インフィニティ合同会社チーフ・エコノミスト 田代秀敏 

注目すべき中央経済政策会議 

 中央経済政策会議が12月11~12日に北京で開催されました。穏やかな金融緩和を主とする経済政策から、積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策との政策混合(policy mix)に転換したことが、今回の中央経済政策会議で最も注目すべきポイントであると考えます。実際、積極的な財政政策が重要項目のリストの筆頭に挙げられています。 

 次に、10年以上ぶりに金融政策が「適度に緩和した」ものとなったことも注目すべきポイントであると考えます。中国政府は、金融緩和が資産価格を上昇させ新たなバブルを生み出すリスクを回避するために、金融緩和を「穏やかな」水準に長年とどめてきました。金融緩和の水準を「適度に緩和した」水準に引き上げることで、不動産価格の低下に歯止めが掛かることが期待できます。また、積極的な財政政策が金利を上昇させ民営企業の投資を減少させるクラウディングアウト(crowding out)を防止するためにも、金融緩和を「適度に緩和した」水準に引き上げることが妥当であると考えます。 

正しい政策選択の継続が重要 

 穏やかな金融緩和を主とするマクロ経済政策から積極的な財政政策と金融政策との政策混合(policy mix)に転換したことは、失業を解消して消費を拡大することが景気回復に必要であると認識されたからだと思われます。 

 しかし、積極的な財政政策による景気回復の効果が現れるには相当の時間を要します。それに対して、積極的な財政政策によって財政赤字は直ちに膨張します。財政赤字の拡大を恐れずに景気が十分に回復するまで財政政策を続けることが必要です。しかし財政赤字の拡大に耐えることは政府にとって課題です。 

 1937年に米国のルーズベルト政権は、29年に起きた大恐慌によって始まった深刻な景気後退から脱するために33年から行ってきた積極的な財政政策が財政赤字を拡大したことを問題として緊縮財政に復帰し、回復しかかっていた景気を再び深刻に悪化させてしまいました。この「ルーズベルト不況(Roosevelt Recession)」は世界各国に波及し、2年後の第2次世界大戦へ向かわせてしまいました。 

 日本は90年のバブル崩壊の後に大幅に悪化した景気を回復させるために積極的な財政政策を行いました。しかし、財政赤字が拡大したのに伴い、税収を増やすために政府は消費税(付加価値税、増値税)を97年に引き上げました。当然、実質消費の伸びは減速し、景気回復を遅らせました。こうしたことが2014年そして19年と相次ぎ、景気が回復しないまま「失われた30年」が過ぎてしまい、膨大な財政赤字が累積してしまいました。 

 積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策とを同時に行うのは容易ではありません。慎重であるのと同時に想定外の事態が発生した際には迅速な政策調整が必要です。1990年以降の日本はそれに失敗し、2013年から世界的にも異例の大規模な金融緩和を行うことになりました。その結果、現在の日本は歴史的な円安による物価上昇に苦しめられています。中国が日本の失敗の歴史をかがみとして正しい政策選択を続けることを期待します。 

鍵となる民営経済 

 民営経済の動向が今年の中国の経済状況を大きく左右すると展望します。 

 「民営経済促進法」が厳格に施行されることで民営企業の信頼感が回復し、民営企業が投資と雇用を増やすことが期待されます。 

 また、地方の融資平台(プラットフォーム)を含む中小規模の金融機関が持つ不動産関連の不良債権が迅速かつ適切に処理されることで、中国の経済状況は来年から好転するだろうと見通します。 

 民営経済の促進が公有経済の既得権と衝突する際の政策の調整が公開された透明な手続きで行われるのであれば、民営経済は急速に回復すると見込まれます。しかしながら1990年からの日本はそれに失敗し、民営企業が公的資金の注入に経営を依存してしまう事態を引き起こしてしまいました。 

 トランプ次期政権は全面的な関税の引き上げと中国を対象とした高関税とを公約しています。その公約を実行するかどうかにかかわりなく、世界最大の貿易国である中国は自由貿易の理念を堅持し、後発新興国に対する関税の完全撤廃を進めることによって貿易の利益を享受することが、中国の景気回復に寄与すると考えます。 

日中経済協力の行方 

 日中経済協力として最初に行うべきなのは、中国がCPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)へ加盟することを日本が積極的に支援し、日本政府が中国の加盟を支援できる政治的な環境を中国側が日本に提供することだと考えます。当然、日本側も中国がそうできるための政治的な環境を中国に提供しなければなりません。 

 また、日本の「失われた30年」を中国が繰り返さないためには、日本の苦い歴史的な経験の詳細を両国間で共有することが必要です。具体的には、中国側が積極的にスタッフを日本に送り込み、日本側の担当者や元担当者や研究者と深く交流することが必要です。また、日本側の担当者や元担当者や研究者を積極的に中国に招聘し、中国の担当者や研究者と深く交流させることも必要です。 

 とりわけ不動産関連の不良債権処理に日本が何度も失敗してきた歴史は現在の中国にとって知恵の宝庫です。日中両国の幅広い分野の専門家たちが不良債権処理について議論を交わし、日本の失敗の歴史を共有財産とすることが、中国の不動産市場の回復に大いに寄与することでしょう。 

 日本と中国との経済関係は極めて相互補完的なのでビジネス面での日中経済協力の余地は大きく存在します。そのためには、日中両国が相手側の企業による自国への直接投資を法律的に保護することを世界に宣言することが必要です。 

 日本には優れた中小企業が多数ありますが、その多くは経営者の後継者が不在なため黒字経営なのに廃業・解散することを余儀なくされています。中国企業が資金だけでなく人材を提供することによって、そうした企業を存続させ、長年蓄積されてきた貴重な技術やノウハウを日中共同の財産とすることができるでしょう。 

「人民中国インターネット版」より2024年12月31日


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