しかし、近年来、国際情勢が瞬時に千変万化する状況の下で、とくに「9.・11」事件後、われわれは日本にいくつかの新しい傾向が現れたことに留意している。これらの傾向は中日関係の健全な発展に関わるものであるため、人々の関心を引き起こすのも当然である。
アメリカがテロ攻撃を受けてからまもなく、日本政府は反テロ特別措置法など3項目の自衛隊に対する制約をゆるめ、海外への派兵を実現することに関する法案を打ち出し、臨時国会でこれが可決された。日本政府は関連の法律の制定と改正を通じて、日本の自衛隊がテロに打撃を与えるアメリカの行動に「後方支援」を提供し、法的角度から自衛隊が戦時状態において海外に派兵するための新たなよりどころを探し出した。実際には、今回のアメリカの「テロに打撃を与える」軍事行動の中で、日本は戦後初めて軍艦をインド洋に派遣し、そこでアメリカの艦隊に後方支援を行った。
人びとは日本が「9・11」事件を利用し、「アメリカを支援し、テロに反対する」という名目で、極力「平和憲法」の束縛から抜け出し、専守防衛の方針から離れ、海外に派兵する面で新たな突破を図ろうとしているのではないかと懸念しないわけにはいかない。
その次に、われわれは最近、いわゆる「中国経済脅威論」が日本で台頭しつつあることに留意している。
日本は経済大国であり、中国は発展途上国であるというこの基本的事実は変わっていないにもかかわらず、日本は「バブル経済」崩壊後の「失われた10年」という停滞を経験したことにより、中日両国の状況と地位に明らかな変化が生じ始めた。日本ではこうした変化を「質的変化」とおおげさに言う人も現われた。しかし、現在、中国の経済発展のレベルは60年代前期の日本のレベルに相当するにすぎない。日本のいうところの中国経済による「脅威」は存在しない。
私が日本で特派員を務めていた時の観察によれば、日本は確かに60年代にその時期における状況の変化に適応し、高い経済成長の奇跡をつくり出した。しかし、その後内外の環境に大きな変化が生じたため、日本の過去の一連の有効な制度、政策、措置と方法はその役割を果たせなくなり、多くの有利な条件も失うようになった。われわれはその後、日本が状況の変化に適応する面ともすると受身で、遅れるようになったと言わないわけにはいかない。日本の著名な経済評論家の堺屋太一氏は最近、日本の規格大量生産型の近代工業社会は終わり、知恵の値打ち(知価)が経済成長と企業利益の源泉となる「知価社会」へと「時代が変わった」との認識を持つ必要があると指摘した。しかし、日本政府の認識ははるかに時代から遅れ、時代のテンポについて行けなくなったのである。堺屋太一氏はまた次のように指摘している。「日本は米英が知価革命をしているときに最適工業社会を作った。そのため、90年代になると、まず一周遅れになった。軌道修正し、米英を追いかければよかったのに官僚主導の下に規格大量生産を一段と進め、今や二周遅れになった。98年ごろから、『これはいかん』と方向転換しようとしているが、役人は『いやだ』と従来の正義や価値の尺度を守ろうとしている」。私はこう見ている。現在、日本の経済実体の構造には「バブル経済」の崩壊によって根本的な変化は発生していないが、世界政治の多極化と経済のグローバル化の趨勢が強化され、未曾有の科学技術大革命を経験しつつある背景の下で、日本は世界における激しい競争と厳しいチャレンジに直面しており、苦痛の中で新しい状況の下での活路を求めざるを得なくなった。
しかし、他方では、現在、日本の人々は、中国が世界各地の投資を吸収し、大きな生産拠点となっていることを目にしている。中国はWTOに加盟し、北京は2008年オリンピック大会を開催することになった。中国がめざましく発展するのを見て、日本の一部の人びとはやきもきしたり、落胆したりし、ひいては悲哀を感じるようにさえなっている。彼らは、中国の安価な賃金を目当てに、日本企業が中国での工場設置を速め、日本を産業空洞化の危機に陥らせ、ゆくゆくは、中国との競争の中で、日本が敗けることになろう、と見ている。前にも、日本には「将来、中国はわが国の機械、ブランドなどの輸入、技術導入などを積極的に行い」「工業水準が上がったあかつきには品質優良にして低価格の中国工業生産物がわが国産業界を圧迫することになる」という見方があった。
しかし、『朝日新聞』は今年1月7日に「日中は30年後を見据えて――今日より明日を」をテーマとする社説の中で次のようにを述べている。日本には上記の見方に対し異なった認識を持っている人もいる。彼らは「そうなるのは当然のことであって、わが国はそのような将来に対して今から産業構造面においても、頭脳集約産業育成においてもそれに対処し得る政策を考えてゆかねばならない」と見ている。これらの人びとはまた「最近までは日本人は中国の遅れた部分を見て、まだ大丈夫だと思い上がっていたのではないか。中国の発展は歴史の必然であるし、隣国として喜ばしいことだ。発展する中国と共存共栄できる道を探さなければならない」と見ている。『文藝春秋』今年2月特別号に掲載された経済評論家の尾崎春生氏(日本経済研究センター世界経済研究部長)の論文は次のように書かれている。WTO加盟でさらなる競争力をつけることが確実な中国に対し、日本企業が今なすことは何か。いたずらに中国威脅論に怯える前にまず、企業のグローバル戦略における中国の位置づけを明確にし、中国企業との共生を探る以外にないであろう。そのことが国内産業の競争力を向上させる結果にもなるのだ。具体的には、日本企業に求められるのは第一に、高付加価値の新産業、新技術、新製品の創出に力を注ぎ、中国の一歩先を行くこと、第二は、競争力をつけた中国企業の力を活用して分業体制を作ることである。確かに、ある人が鋭く指摘しているように、中国の経済発展は日本のいかなる脅威にもならず、本当の脅威は、「改革の決意に欠ける日本人自身」である。
小泉首相は今年4月4日に東京で李鵬委員長と会見した際、「改革・開放以来、中国に驚くべき巨大な変化が発生した。今、中国の急速な発展は日本の脅威となる可能性があるという見方がある。私はこの見方に賛成しない。日本経済にも高度成長期があり、このような発展は日本にプラスとなるだけではなく、その他の国にもプラスとなり、相互の経済協力拡大のチャンスを与えた。中国の発展に対しては積極的に評価すべきだ」と述べた。私は小泉首相のこの言葉は見識のあるものであり、適切なものでもあると思う。
その次に、私は今後、中日友好協力関係を発展させるとき、視野を二国間の協力から地域協力に拡大することがますます重要なことになっていると思う。
中日間の協調と協力は東アジア地域の協力を絶えずより高い次元に発展させることを促すに違いないと同時に、中日双方に対してもプラスとなる。近年、中国と東南アジア連合(ASEAN)との関係はかなり大きな発展を遂げ、とくに昨年末、中国とASEANは10年以内に自由貿易地域を設置することで合意した。それで、ASEANにおける日本の地位にひびくのではないかと心配する日本人が現われ、いささか喪失感をも生じることになりかねないようだ。しかし、中国はこの地域で日本とイニシアチブを争おうとする気持ちはないので、日中両国がイニシアチブを争う問題も存在しない。実際には、戦後の日本は長年東南アジアで力を入れてきたし、ASEANに従来からの経済利益と重要な政治的影響力もある。今年1月、小泉首相はASEAN5ヵ国を歴訪し、この訪問を通じて、日本の影響力を盛り返そうとした。今日、日本は以前よりさらに積極的な姿でASEAN地域との協力に力を注いでおり、10+3の提携を基礎とすることを堅持し、中国が地域協力の中で積極的な役割を発揮することを認め、中国、日本、韓国3国の提携の強化を通じて東アジアにおける提携推進を望んでいる。そのため、ある意味から言えば、中日間の望ましい形の競争と地域協力の度合いをともに強めることは、東アジア地域協力の発展を促すことに役立つ。日本とASEANとの関係の発展は地域の繁栄と安定にプラスとなり、協力の発展にも役立つ。言うまでもなく、当面、中日両国はいずれも単独で地域の主導的役割を果たすことはできず、双方とも地域協力の中でお互いに必要とするものがあり、力を借りる必要があると言える。李鵬委員長は今年4月に日本を訪問した際、今日、アジアの地域協力は急速に進展している。中日両国はともにアジアの重要な国家であり、近隣でもあり、経済の相互補完性が大きく、協力には確固とした基礎と明るい展望がある。われわれは日本側とともに努力して、この地域の各国間の平等互恵の協力を積極的に促し、アジアの振興と繁栄を推し進めていきたいと思っていると述べた。
(作者は中華人民共和国文化部元副部長、中華日本学会会長)
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