責任者をしている人に言われたのが、「欧米企業は正確な情報をもとに、どのようなスペックの製品について、どのタイミングで、どれくらいの数量を出せるのかを正確に把握した上で、中国の需要に応じた製品を供給してくれている。しかし日本企業はそこまで正確に情報を把握していないので、制限ぎりぎりより少し手前のものしか出さないようにするケースが多い。その結果、日本企業が供給しなくなった部分を欧米企業からの供給で賄っている。つまり欧米企業にシェアを取られ、日本企業だけが損しているということだ。どうしてこんなもったいないことをしているのか」ということでした。 


 それに対して私は、「ロビイングの差です。日本企業はもう少しきちんと米国政府や日本政府にロビイングを行い、どこまで出せるのかきちんと見るべきなのです。それができれば、日本企業は中国においてもっと優位に立てるようになります」と答えました。まさに日本企業の問題を浮き彫りにした好例です。

 

より大胆な経済政策方針を 


 今年、そして今後の数年において、中国経済が理想的な発展を遂げようとするのであれば、前述の二つの大きな課題、つまり民間企業の自信回復と不動産市場下落に歯止めをかける方法を、政府が明確な形で示すことが必須となります。 


 例えば民間企業の自信回復を促すには、「発展が第一の道理(発展才是硬道理)」といったようなスローガンを掲げて中国政府が経済建設と民間企業をより一層重視しているという姿勢を明確に示す必要があります。中国経済発展の原動力はこれまでも、これからも民間企業です。民間企業を最大限に活性化させて経済を発展させる仕組みをさらに推し進めるしか、中国経済が発展する余地はないと私は思っています。 


 そしてもう一つの不動産について。下落の歯止めをかけるには、公的資金投入の準備を始める必要があるでしょう。まずは不良債権の金額を確定しなければなりませんので、中国全土で地価の調査を行い、不動産の価格を国の評価基準で確定すべきです。その上で、今度は不良債権になってしまった不動産を公的機関が一部買い取り、健全なものはもう一度市場へ売り出し、不健全なものは公的資金を投入して政府の力で吸収していくなどの施策を行って、不動産市場を再活性化することが必要です。全国的な不動産の価格調査、日本でいうと整理回収機構のような不良債権処理のための公的処理機関設立準備、この2点を行えば、早ければ2〜3年以内に不良債権を抜本的に処理する仕組みが整います。不動産市場の構造的な回復方向がはっきりと見えてくれば、中国の人々も不動産下落の歯止めを自信を持って予想でき、実際に歯止めがかかり始めることにも期待が持てます。 


 2019年まで6%以上の成長が続いた中国経済が、コロナが終わって正常に戻ったにもかかわらず厳しい状況に直面しているのには、誰もが気付いています。だからこそ、これまでにない大胆な政策方針の決定が必要なのです。ですから通例の全人代(全国人民代表大会)はもちろん、重要な経済政策決定に関わる三中全会(中央委員会第3回全体会議)をいち早く開催し、国民全体がこれなら経済が回復すると納得するような、大きな経済政策運営方針をより早く示すことが、今の中国経済を回復させるに当たって最も重要だと思います。 (呉文欽=聞き手・構成)

 

人民中国インターネット版 より




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