中国の飛躍的な発展について議論すると、その目覚しさに驚嘆する声が多く聞こえる。しかし、筆者は友人達と検討し、いわゆる「中国の飛躍」は、これまで主に経済総量についてのみにとどまっており、国民個人にスポットをあてた場合、「中国の飛躍」が現実的とは言えないという結論を導き出した。たとえば、中国の貿易黒字は世界トップクラスにあるが、第二次世界戦争後、日本とドイツの輸出ピーク時には、両国の国民1人当たり輸出額はいずれも8000ドルを超え、1人当たりの貿易黒字高は1500ドルを超えていた。中国の人口をドイツの15倍として計算すると、今後の中国の貿易黒字は最大で2兆ドルを上回っても不思議でなく、2005年の貿易黒字1千数億ドルなど、ほんの少し霧雨が降ったようなものだ。(文:北京科技大学管理学院教授・趙暁)
中国の貿易黒字は増え続けるのか?答えはイエスだ。ポイントは、中国の国民1人当たり貿易黒字額はきわめて小さく、平均100ドルにも達していないことにある。
このような視点から中国の経済成長を考えると、中国の飛躍はゴールに程遠いことがわかる。中国は膨大な成長エネルギーを蓄え続けている。経済成長には周期性があり、成長率の変動もあろうが、長期的には成長の可能性が極めて大きい。
中国の経済成長の「エネルギー」は、国民1人当たりの平均収入レベルが先進諸国よりはるかに低いことに最もはっきりと反映されている。中国の都市部労働者の平均年収は2003年、約1万4040元(1708ドル相当)だった。年間増加率を10%とすると、30年後にやっと米国の2003年レベル(1時間当たり17.75ドル)に近づくことになる。中国6%、先進国3%という現在の賃金年間増加率を加味すると、中国が先進国に追いつくのは100年先のことになる。
この期間、為替レートの上昇は避けられないだろう。しかし、人民元が2030年までに3倍上昇したとしても、同年の中国と米国の賃金格差は10倍あると予想される。
収入格差の早期縮小を難しくしている原因は、長期にわたる「冷戦」にあった。中国のマクロ経済学会の王建・事務局長は次のように指摘している。
冷戦によって南北国家の経済が長く断絶状態となったため、南北国家間には数十倍もの生産要素(土地、労働、資本の生産三要素)の価格差が生じ、この巨大な価格体系格差が中国をはじめとする発展途上国が先進国に追いつく道のりを伸ばした。一方、従来の為替レート調整という手段による貿易収支バランスの回復はまったく不可能となっている。為替レートを調整しても、貿易当事者双方の相対物価をほんの数十パーセント調整することしかできない。かたや生産要素の価格差による先進国と発展途上国間の物価格差は数千パーセントだ。為替レートの変動幅が10%未満ならば、生産要素価格の格差は0.1%も変わらず、レート変動が10%以上でも1%にも満たない。つまり為替レート調整というやり方では、先進国と発展途上国間の貿易不均衡状態を是正することは不可能だという結論に達する。
労働コスト以外に、生産要素としての地価格差是正もいまだ不十分な状態にある。たとえば、1人当たりベースで計算すると、米国が工業化の発展に運用可能な耕地資源は中国の25倍以上あるが、中国都市部の地価はここ数年で一気に上昇しているにもかかわらず、米国都市の地価格差は平均で3倍以上ある。
これら生産要素の価格差は、中国が先進国に対する産業競争での優勢を今後20年あまり維持することを歴然と物語っている。また、先進国にとって、中国への産業シフトは引き続き避けて通れない道となろう。
中国の消耗品類製品はいま、欧米先進国市場をほぼカバーしている。だが、先進国では消耗品製造業は製造業全体の3分の1を占めるにすぎなく、残り3分の2を占める重工業には、大掛かりな産業シフト現象がまだ見られない。先述した生産要素の大きな価格格差から、今後10~15年以内に、先進国の金属工業、化学工業、機械設備製造業、さらには自動車製造業や飛行機製造業に至るまで、中国への大規模なシフトは避けられないとみる。中国はこれらの製品を、現在の国際価格の3分の1から4分の1の価格で、国際市場に売り出すことができるだろう。
言葉を変えれば、中国の国際産業シフトのピークは今や過去ではなく、これから先のことであると言える。中国の重化学工業は今後発展し、消耗品に次いで家電などの各産業も国際市場へ進出する。中国の飛躍が実際に本格的に進むのは、これから先のことになる。「中国の飛躍」は、たった今スタートしたばかりだ。
「人民網日本語版」2006年9月27日