729声工場の脚本ミーティング(写真提供・729声工場)
中国アニメの台頭が活躍後押し
子どもの頃からアニメファンだった阿傑さんが最もやりたかったのは、もちろんアニメ作品の吹き替えだった。しかし、プロになる前の数年間で吹き替えたアニメの数は決して多くなく、その多くはテレビドラマだった。これに関して、彼の印象に残っている出来事がある。2016年に専門の声優事務所「729声工場」を友人と共同設立した阿傑さんは、経験を得るために日本の声優事務所を訪ねた。その事務所の社長に初めて会ったとき、中国で主にどのような作品のアフレコをしてきたか聞かれた彼は、テレビドラマと答えた。すると社長が驚いたように「(中国では)テレビドラマにアフレコが必要なんですか」と聞くので、彼も驚いて「(日本では)テレビドラマはアフレコしないんですか」と聞き返した。
中国では国内ドラマを吹き替えることが常態化している。声優は常に国内ドラマ、海外映画、アニメ、ゲーム、ラジオドラマなどの仕事をいくつもこなす。こうした仕事は阿傑さんにとって上も下もなく、仕事が多くもらえるところで吹き替えをするだけだった。10~14年まで、阿傑さんは毎年、テレビドラマ12~20作品の吹き替えをしたが、テレビアニメは3、4作品のみだった。しかし中国のアニメ作品の数が増え続け、質も高まるにつれ、15年からアニメのアフレコの仕事が徐々に増え始め、毎年7、8作品のアニメを担当できるようになった。
阿傑さんはこう説明する。「日本は1980〜90年代にアニメの高度成長期を迎えました。初めは有名な声優が数人だけで、彼らの声がさまざまな作品に繰り返し登場しました。その後、こうした状況は少なくなりましたが、それはスターが減ったのではなく、声優の数が増えたのです。今や中国のアニメもまさに爆発的な成長期にあり、声優に多くの機会をもたらしています」
729声工場は中国で大きな成功を収めている声優事務所の一つとして、ここ数年多くの人気若手声優を輩出している。彼らのファンは映画俳優のファンと同様、自分の好きな声優が出演する番組を応援し、関連グッズを購入し、ライブ放送を見る。729声工場が2018年に小規模のファンミーティングを開催したところ、1枚560元のチケット400枚がネット発売開始後数秒で売り切れたのには、阿傑さんも非常に驚いた。
良好な市場の反響と人々の認知度によって、中国の声優業界は長い間待ち望んだ発展の好機を迎え、アフレコやアニメが好きなより多くの若者がこの業界に足を踏み入れられるようになった。729声工場が日本のような声優養成計画を打ち出した時には、1期20人の受講生の募集に500人余りの応募が殺到し、ここからも若者のあふれる熱意が十分に見て取れる。受講生は2カ月間の研修を受け、優秀と認められた者は実習段階に入り、さらに事務所と契約を結べる可能性もある。729声工場はすでに第3期の研修コースを開設し、60人余りの受講生のうち10人が正式に729声工場所属の声優となり、一部はすでに業界内で少し名が知られている。
阿傑さんが中国吹き替えネットに登録した当時、掲示板には1日20人余りしかアクセスしていなかった。それが今では、729声工場がウェイボーにラジオドラマ作品を発表すると、1000以上のコメントがつく。吹き替え(アフレコ)という少数派の内輪の楽しみが徐々にメジャーになり、注目されるようになっている。これはおそらく阿傑さんが最も望んでいたことだろう。(高原=文 黄准=写真)
人民中国インターネット版 2021年5月6日