長江三峡ダム・プロジェクトは世紀に跨る壮大な水利工事であり、その生態と環境への影響は人びとの関心を引いている。国務院は昨年1月25日に「長江三峡の水汚染対策計画」を認可した。これは三峡ダム地区の生態と環境保護に対する国の高度の重視を示している。
昨年、三峡ダム・プロジェクトの各主体工事はすでに掘削段階からコンクリート注入段階に入った。同年、環境保全、水利、農業、気象などの部門が協力してつくった長江三峡ダム地区の生態と環境モニタリング・ネットワークは三峡ダム・プロジェクトによる生態環境の問題に対しての4年にわたる全面的追跡モニタリングを始めた。最近、その結果が国家環境保護総局によって発表された。
モニタリングの結果によると、三峡ダム地区の社会、経済は引き続き急速で、健全で、バランスのとれた発展をとげ、人びとの間で健康の異常は起こらず、大きな災害の後に大規模な疫病が発生したという報告もなかった。自然生態全般が元のままであり、植物の種類が豊富で、ウナギの稚魚など漁業資源にはいくらか回復が見られ、中華チョウザメ、長江カワイルカなど絶滅の恐れのある希少動物は効果的に保護されている。重点工業汚染源の汚染程度がいくらか低下し、三峡プロジェクトそのものは長江本流の水質にあまり影響を及ぼしておらず、本流の水質は良好な状態にあり、年間にあまり変化が見られていない。
しかし、モニタリングの結果が示しているように、人為的活動の影響によって、かつて三峡ダム地区の一部希少水禽が短期間とどまる渡り鳥となり、タキギとして使われる雑木林の面積が減り続け、水と土の流失が深刻であり、ダムの崩壊と地滑りなどの地質的災害が増えつつあり、大きな経済的損失をこうむっている。また、船舶による汚染や廃棄物の不法投棄なども時々起こっており、長江に深刻な汚染をもたらしている。汚染問題を解決するための汚水処理工場、ゴミ処理工場の建設がなかなか進んでいないため、ほとんどの汚水が長江の本流と主要な支流に直接タレ流しとなり、多くのゴミも長江に投棄されるかあるいは長江両岸に積み上げられ、貯水後のダムの水質にとって重大な潜在的危険となる。
自然生態環境
気候
昨年、三峡ダ�地区の気候はほぼ正常で、深刻な水害、干害はなかった。しかし、一部の地区は豪雨による水害をこうむり、春季と秋季に低温冷害が発生した。1998年に長江の全流域で洪水に見舞われた後、三峡ダム地区の降水量は急減するようになり、秋には程度の差こそあれ干害が生じた。昨年年初、三峡ダム地区の降水量がやはり少なく、一部地区の農作物は減産となった。
陸生植物
三峡ダム地区には高等植物が6388種あり、そのうち、希少植物は57種で、全国の14.7%を占めている。同地区には国の重点保護植物が188種存在しており、古木が8000余本あるが、ダムができた後に29本が水没してしまう。
陸生動物
主に絶滅に瀕しているオシドリ、キンシコウおよびその他の希少な水禽がいる。三峡ダムができた後、ダム地区の環境が大きく変わり、上述の動物の生息に影響を及ぼすのではないかとの懸念が浮上している。
漁業資源と環境
昨年の長江三峡ダム地区の天然水産物の水揚げ量は3612トンで、前年比67.16%減った。同年に長江本流の10の重要な水域を対象に行った水質調査から、長江流域の重要な漁業水域はある程度の汚染を受けており、規準を超えた主な汚染物は銅と石油で、主に長江の中・下流の漁業水域に存在することが分かった。
希少水生動物と絶滅に瀕している水生動物
昨年、長江上流の宜賓から木洞に至る区間の長江本流とその大きな支流から採取した魚類の総数は合計107種あり、そのうち、1997と1998の2年にはなかった種類が18種、特有魚類が24種あるという。1997年から1999年にかけて合計31種の特有魚類を採取し、この水域で生息している44種の特有魚類の70.45%を占めている。昨年は、中華チョウザメが同水域で2回も集中して産卵し、その数量は前年よりやや多かった。1997年から1999年までの3年間に、長江カワイルカ33匹(回)、イルカ7489匹(回)を観察した。また、昨年は長江上流でシロチョウザメを間違えて捕獲した記録はなかった。昨年4月4日、合江区間で漁民がチョウザメ一匹を誤って捕獲したが、消毒処理をしてからまた川に戻したということもあった。長江の上流と中流でも臙脂魚と言われる魚を誤って捕獲したことがあり、合計十数匹だった。
農業生態
昨年、三峡ダム地区の19の県、199の郷・鎮に対して行った調査によれば、三峡ダム地区の耕地面積は少なく、農作に適した荒地は多くなく、耕地面積の多毛作作付け面積の比率は高く、穀物が主な作物で、土壌が汚染を受けていない状況であった。
地質的災害
昨年、三峡ダム地区でダム崩壊、地滑り、土石流などの地質的災害が発生したところは450カ所もあり、5億元以上の直接経済損失をこうむった。
汚染物の排出状況
重点工業の汚染源
重慶市管轄区域の工業廃水の排出量は9万220万トンで、処理率は82.89%、基準に達した排出率は66.38%。汚染の最もひどい業種は化学工業原料と化学製品業、食品とタバコの加工業、飲み物生産業、非鉄金属加工業および圧延加工業など。
また、工業廃水を直接長江にタレ流ししている三峡ダム地区の重点汚染企業124社に対し調査を行ったところ、1998年より企業数は14社増え、汚染の範囲はさらに広がっている。工業廃水の発生地区は主に、重慶の主な市街区、江津市、長寿県、ふ陵区、万州区であり、その工業廃水排出量は三峡ダム地区全般の93.9%を占めている。昨年は124社の工業企業の汚水排出量が2億4400万トンに達し、汚染の最もひどい三種の汚染物は、化学的酸素要求量(COD)、アンモニア窒素、りんである。また、三峡ダム地区の工業廃水排出量は1億1700万トン増えたという。
都市汚水
長江に流入する三峡ダム地区の都市汚水の排出口が66あり、汚水排出総量は3億2300万トン。重慶の主な市街区、万州区、ふ陵区は生物化学的酸素要求量(BOD)、COD、アンモニア窒素の主な排出地区である。昨年は66の排出口のうちの10カ所に対し測定を行い、いずれも基準に合っていたといわれている。
工業廃棄物と家庭ゴミ
重慶市の工業廃棄物の発生量は1511万4700トンで、そのうち、危険廃棄物が51万8700トン、製錬による固体廃棄物が57万8100トン、石炭灰が161万9600トン、スラグが260万6500トン、選鉱くずが82万5600トン、放射性廃棄物が0.01トン、その他の廃棄物が200万3500トンである。工業廃棄物の排出量は295万5000トン、家庭ゴミは219万トンで、長江のほとりに積み上げられている家庭ゴミは2170万トンに達しているという。
農薬、化学肥料による汚染
三峡ダム地区の化学肥料使用量は13万2000トンで、1ヘクタール当たりの使用量は526.87キロ。昨年に比べ、化学肥料の使用量はいくらか減ったが、りん酸肥料の使用量は34.1%伸び、土壌構造は改善されたところもあり、窒素、カリウムの流失は減っている。
移動的汚染源
昨年三峡ダム地区で使用された808隻の各種船舶の機関室汚水に対して測定を行い、ダム地区内を航行していた8755隻の船舶の機関室汚水の排出に対し調査を行った。その結果、長江にタレ流しにされた汚水は77万9000トン、処理率は74.1%、汚染物の排出総量は147.14トンで、そのうち、石油類は汚染物排出総量の57.8%を占め、前年より48%増えた。1998年の汚染源は主に客船だったが、昨年は貨物船であった。
昨年に三峡ダム地区で船舶汚染が20回起こり、長江に流し込まれた汚染物は、ディーゼル・オイル11.8トン、ゴミ20袋、汚水100トン近くもあり、前年に比べ、汚染件数は増えていないが、汚染の度合いは強まった。
環境品質
三峡ダム地区の環境モニタリングの内容は長江沿岸都市区間を流れる長江の水質、河岸汚染帯、長江の本流と支流の水質、三峡ダム・プロジェクト現場の汚染が含まれている。昨年のモニタリングの結果は次の通り。
①
三峡ダム地区の川全体の水質はまだ良いが、1998年より少し劣っている。②三峡ダム地区にある12の工業廃水排出口と66の都市生活廃水排出口から排出された汚水は岸に近い局部の水域を汚染し、明らかな汚染ベルトが見られるが、前年に比べ、ベルトの総延長は1.43キロ減少し、都市の水質に影響を及ぼしているベルトの総延長は3.38キロ減少した。③長江の本流と支流の水質は良好であり、三峡ダム・プロジェクトは長江本流の水質に明らかな影響を及ぼしていない。④現場の大気は国の基準に合い、オフィス区、生活区の環境騒音は前年よりやや下がった。
『北京周報』より