興奮し過ぎたためか、はたまた高い標高のためか、胸がどきどきと激しく脈打ち、呼吸が苦しくなった。しかし、深呼吸することで鶴の群れを驚かせてしまうのを心配して、ひたすら我慢して黒首鶴の数を数えた。「1、2、3……」150羽ほどまで数えたが、空からはまだ次々と黒首鶴が飛んでくる。実に壮観な光景であった。興奮してシャッターを押していると、音に敏感な黒首鶴が顔をあげ、私たちのいるあたりに目を向けた。誰もが息を殺して撮影の手を止めて黙っていると、黒首鶴は再び頭を下げて食べ物を探しだす。
移動中の黒首鶴の群れ まもなくまた別の一群の黒首鶴が飛んできた。慎重に前に近づきながら撮影した。500メートルほどのところまで近づいたとき、すべての黒首鶴が突然頭を上げて私たちをじっと見つめた。鶴の群れの中から驚いたような鳴き声があがった。
その瞬間、最後のチャンスとばかりになりふりかまわずシャッターを切った。一瞬のうちに、驚いた黒首鶴は空に向かって飛び立ち、力強い翼を広げ、あっという間に飛び去った。そんな絶景に見とれ、田野に立ちすくんだまま、遠く去っている黒首鶴を見送った。
車に戻るとすぐに酸素を吸った。いくらか気分がよくなったが、それでも高山病による激しい頭痛が起こった。なにはともあれ、黒首鶴の撮影に成功した時の興奮と喜びを胸に、私たちは奥チベットの中心都市・シガツェに到着した。
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