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japanese.china.org.cn |12. 05. 2020

新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?

タグ: 都市医療

周牧之 東京経済大学教授


 編集ノート:豊かな医療リソースを持つ大都市が、なぜ新型コロナウイルスにより一瞬で医療崩壊に陥ったのか?グローバリゼーションそして国際大都市の行方は?雲河都市研究院による「中国都市医療輻射力2019」が発表されるにあたり、周牧之教授が解析と展望を寄せた。


 中国都市医療輻射力2019


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 「中国都市総合発展指標」に基づき 雲河都市研究院が中国全国297の地級市以上の都市を網羅した「中国都市医療輻射力2019」を発表した。北京、上海、広州、成都、杭州、武漢、済南、鄭州、南京、太原が同輻射力の上位10都市にランクインした。天津、瀋陽、長沙、西安、昆明、青島、南寧、長春、重慶、石家庄が第11位から20位、ウルムチ、深圳、大連、福州、蘭州、南昌、貴陽、蘇州、寧波、温州が第21位から30位を占めた。


 輻射力とは広域影響力の評価指標である。医療輻射力に富むとして評価されたのは都市の医師数と三甲病院(トップクラス病院)数である。輻射力ランキング上位30位の都市に全国の15%の医師、30%の病床と45%の三甲病院が集中している。中国の医療リソース、とりわけ先端医療機関が、医療輻射力ランキング上位都市に集中している状況が顕著である。ランキングの前列にある都市は良質な医師と一流の医療機関に支えられ、市民の衛生と健康を担うだけでなく、周辺地域あるいは全国の患者に先端医療サービスを提供している。


 疑問なのは、なぜ武漢のような医療リソースが豊富で医療輻射力に富んだランキング上位都市が、突如として現れた新型コロナウイルスにしてやられ、医療崩壊状態に陥ったのか、である。


 都市は繰り返し起こり得る流行疾患の襲来に、どう対処していくべきか?


 新型コロナウイルスが世界の都市医療能力に試練を


 武漢は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は27カ所の三甲病院を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する名実ともに「中国都市医療輻射力2019」全国ランキング第6位の都市である(2018年同ランキング第7位から1位上昇)。


 しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。


 国際都市ニューヨークの医療キャパシティも同様、新型コロナウイルスに瞬く間に潰された。4月8日に「緊急事態宣言」をした東京都も目下、医療システムの崩壊の危機に直面している。新型コロナウイルスはまさに全世界の都市医療能力を崩壊の危機に晒している。


 新型コロナウイルス禍による都市の「医療崩壊」は、以下の三大原因によって引き起こされた。


 (1)医療現場がパニックに


 新型コロナウイルス禍のひとつの特徴は、感染者数の爆発的な増大だ。とりわけオーバーシュートで猛烈に増えた感染者数と社会的恐怖感により、大勢の感染者や感染を疑う人々が医療機関に駆け込み、検査と治療を求めて溢れかえった。


 病院の処置能力を遥かに超えた人々の殺到で医療現場は混乱に陥り、医療リソースを重症患者への救済にうまく振り向けられなくなった。医療救援活動のキャパシティと効率に影響を及ぼし、致死率上昇の主原因となってしまった。さらに重大なことに、殺到した患者、擬似患者、甚だしきはその家族が長期にわたり病院の密閉空間に閉じ込められ、院内感染という大災害を引き起こした。


 1千人あたりの医師数でみると、イタリアは4人で、医療の人的リソースは国際的に比較的高い水準に達している。しかし新型コロナウイルスのオーバーシュートで医療機関への駆け込みが相次ぎ、医療崩壊を招いた。イタリアのミラノ市にあるロンバルディア州の感染者数は3月2日に1千人を突破、同14日に10倍の1万人へ、3月末には4万人、5月上旬には8万人へと膨れ上がり、大勢の重症患者が逸早く有効な治療を受けられないまま置かれた。5月11日現在、イタリアの感染者は21.9万人、死者数は3.1万人、病死者率(死亡者数/患者数)は13%と高い。


 アメリカ、日本、中国の1千人あたりの医師数は、各々2.6人、2.4人、2人であり、医療の人的リソースはイタリアに比べ、はるかに低い水準にある。


 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人あたりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカでも顕著だ。ニューヨーク州の1千人あたりの医師数は4.6人にも達している。


 しかし武漢、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。5月11日までに、中国の新型コロナウイルス感染死者数の累計83.3%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への駆け込みによるパニックの犠牲者だと考えられる。


 東京都は人口1千人あたりの医師数が3.3人で、これは武漢より低く、ニューヨークと同水準にある。日本政府は当初から、医療崩壊防止を新型コロナウイルス対策の最重要事項に置いていた。新型コロナウイルス検査数を厳しく制限し、人々が病院に殺到しないよう促した。


 目下、こうした措置は一定の効果を上げ、院内感染によるウイルス蔓延をある程度抑えた。また重症患者に医療リソースを集中させて致死率を下げ、5月11日現在で死亡率を4%に抑え込んでいる。人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数でみると、5月11日現在、スペインの56.9人、イタリアの50.5人、フランスの40.4人、アメリカの24.4人と比べて日本は0.5人に留まっている。これまでのところ日本は医療機関でのパニックを封じ込め、医療崩壊を防いでいると言えよう。


 しかし、検査数の過度の抑制は、軽症感染者及び無症状感染者の発見と隔離を遅らせ、治療を妨げると同時に、莫大な数の隠れ感染者を生むことに繋がりかねない。軽症感染者、無症状感染者の放置は日本の感染症対策に拭い切れない不穏な影を落としている。緊急事態宣言に伴い、日本も政策を見直しつつあるものの、検査数抑制から検査数拡大への動きはまだ極めて遅い。

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