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外国小説賞に輝いた大江健三郎 その人と作品
発信時間: 2009-08-21 | チャイナネット

しかし近年来、この現象は大きな変化を遂げます。外国文学研究所は、世界文学の至宝ともいえる大江文学を中国へ紹介するために、中国の文芸界へは信頼できる参考資料を提供し、中国の読者へは信頼できる翻訳本を提供する計画を立てました。そしてすぐに責任者を決めて、大江文学を重点的に研究し、翻訳し、研究所内の日本文学、フランス文学、イギリス文学、ドイツ文学、ロシア文学、スペイン文学、イタリア文学の学者に、それぞれの専門から大江作品中の関連する内容を解読することを試みました。

その一つめの成果として、『大江健三郎研究』論文集が出版されました。またそれと同時に、大江氏の近年の作品も翻訳出版されていきました。このようにして、読者が大江作品を読み解くための土台は作り上げられていき、非常に複雑で難解である大江作品を読み応えのあるものへと引き上げました。このことが大江作品が近年、中国で読者に広く読まれるようになった主要な原因と言えるでしょう。

またその一方で、大江作品の中に、しだいに中国的な要素が現れてきたことも特筆すべきことです。

とくに大江氏本人およびその作品中に流れる魯迅の「横眉冷対千夫指、俯首甘為孺子牛」(「眉を横たえて冷ややかに対す千夫の指、首を俯して甘んじて為る孺子の牛」)の精神は、おそらく中国の読者が大江作品を好む重要な原因の一つに数えられます。大江氏は日本の魯迅、現代の魯迅と言えるのではないでしょうか。

中国を代表する作家、莫言さん、鉄凝さん、そして若手作家の安妮宝貝さん、張悦然さんらは大江作品を愛読し、また氏を尊敬しているという。 

『大江健三郎 作家自身を語る』(中国語版)の序文に、中国作家協会主席の鉄凝さん、世界的に著名な作家の莫言さんが、次のような言葉を寄せています。

「大江氏は、彼自身が創り上げた文学と崇高な精神、そして比類なき厚さと深みをもって日本現代文学に燦然と輝き、斬新な様相を呈している。それと同時に、彼の形象は民族を超え、人類すべての文化的な財産となった。時が流れ、大江文学の内在価値と氏の社会に対する発言の歴史的意義は、作品を一層豊かなものにするだろう」(鉄凝さん)

鉄凝さん(左)、大江氏(中央)と話す筆者(右)


「大江氏は一人の正直な人間である。彼は本質的な是非をはっきりと区別し、決して曖昧にはしない。また、彼は国家や民を憂い、天下をもって己の任とし、自分の作品と世界の重大な問題とを重ね合わせる作家である。これにより、彼の文学は強烈な現代性と現実性を兼ね備え、彼の作品は文学を上回るものとなった」(莫言さん)(出典:『大江健三郎口述自伝』、新世界出版社、2008年刊)

女性ベストセラー作家の安妮宝貝(アニーベイビー)さんや張悦然さんも大江作品を愛読しており、次のように語っています。

「自分が好きな作家はとても少ないのですが、大江氏は例外です。壮大な執筆目的と厳粛な執筆態度は氏を尊敬に値する作家に押し上げました。私は近年発表された『大江健三郎 作家自身を語る』『200年の子供』『おかしな二人組』の三作品を読んだだけですが、氏は読者の反応に流されることなく、独特の詩的文体や独自の文学世界をを打ち立てています。一人の作家として、私はその作品から強烈な共感と啓発を覚えました」(安妮宝貝さん)

「大江氏は自己の限りある生命で人類の悲惨を受け止め、苦境に陥った人々の救済を試みています。『おかしな二人組』三部作は、古代ギリシャの悲劇を連想させます」(張悦然さん)

1月16日の午後に行われたサイン会には、大人に混じって制服姿の中学生や大学生ら若い読者が駆けつけていた。一般的に難解だと言われる大江作品だが、中国の若い読者はどのように受け止めているのだろうか。またどのようにして触れているのであろうか。

先ほど名前を挙げた安妮宝貝さんや張悦然さんは、1970年、80年代生まれの若い作家です。彼女たちの意見は、中国の若い世代を代表した意見とも言えるでしょう。

西単図書大廈で行われたサイン会には、多くのファンが訪れた


私の所属する東方文学研究室に中高生の子を持つ同僚が二人います。その子たちも大江作品を読んでおり、そのうちの中学生の子は、大江ゆかり夫人が挿絵を描いた『「自分の木」の下で』『ゆるやかな絆』『恢復する家族』の三作品が好きだそうです。また高校生の子は『大江健三郎 作家自身を語る』を傾注して熱心に読んでいたそうで、その子の母親が語るには、理解半ばで読み終わったにもかかわらず、作文の授業が苦手だった子が文を書くことを好むようになり、自然と作文の点数も高くなったとのことでした。

北京大学出版社より出版された文科の教科書に、大江文学に関する章がちゃんと書き込まれています。そして北京大学付属中学校でも、大江氏の作品数点を、参考書に組み込む計画があるそうです。近い未来に中国の学生や院生らをはじめとする若い世代にも、大江文学がますます読まれていくことを推測できるでしょう。

 

「人民中国インターネット版」より2009年8月21日 

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